黒毛和種肥育における飼料イネサイレージの活用

 
山口県畜産試験場 古澤剛・西村隆光・竹下和久
山口大学 津田聡子・小澤忍
@目的・背景
 水田飼料作物として飼料イネの利用拡大に資するため、購入粗飼料依存度の高い肥育牛で、飼料イネサイレ-ジ(以下イネWCS)の給与技術を検討する。
 平成11〜13年度の肥育試験から、粗飼料としてイネWCSを肥育に応用する場合、前期給与と全期間給与では前者が肉質に優れることが判明した。そこで肥育前期にイネWCS給与と乾草を用いる一般的な肥育方法との比較試験並びにイネWCSの粗飼料的価値の検討を行った。
 
A 試験区分
  1)肥育試験
  イネWCS前期給与区(以下:試験区):15カ月齢までイネWCSを給与する。
  チモシ-乾草前期給与区(以下:対照区):15カ月齢までチモシ-乾草を給与する。
  2)イネWCS粗飼料的価値の検討
  粗飼料価指数(以下:RVI(Roughage Value Index)DM1kg当たりに要した採食時間と反芻時間の和)をイネWCS、チモシ-乾草、稲わらの3種類を用いて測定。
イネWCSの一般成分並びにβ-カロテンを測定
 
B 材料及び方法
  1)肥育試験
   黒毛和種去勢牛9頭  試験区:5頭(群飼、9:00と16:00の2回給餌、自由飲水)
              対照区:4頭(群飼、9:00と16:00の2回給餌、自由飲水)
    試験区:15カ月齢までイネWCSを給与し、9〜12カ月齢までは自由採食、13〜15カ月齢は制限給与とする。12〜28カ月齢は稲わらを制限給与とする。
   対照区:15カ月齢までチモシ-乾草を給与し、9〜12カ月齢までは自由採食、13〜15カ月齢は制限給与とする。12〜28カ月齢は稲わらを制限給与とする。 
  なお、飼料給与設計は、両区とも通算DGを0.75kg、目標終了時体重730kgとし、調査項 目は発育、飼料摂取量、枝肉成績、血中ビタミンA濃度、経済性等とする。 
  2)イネWCS粗飼料的価値の検討
   RVI測定:3期間のラテン方格法で黒毛和種繁殖育成牛3頭を用い、イネWCS、チモシ-乾草、稲わらを同じ切断長(約5cm)で給与し、そのRVIを直接法(直接観察する方法)で求める。1期間は10日間とし、最後の1日間を観察日とする。
   一般成分・β-カロテン分析:イネWCS一般成分、出穂後20日及び30日後の刈り取り直後の飼料イネのβ-カロテン含量、前述のサイレ-ジ調整30日及び60日後のイネWCSβ-カロテン含量を測定する。
D 成績の概要
  1)肥育試験
  飼料摂取状況:肥育開始から3カ月間は対照区でTDN摂取量が多く、その後終了までは試験区でTDN摂取量が多かった。また、通算のTDN摂取量は試験区、対照区でそれぞれ 3,810.4Kg、3,629.5Kgであり、通算で稲わらは、試験区が対照区より約160kg多く摂取した(表1)。
  肥育牛の発育状況:終了時の体高は、試験区で140.0±3.7cm、対照区で142.5±3.0cm、            DGは、前者でで0.87±0.09kg、後者で0.82±0.11kgであり、統計的な差は認められなかった(表2)。
  枝肉成績 :試験区と対照区で枝肉重量はそれぞれ488.3±42.6kg、460.5±39.0kg、ロ-ス芯面積は53.8±4.7kg、53.3±6.4、バラ厚は7.5±0.5cm、7.5± 0.8cm、皮下脂肪厚は2.9±0.7cm、2.7±0.3cm、歩留基準値は72.6±0.8%、73.1±0.5%、BMSNo.は4.6±0.5、5.0±0.8となり前述6形質の統計的な差は認められなかった(表3)。BCSNo.のみが試験区4.0±0.0、対照区3.3±0.5となり、対照区の肉色が薄かった(P<0.05)(表4)。
  血中ビタミンA濃度:両区ともイネWCS、チモシ-乾草飽食時に最高値を示し、試験区200.5±56.4IU/dl、対照区131.1±16.2IU/dlで、以後下降し、試験区より対照区で低く推移した(図1)。
  経済性:粗収益は、試験区、対照区でそれぞれ258,823円、185,790円となり統計的な差は認められなかったが、変動係数がそれぞれ53.5%、29.3%となり、試験区のばらつきが多かった(表5)。 
  2)イネWCS粗飼料的価値の検討
  RVI測定:3頭の平均RVIは、稲わら77.6分/DMkg、イネWCS70.7分/DMkg、チモシ-乾草63.5分/DMkgとなり、イネWCSとチモシ-乾草間において有意差(P<0.01)が認められ、期間、個体間では有意差が認められなかった(表6)。
  一般成分・β-カロテン分析:サイレ-ジ調整70日後のイネWCSの一般成分は、日本標準飼料成分とほぼ同等であった(表7)。また、飼料イネ刈り取り直後のβ-カロテンは、葉部で高く、出穂後20日の葉部で20.2mg/DMkg、出穂後30日の葉部で11.2mg/DMkgとなり、刈り取り時期で大きく異なった。出穂後20日で調整30日後のイネWCSβ-カロテンは2.8mg/DMkg、調整60日後は6.9mg/DMkgとなり、出穂後30日で調整30日後のイネWCSβ-カロテンは4.9mg/DMkg、調整60日後は5.3mg/DMkgとなった(表8)。
 
 
  参考)前期粗飼料DM:試験区395.7kg、対照区409.7kg
 
表2 肥育牛の発育状況:月、Kg、cm 

          開 始 時              終 了 時       
区 分
    月 齢  体 重 体 高 胸 囲   月 齢  体 重 体 高 胸 囲 通算DG TDN要求量

試験区 9.5  291.8 115.0 150.8   28.5  789.2 140.0 231.0   0.87    7.72
    ±0.5 ±21.6 ±1.4 ±6.1   ±0.5 ±56.6 ±3.7 ±9.6  ±0.09    ±0.76
                                         
対照区 9.6  287.5 117.8 154.8   28.5  757.0 142.5 227.5   0.82    7.83
    ±0.8 ±19.1 ±0.5 ±4.6   ±0.8 ±68.0 ±3.0 ±7.3  ±0.11   ±0.98

  注)上段は平均、下段は標準偏差                         
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  図1
 
 
 
 
  注)肥育開始から12カ月以降はビタミンA欠乏症が散見されたので適時ビタミンAを経口投与
 












表6 各粗飼料のRVI測定値 :分/DMkg
牛No   稲わら  イネWCS  チモシ-乾草
  1   80.4   78.5   69.5
  2   88.6   60.7   55.2
  3   63.7   73.0   65.9
 平均  77.6   70.7A  63.5B
 標準偏差  12.7   9.1   7.4

 
表7 イネWCSの一般成分                 :水分は原物%、以外は乾物%
      生育ステ-ジ       水分 PH  粗蛋白 粗脂肪 NFE  粗繊維  粗灰分  DCP  TDN
中国147号 乳熟〜糊熟期    52.4 6.4  10.2   2.4    47.3  28.3    11.8   5.36  54.7
日本標準飼料成分  乳熟期  68.4     8.5    2.8    45.6  29.4    13.6   4.70  48.8
日本標準飼料成分  糊熟期  65.2     7.8    3.2    49.7  26.3    12.9   4.30  54.5
注)2例の平均、DCP、TDNは日本標準飼料成分より算出

表8 飼料イネ及びイネWCS中のβ-カロテン含量 :mg/DMkg

               出穂後20日       出穂後30日  
               葉部 茎部 穂部   葉部 茎部 穂部
刈取直後         20.2  0.5  0.3     11.2  0.0  0.0
サイレ-ジ調整30日後   2.8  0.1  0.0     4.9  0.0  0.0
サイレ-ジ調整60日後   6.9  0.9  0.0     5.3  0.0  0.0

 
E 考察
 飼料摂取量は、肥育開始から3カ月間で対照区が試験区に比べ、TDN及び乾物摂取量が多かった。これは、濃厚飼料が同量であるため、イネWCSとチモシ-乾草量の差と考えることができる。イネWCSは、チモシ-乾草に比べRVIが長く、ル-メン内停滞が長いと考えられ、このことに起因すると考えられた。しかし、肥育開始4カ月以降は、試験区が対照区に比べ稲わら及び濃厚飼料摂取量が多く、稲わらを常に試験区が多く摂取するのは、特徴的な所見であった。この要因として試験区は、稲わらとイネWCSが同じ稲であることから、切り替えがスム-ズにいったと考えられた。反芻動物にとって粗飼料は栄養源としてだけでなく、消化管の適正な運動及びル-メン内のpHを正常に保つ物理的作用(ル-メンアシド-シス等の防止)があるとされており、試験区が対照区より多くの稲わらを摂取したことにより、濃厚飼料の摂取量も多くなったと推察された。
 枝肉成績は、試験区でA-4が2頭、B-4が1頭、A-3が2頭に対し、対照区がA-4が3頭、A-3が1頭で枝肉重量、ロ-ス芯面積、バラ厚、皮下脂肪厚、歩留基準値、BMSNo.の6形質において統計的な差はなかった。しかし、BCSNo.は、試験区4.0±0.0、対照区3.3±0.5となり5%の有意差で対照区の肉色が薄くなった。肉色については、ビタミンAを制御した場合淡くなる報告があるが、今回も対照区で試験区より血中ビタミンAが低く推移しており、このことに起因したと考えられた。また、前述した濃厚飼料の摂取量が試験区が多かったことは、稲わらの摂取量が多くかつ血中ビタミンAレベルが高かったことの相乗効果と推察された。
 肥育開始から3カ月間は、粗飼料の乾物重量で対照区の方が多く摂取しており、少なくともチモシ-乾草より高レベルでイネWCSのビタミンAの前駆物質であるβ-カロテンが含有されていたことになる。
今回、測定した発育ステ-ジによる飼料イネのβ-カロテン含量は大部分が葉部であり、出穂20日後と30日後では約半量が消失していた。また、サイレ-ジ調整20日後と30日後ではβ-カロテンの消失が認められなかった。しかし、β-カロテンは空気や光に不安定でサイレ-ジ調整後は含量が下降すると考えるのが普通であり、今回の結果とは一致しなかった。さらに、ロットによっても大きく含量が変わる可能性があり、今回の測定値レベルのβ-カロテン含量では、試験区の血中ビタミンAで200mg/dlになるとは考え難く、測定値以上のβ-カロテンが摂取された可能性が否めないと考えられた。
 RVIは、稲わら>イネWCS>チモシ-乾草の順で長く、特にイネWCSとチモシ-乾草間で1%の有意差が認められた。咀嚼時間(採食時間+反芻時間)は、3種類の粗飼料において稲わらが1番長く、今回の結果は、肥育において中期以降使い続けられている稲わらの重要性の裏付となるとともに、イネWCSは、チモシ-乾草より粗飼料としての物理的特性が優れると考えられた。
 粗収益は、平均で試験区が対照区を約73,000円上回りばらつきが大きかったが、統計的な差は認められなかった。
 以上のことより、イネWCS前期給与は、一般的な肥育方法と比べ増体性、枝肉成績並びに経済性に遜色なく、充分応用可能と推察された。

戻る