こぶしの里牧場交遊会発足

 学問的に表現すると「植林地放牧」という放牧形態になるそうである。まだまだ数少ない牛の放牧を行っているのは、中央畜産会の経営情報やこのコーナーでも紹介した山口県防府市の山本さん(51歳)。
 現在黒毛和種の繁殖用雌牛10頭、育成牛3頭、子牛6頭を飼育している自称林業家で、植林された山林10haと水稲110aの複合経営である。
 山本さんの自宅は、防府市の北部にある久兼地区という山間の一番奥にあり、自宅から見渡せる山は全て自分の所有地という環境にある。本人いわく、先祖は平家の落人だとか。林業について、専門外のコンサルタントであるが、実際に山を歩いてみると、よくこれだけの苗木を植えたものだと感心する。そもそも、歩いている道から自分でユンボを使って、切り開いたそうで、その根気には頭が下がる思いである。
 そんなタフな山本さんだが、さすがに、夏の下草刈だけは一人では出来ず、雇用に頼っていたが、牛の林間放牧を試みたところ、牛たちの下草刈効果に感心し、現在に至っている。
左の写真を撮ったのは8月であり、人が歩いている所は、牛が歩いている場所になる。真中にある柵は猪避けのもので、牛も入れないため、雑草が生い茂っている。牛が放牧されているだけで、人間も山へすんなり入れるようになり、やぶ蚊もほとんど居ないのがまたうれしい。
右の写真は、山の中腹当りで草を食んでいる牛である。この場所は、道を作るため、ユンボで削ったところで、2年前は後ろの崖のように、真砂土と石だけであった。山本さんは真砂土を牛床に使っており、適度に黒くなった頃にまた削ったところへ戻すのである。そうすると、草が生え、写真のような状態になるのである。
 ちなみに、放牧してあるのは、いわゆる廃用された繁殖雌牛であり、成牛市場で安く購入したものである。それでも、放牧により、繁殖能力が回復し、かなりの確率で受胎し、子牛も適当な値段で、出荷できるそうである。
 
  また、ここでは、4月上旬に辛夷の花が咲き乱れ、2月から6月にかけて、やぶつばきが方々で赤い花を咲かせる。もともと生えている木を残しながらの植林は、本来ならいけないらしいが、あえて残しているところが、山本さんのやり方であり、それがあるから、多くの人がここを訪れるのである。
 昨年からは、山の頂上にある2.5haの雑木を切り開き、シバ草地の造成を開始した。その時に、(社)日本草地畜産協会から低投入型肉用牛展示牧場として指定され、写真にあるような看板が県道沿いを含め3箇所設置され、どなたでも山本さんの山を体験できるようになった。


 平成12年8月19日、山本さんと交流のある有志が集まり、「辛夷の里牧場交遊会」が発足した。この日集まったのは、山本さんの山でいろんな研究を試みる大学教授。山への牛の放牧を広めたい県職員。自分の山で放牧をやりたい農業高校の先生。都会の子供達に自然を体験させたい少年自然の家職員。山本さんと気の合う地元の農家。山への牛の放牧に興味のある団体職員など、山本さんがいなければ接することの無かったかもしれないNGO集団である。
 この日は、「牛を開放することが、人を解放する」を理念に、
@山本さんのような経営を広める手助けをする。
A辛夷の季節などに多くの人と交流をする。
B学問研究の場として、活用する。
C林業、放牧、米作りなどを体験する。
 といった目標が夜遅くまで語られ、最後に決まったのが「こぶしの里牧場交遊会」いう名称である。今後の活動については、またこのコーナーで!(2000.8.19.清水誠)

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