山口県型放牧事例集(2)
山口県型放牧事例集

「放牧による荒廃地の系時的変化」

山口県岩国農林事務所


1.概要等

 岩国市内の兼業農家から、3年程度耕作放棄している水田で放牧による景観回復の依頼を受け、山口県畜産試験場の放牧経験牛の貸し出し制度を利用し、放牧による景観変化をほぼ1週間毎に写真撮影し追跡する事ができましたのでお知らせします。

2.場所等

岩国市四丁目 約60a(終了時には90a程度まで拡大)の棚田(14枚)に経産牛2頭を放牧。

3.系時的変化
(1) 放牧開始前の状態(平成13年9月4日)
   約3年間の耕作を放棄したため、カヤ、クズ、セイタカアワダチソウ(乾田部分)、カワソバ(湿田部分)が繁茂し、棚田の状態も良く判らない状態であった。
 草量は、約2t/10a程度と推察され約2ヶ月間の放牧を予定していた。(写真−1)
(2) 放牧開始後1週間の状態(平成13年9月11日)
   新しい環境に慣れづらいためか、荒廃地の入り口付近に当初、3〜4日間はたむろし、なかなか本格的な採食行動にでなかったが、その後採食範囲を徐々に拡大した。採食は、クズを当初採食し、次いでカヤの青葉を採食していた。(写真−2)
(3) 放牧開始後2週間の状態(平成13年9月18日)
   採食範囲も拡大し始め、次々と棚田を変えながらクズを中心に、カヤの青葉を採食していった。そのため、各棚田では、カヤの葉の変化が著明であり、採食を行った棚田が茶色に変化していった。(写真−3)
(4) 放牧開始後3週間の状態(平成13年9月25日)
   さらに採食範囲が拡大し、徐々に棚田の形状が見られ始めた。(写真−4)
(5) 放牧開始後4週間の状態(平成13年10月1日) 
   棚田全体を歩行し採食も活発化し、当初の状態に比較してクズ葉の消失が著明となり、カヤの青葉もほとんど消失した。(写真−5)
(6) 放牧開始後5週間の状態(平成13年10月9日)
   棚田の形状も明らかになり、一部では地面が露出するほどとなった。
 採食も、クズを食べ尽くし、カヤの青葉を探しながら食べる状態となり、一部では、カヤの枯葉の採食が開始された。(写真−6)
写真−1 岩国市放牧開始時
写真−1 岩国市放牧開始時
写真−2 岩国市放牧開始時1週目
写真−2 岩国市放牧開始時1週目
写真−3 岩国市放牧開始時2週目
写真−3 岩国市放牧開始時2週目

写真−4 岩国市放牧開始時3週目
写真−4 岩国市放牧開始時3週目

写真−5 岩国市放牧開始時4週目
写真−5 岩国市放牧開始時4週目
写真−6 岩国市放牧開始時5週目
写真−6 岩国市放牧開始時5週目
(7) 放牧開始後6週間の状態(平成13年10月15日)
   セイタカアワダチソウを踏み倒し柔らかい先端部分の採食が見られた。
 そうした中で、高低差約2mの棚田に進入できないため、畦畔の一部を人為的に崩し、進入路を造ることにより採食を可能にした。(写真−7、8)
(8) 放牧開始後7週間の状態(平成13年10月23日)
   前週に進入路を造り採食を可能にした水田(約10a)のクズは、2〜3日で食べ尽くしカヤの結株が若干残る程度となり、畦畔をはじめ棚田にあったカヤの結株の枯葉等を採食し、一部では、カヤも食べ尽くしたため、対象区としていた水田も、牧柵を移動する事により開放した。(写真−9、10)
(9) 放牧終了時(放牧開始後8週間)の状態(平成13年10月29日)
   対象区では、クズを食べ尽くし、ワラビ等の羊歯類が残る程度となった。
 棚田には、次の野草類が萌芽し始め所々に緑が回復し始めた。(写真−11、12)
写真−7 岩国市放牧開始時6週目
写真−7 岩国市放牧開始時6週目
写真−8 岩国市放牧開始時6週目
写真−8 岩国市放牧開始時6週目
写真−9 岩国市放牧開始時7週目
写真−9 岩国市放牧開始時7週目
写真−10 岩国市放牧開始時7週目
写真−10 岩国市放牧開始時7週目
写真−11 岩国市放牧終了時
写真−11 岩国市放牧終了時
写真−12 岩国市放牧終了時
写真−12 岩国市放牧終了時
4.景観回復の効果と管内での波及

 今回の放牧により、畦畔の状態も全く不明だった耕作放棄地が棚田の姿を見せた時、地元自治会を始め、関係者の驚きは大きなものがありました。
 今回の成功は、管理者が子供時代に牛に接触した程度だったことから、あまり採食している草種等に気を遣わず、草量の減少を楽しみにしていた事にあるようです。
 牛は、飢餓感に苛まされながら電気牧柵への恐怖から脱柵もせず否応もなしに牧区内のカヤの枯葉までも口にしたものと考えられます。その結果、放牧した荒廃地が元の棚田の状態に蘇ったといえます。
 管内では現在、岩国市の状態を見た錦町の肉用牛農家が牧草の刈り取りに不便な傾斜地約60aの草地に(写真−13、14)、美和町では、年3〜4回の除草をしていた約90aの樹園地(栗園:写真−15、16)で妊娠牛の放牧による低コスト飼養と牛による除草の試みがそれぞれ開始されています。

写真−13 錦町開始時
写真−13 錦町開始時
写真−14 錦町終了時
写真−14 錦町終了時
写真−15 美和町開始時子
写真−15 美和町開始時
写真−16 美和町終了時
写真−16 美和町終了時

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