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牧場体験‐農畜産業の発展と地域貢献

藤井 朋子

体験受け入れについて

 畜産農家では、昔から地域の人々の要望を受ける形で体験の受け入れを行ってきた。その多くが畜産公害への対応も含め、畜産をもっと理解してほしいという願いからボランティア活動として長年行ってきたものだ。
最近、食農教育・総合的な学習の一環として農業体験学習が注目されている。それにより、依頼される体験内容の種類や時間も増えてきているようだ。

藤井牧場の例

 藤井牧場でも、これまで多くの体験を受け入れてきたが、平成11年に初めて総合学習という形で、小学1年生の生活科を週1回、10月から3月まで半年間受け入れをした。それまでは大体スケッチか牛の見学、約1時間の体験で内容的に比較的簡単であった。しかし、これが授業となるとまるで状況は変わった。田でのワラ収穫は、大型機械の間を縫うように子供たちが歩き回る。畜舎の掃除とブラッシングでは、大きな牛の間で、小さな子供達が作業する。体験内容も毎回変わり、子供たちも次第に牛に慣れ、逆に目が離せなくなる。そして、次から次へと質問してくる。同じ体験受け入れでも、労力的にも精神的にも非常にエネルギ−を要する。また担任の先生も、体験時間のやりくりや、長期的な学習計画の作成、費用の捻出等、多くのご苦労がある事も知った。

体験中の子供たちの様子
乳搾り体験

体験受け入れの実態

 平成14年8〜9月山口県が実施した「酪農体験学習に関するアンケ−ト調査(回収率47,6%)」によれば、体験学習の受け入れ経験のある農家は55%あり、訪問者は小・中学生が多く、内容は牧場散策・スケッチよりも搾乳・給餌・掃除等の作業体験が多い。また、体験を受け入れたことのない農家の63%が、その理由に<余裕がない>ことをあげている。
また、全国酪農家の受け入れ実態調査(H14年4〜9月・酪農教育ファ−ム推進委員会)によると、訪問形態は遠足よりも移動教室や総合的な学習・生活科などの教科での体験が多い。<受け入れてよかった事>は体験者が喜んでいた、交流の輪が広がった事で、<困った事>は訪問者数が多く、スタッフが不足、体験者や引率者の態度が悪い、体験者による機械・器具破損、アレルギ−・ケガ・病気の発生、トイレ・手洗い場の不足、乳量低下・乳房炎・下痢等で、中には搾乳体験に使った牛が廃用になった深刻な報告も見られる。
これらの調査から多くの農家が体験を受け入れ、作業をさせている事がわかる。訪問側も農家側も体験学習で喜びを感じる一方、体験受け入れを負担に感じる農家も少なくない。また、受け入れ農家は体験で生じる様々なトラブルや問題に悩んでいる。

農畜産業の発展と地域への貢献

 従来畜産農家の体験受け入れは、地域の農畜産業への理解を深める目的でボランティアとして行われてきた。そして受け入れにおいて、訪問者のマナ−の悪さや物損、病気や怪我、手洗い施設の不足、人手不足、家畜の故障等、さまざまなトラブル・問題の対応に悩んでいる。
体験学習の社会的ニ-ズの高まりは畜産現場の理解促進・地域への貢献と考えるべきだろうが、持続的な農畜産業の発展を考える時、体験学習について、もっと時間をかけて農家と教育現場、行政が互いに意見や問題点を出し合い、情報交換する必要が生じてくる。
平成15年1月29日、山口県において多くの人々のご尽力により「第1回酪農体験学習研究会」が開催された。山口県のこの取組みは全国的にも注目されており、農家の体験学習受け入れが地域に貢献し、ひいては農畜産業の発展につながる事を期待している。

新南陽市 酪農家

 

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