飼料イネの採食性

                
                        山口県畜産試験場 竹下和久
 
1 はじめに
 飼料イネは水稲の栽培技術や機械が利用でき、また、一般の畑転作が困難な湿田ほ場でも取り組め、転作作物として注目されています。
 畜産農家においても自給飼料増産の一手法として期待されており、そのためには飼料イネに適したサイレ−ジ調製方法給与試験や貯蔵性から検討する必要があります。
 そこで、当場において飼料イネのサイレ−ジ調製方法の違いがその保存性と黒毛和種繁殖牛における採食性への影響について検討した結果を紹介します。
 
2 収穫時期の異なる飼料イネの一般成分 
 収穫時期が出穂後20、30、40日と異なる飼料イネ(クサノホシ)を小型ロ−ルベ−ル体系により、密封しその後の経時変化を表1に示します。また、同様にそれらのサイレ−ジのpHの推移を図1に示します。 収穫時期の異なる飼料イネサイレ−ジは、それぞれの一般成分ではほとんど変化がみられなかった。しかしながら、収穫時期によって粗蛋白質、粗繊維、粗灰分の割合は収穫時期が早い方が多い傾向にありました。サイレ−ジのpHですが、小型ロ−ルベ−ル体系では、pHが密封始めはpHが6程度で高く、半年を超えるくらいに5程度に下がってくる傾向にありました。
 1年経過したサイレ−ジもカビ等の変質もなく、牛の嗜好性もよく、飼料イネサイレ−ジは1年間は十分保存ができることが示されました。    
図1 飼料イネサイレ−ジのpHの推移
表1 収穫時期の異なる飼料イネの水分、pH及び一般成分の経時変化
  サイレ−ジ    密封後 水分 pH      
  調製形態    日 数 (%)         
サイレージ
調整形態
密封後日数 水分
(%)
 PH 一般成分 乾物中(%)
粗蛋白質 粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
収穫時(出穂後20日) 58.9 5.2 2.1 50.3 28.9 13.6
小型ロ−ルベ−ル   60日
120日
180日
56.3
57.5
58.0
 6.46
 6.50
 6.66
6.5
6.7
6.8
  2.1
  2.3
  2.3
47.2
46.9
46.2
 30.9
 31.1
 30.7
 13.2
 13.0
 14.0
収穫時(出穂後30日) 64.0   5.5   2.2 47.6  30.3  14.3
小型ロ−ルベ−ル  60日
120日
180日
62.5
57.4
61.7
 6.32
 6.44
 5.35
5.7
5.6
5.9
  2.2
  2.2
  2.1
51.7
50.8
53.0
 28.3
 28.8
 27.0
 12.2
 12.7
 12.0
収穫時(出穂後40日) 61.1   5.1   2.1 48.9  48.9  14.8
小型ロ−ルベ−ル  60日
120日
180日
53.7
52.5
54.3
 6.42
 6.26
 5.43
5.3
5.3
5.3
  1.9
  2.1
  1.9
58.6
57.2
56.7
 23.0
 23.8
 24.8
 11.2
 11.6
 11.4
3 飼料イネの嗜好性
 飼料イネをカッタ−で細断後ビニ−ル袋に密封した「ビニ−ル袋サイレ−ジ」、小型ロ−ルベ−ル体系により密封した「小型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」及び中型ロ−ルベ−ル(フレ−ル型ダイレクトカット)体系により密封した「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」の採食性を黒毛和種繁殖牛を用いて、一対比較法により調査した結果を図2に示しました。 サイレ−ジ調製別の嗜好性は、「小型ロ−ルベ−ル」>「ビニ−ル袋ロ−ルベ−ル」≒「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」となりました。
写真1 調製方法の異なる飼料イネサイレ−ジ
(左 中型ロ−ル 中 小型ロ−ル 右 ビニ−ル袋)
図2 サイレ−ジ調製別の嗜好性
 
表2 自由採食量
1日1頭当たり(kg/日・頭)
乾 物 原 物
中型ロ−ル 6.92  17.57
注)原物の水分を60.6%として計算
4 自由採食量
 嗜好性の最も劣った「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」の自由採食量を嗜好性試験と同様の牛を用いて調査した結果を表2に示しました。「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」の自由採食量は乾物で6.92kgでした。
 飼料イネサイレ−ジのみを給与した場合、体重500kgの黒毛和種繁殖牛の維持要求量は乾物で6.54kgですので、嗜好性の劣った「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」を維持要求量以上は採食できることになります。
 これらのことから、サイレ−ジ調製では「小型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」の嗜好性が最も優れますが、1日に食べる量には嗜好性の劣る「中型ロ−ルベ−ルサイレ−ジ」でも十分給与が可能であることが分かりました。
 しかしながら、飼料イネを給与する場合には、品質の良いサイレ−ジを調製、給与することはもちろんのこと、初めて食べる牛には馴致することが望ましい。また、給与前には水分含量を測定し、原物中の養分を正確に把握した上で給与することが大切です。

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