水谷 信義
私は昨年の4月から畜産基盤再編総合整備事業により200頭規模の経営を目指して萩市の木間で新規に酪農を始めた。経営について学ぼうと就農前に1年程大型経営をしている酪農家で研修して、その後実家を手伝いながら施設の完成を待った。頭の中は夢でいっぱいになっており、これから様々な困難に突き当たるということはある程度は予想していたもののあまり気にしていなかった。経営を開始して約1年が経つが今思えば自分はなんと甘かったのだろうかと思う。まるで長旅に出るのに日帰り旅行に行く用意しかしていない人のようであった。繋ぎ飼いからフリーへ、個体給餌から不断給餌へ、個体管理から群管理へと飼養形態を変えていく中で自分がどれだけ酪農に関して無知だったのか、殊更経営に関しては素人でしかないことを思い知らされた。今まで父の経営をはたから見ていて、もっとこうすればいいのにとか何故こんなことをするのかと好き勝手なことをいってきたが、いざ自分がその立場になってみるとどれだけ「経営」が難しいのかがわかる。就農して約1年、ようやく経営のスタートラインに立った気がする。昨年は37頭からスタートし、約80頭の導入をした。少しでも早い立ち上がりをと考えたからであるが、生みがかなり重なっていたため、どたばたした。幸いあまり事故はなかったが、もっと注意していれば防げた事故を何度か経験した。また、酪農の要である繁殖にもかなり悩まされている。今のところ関係機関からの指導のおかげもあり少し落ち着いたがまだまだ気の抜けない状態である。ある酪農家の方に「頭数にこだわりすぎるな、本質を見落とすぞ。1頭1頭を大事にしてその能力を十分に引き出すことを考えなさい」とれたことをよく思い出す。この言葉をいつも心において経営を考えていこうと思う。
現在、主な労働力は私、妻、義兄夫婦、父母で切り盛りしている。人数としても十分に恵まれている。特に妻には感謝している。非農家の出身で牛には触ったこともなかったが今では子牛の育成、事務処理を主になってやってもらっており、子牛に関しては私よりも一生懸命にやってくれている。私は多頭経営という夢に多くの人を巻き込んでおり、その責任は大きい。その責任を負っていく中で1つ1つ経営者としての自覚と技術を身に付けていきたいと思う。そのためにもこれからも萩農林事務所、山口県畜産振興協会、県酪等の関係機関に引き続き指導をしていただきたいと思う。また様々な酪農家の方と情報を交換して経営の向上につなげていきたい。「夢を叶えるのに困難は必需品だ」という父の口癖をいつか私も笑って言えるようになりたいものである。
萩市木間 酪農経営