自給飼料増産による規模拡大を目指す酪農後継者の取り組み

山口県畜産振興協会 清水 誠

はじめに

 山口県西部に位置する豊北町は、県内では規模の大きい酪農が集中しているところである。草地を利用した自給粗飼料の生産を重視する経営が多いことと後継者が育っていることが特徴である。
 町内阿川地区で畜産基盤再編総合整備事業に取り組み、新規に牛舎を建て替えて規模拡大を行った酪農後継者、白石和幸さんの取り組みを紹介する。

就農の経緯と経営の特徴

 白石君は平成8年、北海道の酪農学園大学を卒業後、豊北町へ帰省し、父親の経営へ参画した。当時の経営規模は経産牛30頭であり、草地と水田合わせて延べ830aを活用した自給飼料主体の経営であった。大学時代は、卒業後、北海道で長期研修をするかヘルパーになることも考えていたが、数年後に山口県でも公共事業に取り組み、大型畜産経営への拡大が可能になることを聞き、故郷での酪農経営を決意した。実際に事業が決まり、補助残分の資金手当てを達成し、新規牛舎で経営を開始するためには、豊田農林事務所畜産部や豊北町、山口県酪農協などの関係機関の支援を受け、大学卒業後8年を要した。

 畜産振興協会は経営計画作成から支援を行っている。白石君は酪農経営データベースにも当初から参加し、パソコンも使いこなしていたが、経営主は父親であり収支の中身までは把握していなかった。数値を整理してみると、経産牛30頭規模で年間出荷乳量200tだったので、経産牛1頭当たりの年間乳量は6,600kgほどであり、経営診断対象農家の平均からはかなり少ない数値であった。しかし、乳飼比は38%であり、白石君の飼養する牛達は平均以上の所得をあげていたことが判った。通年サイレージ、青刈り、イナワラも利用する飼養方法は、多くの酪農家が目指す高乳量牛群とは逆行するのであろうが、自給飼料中心の酪農も決して時代遅れではないことを感じていた。

事業により整備した内容

 白石君の目標は低コスト経営で必要な所得を得られることを考え、経産牛50頭、飼料基盤延べ10haを設定した。飼養方法の変更によるリスクを考えて、これまでと同様の繋ぎ方式とした。畜産基盤再編総合整備事業は自給飼料増産を目的とした事業であり、白石君の思いと合致するものであったが、予算削減のため、当初希望したコーンプランター、へーメーカー及びハーベスターは補助対象とならなかった。表1に、事業で整備した内容を示す。

表1.飼料基盤・施設・機械整備

項目

規模・規格

備考

飼料畑造成

1.1ha

自己所有地

牛舎

鉄骨653u

堆肥舎

鉄骨35u

ユニットキャリー

50頭用

ショベルローダー

0.6

バキュームカー

1.5トン 牽引式

マニアスプレッダー

1.7トン、自走式

ロールベーラー


今後の課題と計画

 事業により飼料基盤と施設は整備されたが、自給飼料を生産する機械については、今後、必要なものを近代化リースなどで整備することを考えている。

 また、課題としては以下の項目があり、今後の課題克服に向けての努力と関係機関の支援が必要になる。

@        阿川地区に適した自給飼料作付け体系・・・草地、水田に冬作としてイタリアン、夏作としてソルゴーとスーダンを作付け・利用しているが、特に水田では湿地に近い状況であり、利用できる草種や品種に苦慮している。

A        適正な堆肥処理・・・事業によりバーンクリーナーを整備し、作業は楽になったが、オガクズが尿溝へ詰まったり、水分調整に時間がかかったり、完全に醗酵した堆肥処理はできていない。自給飼料への利用とイナワラ交換での処理が中心であるが、基本的な処理は実施したい。

B        経営者意識の向上・・・白石君に限らず、酪農後継者にとって、日々の取引を整理する簿記は苦手のようである。しかし、経営者である限り、お金の流れを抑えておくことは必須であり、貸借と収支を把握し、自給飼料の割合を増やすように、自己資本比率を向上させることが本当に安定した経営になることを自覚してもらいたい。

牛舎   牛舎内部

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