条件不利な転作田での良質な飼料イネ生産・販売による耕畜連携の確立

農事組合法人による安心・安全な飼料イネの安定供給を目指して

農事組合法人  「こぶし」

 


 山口
県の酪農及び肉用牛生産は、中山間地域を中心とした農業生産を支える基幹作目であるが、高齢化・後継者不足等により戸数・頭数とも減少傾向にある一方で、経営規模は年々拡大しており、家畜ふん尿処理への対応や飼料自給率の低下等が大きな課題となっている。

  このような中、本年3月新たな「食料・農業・農村基本計画」並びに「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」が示され、早急に国際化の進展に対応し得る産業構造を確立していくため、担い手を明確化するとともに、一層のコスト低減・省力化による経営体質の強化や自給飼料基盤に立脚した畜産経営の育成等を推進していくこととなった。

  このような中、「農事組合法人こぶし」は11戸の耕種農家からなる集団として、水稲を中心とした営農を行う中で、排水不良田等条件不利地への導入作物を試行錯誤してきた結果、平成11年から飼料イネ栽培に取り組み、その後、県農業試験場の現地実証ほ場の設置等を経て、平成14年度から本格的な栽培を開始するとともに、地域内の畜産農家と連携しつつ現在では3.8haまで拡大してきた県内でも唯一の飼料イネの団地化栽培を実現した集団である。

  また、この間畜産農家へ喜んで利用してもらうため、安心・安全な粗飼料供給をモットーに、稲発酵粗飼料の品質向上に努めるとともに、作業性の向上や生産コスト低減を図るため、農薬散布回数の削減や湛水直播技術の導入、収穫調整作業の委託等を行い、逆に畜産農家からはたい肥供給を受ける地域内での資源循環型農業を積極的に推進している。

   転作田を中心とした自給飼料生産においては、専用機械の整備等から畜産農家自らが賃貸契約等により土地集積を図り、自給飼料生産を行う自己完結型の取り組みが多い中で、本集団の取り組みは飼料イネ導入を機に地域内の耕種農家と畜産農家が相互連携し合い、中山間地域の条件不利地において共存共栄を図るための耕畜連携体制を整えている本県では数少ない取り組みと言える。

  今後、担い手の育成・確保が急がれる中で、各地で担い手確保に向けた協議が行われてこようが、人・土地・気象等を勘案した持続性のある地域営農体制を模索する中で、畜産農家と連携した本法人の取り組みは、他地域での取り組みに参考となる事例であり、今後更なる経営規模の拡大と稲わら交換等新たな耕畜連携体制の強化に向けた取り組みが期待される。

 

1.地域の概況

 


 
萩市 むつみ地域の概要

(1)立地条件

萩市むつみ地域は山口県の北東部に位置し、平均標高360m、総面積69.7ku、平成1212月末現在の世帯数は880戸、人口2,369の過疎、高齢化が進んだ典型的な中山間地域内にある農業依存型の集落である。

気候は、年間平均気温13.2度で、気温較差が激しい内陸性の日本海型気候である。

地理的には、県庁所在地の山口市まで42q、経済圏の萩市内(旧萩市)に23qに位置し、いずれも車で1時間以内の道程である。

(2)農業・農村の動向

@ 農家数は社会情勢の変貌から高齢化が進展し、2000年センサスでは509戸であり、5年前に比べると6%減少している。専兼別の割合は、高齢専業農家及び第2種兼業   農家が増加し、第1種兼業農家の減少が大きい。

また、農業就業人口・基幹的農業従事者が減少する中で、高齢者や女性の占めるウエイトが高く、他地域同様に青年層の担い手が不足している。

A 経営耕地面積は、882haうち田760ha86%)、畑122ha14%)で、水田に大きく偏重しており、一戸当たり経営耕地面積は約1.7haと県平均(0.7ha)に比べて大きい。

また、効率的な機械作業による営農の展開を図るため、平成5年から国営農地再編整備事業による汎用性の高いほ場づくりが積極的に行われ、平成11年には地域内の優良農地のほ場整備率はほぼ100%となった。

B 農業生産はコシヒカリなどの良質米を基幹とし、野菜・畜産が主体であり、平成12年の農業粗生産額は18億円であり、米が全体の41%を占め、次に野菜42%、畜産13%、工芸作物(葉たばこ)3%となっている。

C       特産生産

      近年、良質米生産の以外にも気候条件等を生かした適地適作を目指して、トマト生産に力を入れ、一層の産地規模の拡大と市場競争力の向上を図るため、平成17年2月には本地域が属する山口阿武地域と隣接する阿東地域が農協の枠を超えて産地統合され、中国地方最大級のトマト産地(栽培面積17ha、生産者150名)が誕生した。

また、千石台台地では春、夏、秋冬だいこんが延べ110ha作付けされており、県内シェア1位となっているほか、転作によるスイートコーン、メロン、キュウリ、キャベツ、レタス、インゲンなどが生産されている。

D     畜産

  畜産については、主に肉用牛、酪農、養豚が営まれ、特に肉用牛は県内でも有数の肉用牛産地であり、むつみ和牛として発育が優れ、肋張りの良い子牛として市場評価も高く、米、野菜、工芸作物と並ぶ重要作目の一つとなっている。

なお、肉用牛の飼養戸数・頭数は36戸、535頭となっており、比較的小規模な繁殖経営が主体で高齢化も進んでいるが、転作田での飼料作物生産や地域内にある自衛隊演習地の野草利用等が盛んで、繁殖経営においては粗飼料をほぼ自給している。

また、地域内には80頭規模の肥育農家経営が2戸あり、行政等からの支援を受けつつ地域内一貫生産体制による地元産子牛の買い支えや繁殖雌牛の産肉能力の把握等に大きく貢献している。

    一方、酪農では1戸、64頭となっているが、平成9年に土地・気候条件等を勘案して県外から新たに入植したもので、転作田等を借り受けての自給飼料生産やたい肥・稲わら交換等により地域内の耕種農家と連携を図り、新たな担い手として、また営農体制の確立に向け期待されている。

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2.活動目的と背景

 


 1 農事組合法人「こぶし」の設立

萩市大字高佐下(旧むつみ村)にある下領地域は、中山間地域にある典型的な農業を中心とした集落であり、高齢化が進む中で水田の機能維持が困難になり、昭和63年4月に耕種農家5戸が集まり、稲作を主体とした施設、機械を共同利用する任意組合を発足させ、共同作業に取り組んでいた。                                

その後、平成5年から国営農地再編整備事業の実施を契機にほ場整備が進み、加入者が増え、平成12年4月には耕種農家11戸で農事組合法人「こぶし」を設立(同年6月には特定農業法人の認定)し、現在に至っている。

 

2 飼料イネの導入

  下領地域はむつみ地域の中でも特に排水条件の悪い土地柄にあり、ほ場整備後も水稲を中心とした作付け体系しか取れず、「こぶし」設立後でも組合員外からの稲作作業の受託を中心に進めてきた。

なお、米の需給緩和が進む中で、組合員が所有する水田20.5ha(10年間の利用権設定)については、水稲以外にもっと活かせる作物がないかを試行錯誤し、大豆、キャベツ、カボチャ等を栽培したが、いずれも投下労力に見合う実績が得られず結局断念せざるを得なかった。

一方で、平成11年に地域内の耕種農家(3戸)が飼料イネの試験栽培を試み、翌年には県農業試験場と連携して現地実証ほ場を設置することとなった。

この2年間の試みの中で、排水不良田でも十分栽培が可能であるとの感触が掴めた結果、地域内に畜産農家が多数存在することから、平成13年には「こぶし」において初めて飼料イネが14.8a作付けられ、取りあえず小型ロールベールに調製して、地域内の肉用牛農家へ販売してみた。なお、この際の収量は2.2t(単収1.5t)であったが、植え付け等に水稲関連機械が活用でき、排水条件の悪い転作田を十分活用できることから、飼料イネしかないとの結論から、本格的な生産に向けた取組について、行政(旧むつみ村)及び地元農林事務所へ相談した。

 

3 関係機関と連携した飼料イネ生産の開始

相談を受けた旧むつみ村・地元農林事務所では、「こぶし」の取り組みを地域特性に適合した新たな耕畜連携によるモデル営農事例として位置づけ、生産者・村・JA・農林事務所・農業試験場・畜産試験場からなる「稲発酵粗飼料生産振興検討会議」を立ち上げ、作付け・栽培管理・収穫調製及び畜産農家への供給体制の整備等についての技術的支援や調整等を行うこととなった。

4 飼料イネの本格生産に向けて

定期的に検討会議を開催し、作物としての定着化を協議した結果、平成14年には収量性を勘案して飼料イネ専用品種(クサノホシ)を2.3ha作付け、播種方法についても省力化が図られる湛水直播栽培を試みた。

また、一番課題となる収穫作業については、ほ場内での収穫・調製や運搬作業の効率性や機械の操作性等を検討するため、小型及び中型ロール機械体系での比較試験を行い、小型ロールは肉用牛農家、中型ロールについては酪農家へ販売し、嗜好性についても比較を行った。

このような取り組みから、品質・生産コスト・作業効率を勘案し、平成15年からは播種は湛水直播方式とし、収穫・調製作業は専用の飼料用コンバインベーラを用いた中型ロール体系で行うこととし、まとまった量を必要とする地域内の大規模酪農へ販売することとした。 



3.活動内容


(1)具体的な活動内容等


 
  「こぶし」では、地域の基幹作目である水稲の他に収益力のある転作作目を模索する中で、飼料イネの生産・販売を試み、飼料イネを知るきっかけとなった平成12年の農業試験場の現地実証ほ場設置から平成13年には15aで栽培試験を行い、肉用牛農家から小型ロールベーラを借り受けて収穫調製作業を行い、高品質のものを作れば畜産農家へ販売していくことも可能であることを確認した。

  また、平成14年には行政が中心となって「稲発酵粗飼料生産振興検討会議」を設立し、本格的な生産に向けた協議を進める一方、地域適性の十分ある作物として一層の生産拡大を図るため、平成16年には隣接する阿武町も含めた「阿中地域飼料イネ生産利用推進連絡会議」を立ち上げ、地域全体の運動として飼料イネ生産を通じた耕畜連携体制の整備に向けた取り組みを行ってきた。

 

1 飼料イネの栽培調製技術の確立

 (1)専用品種の導入 

    本来、飼料イネ栽培では収量性を高めるため専用品種の導入が望ましいが、食用品種との交雑や脱粒等による混植が問題となり、あえて食用品種を導入している事例も少なくない。

    しかし、コスト低減を図る上では収量性の向上は必要不可欠であり、これらの問題を解決するため、農業試験場等の支援を受けて独自の「栽培ごよみ」を作成し、作付け時期をずらすなど交雑・混植等が発生しないよう徹底した。

(2)湛水直播栽培の導入

従来からの移植方式は、初期生育は良好なものの、播種・育苗・作付け作業に手間が掛かり、育苗箱の運搬等も重労働となっていたため、湛水直播方式の導入を検討するため、平成12年・13年においてまずは食用水稲23aで試験実施し、平成14年には食用水稲で250aに拡大し、飼料イネでは227aを全て湛水直播で行った。

その後、飼料イネは全て湛水直播とし、食用水稲についても、その割合は53%、76.5%と拡大している。

(3)収穫・調製作業の検討

飼料作物を生産した経験がない「こぶし」にとって、一番課題となったのが収穫調製作業である。特に、畜産農家への安定的な販売体制を目指すためには、喜んで使ってもらえる粗飼料(製品)を常に供給していくとともに、高価格が望めない粗飼料販売では流通粗飼料並の価格で提供する必要があり、単収向上や省力化・作業効率の向上による低コスト化が必要となる。   

そのため、平成14年には地域内の肉用牛繁殖農家をターゲットにした小型ロール(30kg/個)と大型酪農家をターゲットにした中型ロール(200kg/個)について、製品 製造の比較試験を行った。このとき、小型ロールで936個、中型ロールで136個を収穫・調製し、小型ロールは肉用牛農家3戸へ、中型ロールは隣接する阿武町内の酪農家1戸へ販売した。

なお、その際の試験結果としては、小型機械ロール体系は作業効率が悪く、できあがった製品も土が混入して品質低下を招き、牛の嗜好性も悪い結果となったが、中型機械ロール体系では作業効率も良好で土の混入も無く、梱包密度の高い高品質の製品となり、牛の嗜好性も良好であった。

    このようなことから、平成14・15年では農機具メーカーから飼料用コンバインベーラを借り上げて作業実施したが、平成16年からは「阿中地域飼料イネ生産利用推進会議」の仲介・調整の下に、阿武町内の農事組合法人「あぶの郷」が機械導入を行い、ここに作業委託する体制を整えた。

(4)安心・安全の確保

    食の安心・安全が強く求められる時代の中で、安心して畜産農家が利用できる製品を供給していくためには、農薬や化学肥料の使用を極力削減していく必要があるとのことから、農薬散布は播種後の除草剤のみとし、化学肥料も地域内のたい肥でなるべく代替していくこととし、平成16年には良質たい肥を施用していくためのたい肥センター(194u)を独自に整備し、畜産農家から供給されるたい肥のストック場所を確保した。

    また、本当に安心・安全な粗飼料が供給されているか自らが確認するため、本格生産を始めた平成16年には農薬残留検査を行っている。 

 

2 販売体制の整備

  中型機械ロール体系の導入により、地域内の酪農家に向けた販売体制を整えるため、地元農林事務所等が中心となって、供給価格設定のための生産費調査や供給先の酪農家での給与メニューの検討を行った。なお、平成16年の調査結果では平均単収2,285kg/10aで、生産原価が26円/kgであったことから、酪農家への最低販売単価を25円/kgとした。

  また、供給先としては、平成14年は隣接の阿武町内の酪農家へ販売したが、平成15年からは旧むつみ村内の酪農家1戸への販売体制を整えた。なお、当酪農家は生乳出荷先との契約条件として、給与飼料に厳しい制限(NON-GMO等)が設けられていたが、供給される飼料イネは無農薬栽培(除草剤散布のみ)であり、残留農薬検査も実施していたことから、販売する体制が整った。

供給を受けた酪農家では、飼料イネは栄養分が高く嗜好性も良好なため、濃厚飼料を減らすことができ、経営的にも強いメリットを感じるとして、平成17年は450ロール(90t)の供給を希望している。

  これを受けて、確固たる販売先が確保できたことから、本年は飼料イネの単収2,500kg/10aを見込んで3.8haを作付け、販売額285万円(30円/kg)を目標とし、総収入額の目標の12%を占める作目と位置付けることとなった。

 

3 資源循環型農業の推進

  地域内の条件不利地の活用を目指した「こぶし」による飼料イネ生産の取り組みは、安心・安全な稲発酵粗飼料の供給と引き替えに、畜産農家からたい肥を受け入れるという新たな動きとなり、耕畜連携による共存共栄と、地域内の貴重な資源を活用した資源循環型農業へと発展した。 


(2)実施体制


 

 

「阿中地域飼料稲生産利用推進連絡会議」

生産者・・・こぶし

利用者・・・畜産農家(酪農2戸)

市(旧むつみ村)・・・生産者、利

用者、関係機関の連絡調整

JA・・・補助事業窓口

農林事務所

 畜産部・・・飼料イネの調製利用

 農業部・・・飼料イネの栽培

農業試験場・・・栽培技術指導、生産

費算出、生産・利用システム検討

畜産試験場・・・給与試験

 
角丸四角形: むつみ牧場
(酪農経営)
安全・安心のこだわり牛乳生産
額縁: 農事組合法人「こぶし」
構成員11戸
水稲、飼料稲生産販売
受託作業(水稲)
 

 

 

 

 

 


  支援

 

 

 

 

 

 

 

 

 


                                              飼料イネ

 


   堆肥                                                                                                     支援

額縁: 農事組合法人「あぶの郷」
阿武町 無角公社と連携した飼料稲生産。補助により機械装備
                                                                      支援

 

                                                                                         コンバインベーラ利用


 

 

4..活動の年次別推移


 


 

年 次

活動の内容等

成果

戸数、頭数、販売量等数量的変化のわかるものがあれば、とくに記すこと

課題・問題点等

平成12年

 

平成13年

 

 

平成14年

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

平成16年

 

 

 

 

 

平成17年

農業試験場が現地実証ほ場設置

 

「こぶし」が飼料イネ栽培開始、肉用牛農家へ試験的に供給

 

「こぶし」が本格栽培、畜産農家への販売を提案

稲発酵粗飼料生産振興検討会議を設置

先進地視察(広島県大朝町)

湛水直播栽培の実施

収穫・調製体系の比較試験の実施

 

作業体系の確立(湛水直播、中型ロール)

 

 

隣町「あぶの郷」へ収穫・調製作業を委託

飼料イネの残留農薬検査

たい肥センターの建築

 

 

旧村内酪農家から飼料イネの増産及びソルゴーの生産を受託

 

 

15a、2,250kg、1,517kg/10a

Ø        全量 肉用牛農家へ販売

 

227a、66,690kg、2,938kg/10a

Ø        小型ロール936個(30kg/個)は地域内の肉用牛農家3戸へ販売

Ø        中型ロール136個(200kg/個)は阿武町内酪農1戸へ販売

 

 173a、29,340kg、1,695kg/10a

Ø        中型ロール146個は酪農2戸(阿武町、旧むつみ村内)へ販売

 303a、68,600kg、2,266kg/10a

中型ロール343個は酪農1戸(旧むつみ村内)へ販売

 

 

 

飼料イネ380a、ソルゴー46aを作付け

 

 

 

ロール作業確認

 

 

高品質で安定したロールの生産には短期間での収穫が必要

 

 

 

 

 

 

 

 

酪農家は残留農薬を危惧していたが、0%の検査結果により安定購入を決定

 


 



5.活動の成果・評価


(1)活動成果の内容


 1 成果のまとめ

@飼料イネの栽培・調製・利用システムの確立

水稲主体の生産と作業受託を行う農事組合法人「こぶし」が、新たな作目を模

索する中、行政等と連携を取りつつ飼料イネの栽培と収穫・調製までの生産技術や酪農家への販売体制までを短期間で整備し、新たな収益作物として確立した。

A条件不立地における飼料イネ生産の実証

水田率が高く、排水不良等の条件不利地においては水稲に代わる換金作物が少ない中で、地域特性を勘案した飼料イネの導入はほぼ水稲と同じ作業体系で行え、 耕種農家の抵抗感も少なく、単収として2,500kg/10aが確保できれば、転作奨励金等を含めて、水稲に匹敵する作物として位置付けられる。

B新たな耕畜連携体制の整備

稲発酵粗飼料及びたい肥供給による耕畜連携体制は、地域内での新たな営農体制として他地域のモデルとなる取り組みとなった。

C資源循環型農業への発展

排水不良等条件不利地の活用や耕種農家自らたい肥センター整備を行い、良質なたい肥の製造・貯蔵機能を持つことにより、地域内における限られた資源を積極的に利用していくという循環型農業の展開がスタートした。

 

<二次的効果>

@    鳥獣被害の軽減

飼料イネは、収穫前においても青々とした状態であることから、毎年被害が拡大していたイノシシの被害がほとんど無い。これを利用して「こぶし」では飼料イネを山へ隣接したイノシシ被害の多い水田へ作付け、水稲への被害を軽減させることができた。

A    新たな飼料供給ニーズの発生

供給先である酪農家からは飼料イネだけでなく、ソルゴーなどの飼料作物を新たに供給して欲しいとの要望があり、平成17年は45aで栽培を開始し、新たな作物としての可能性が生まれた。

B    畜産農家との連携体制が整う中で、たい肥利用が本格的となり、平成15年3月には県のエコファーマー認定を受け、付加価値のある米販売が可能となった。

 


(2)成果を現す指標


 <<活動の年次推移参照>> 

 
(3)今後の課題


 
1 需要に応じた生産体制の確保

  畜産農家において通年サイレージ体系を導入する場合、夏期の品質低下が懸念されるため、更なる品質を維持するための技術を検討する必要があるとともに、他の飼料作物の導入についても検討していく必要がある。

 

2「こぶし」構成員の確保

  現在、「こぶし」の組合員は11名であるが、年々高齢化は進むことから、新規組合員(新規就農者)を積極的に受入れていく必要がある。しかし、新規就農者等を受け入れるためには今以上の収益性の高い作物生産を行っていく必要があり、良質たい肥等を使った付加価値の高い新規作物の導入も検討していく必要がある。

  なお、新規就農を受け入れる事前準備として、毎年、県農業大学の研修生を積極的に受け入れたり、県外の大都市の中学生が修学旅行を利用して行っている農作業体験学習をサポートするなどの活動も既に開始している。 




6.普及にあたっての留意点

 


 1 商品生産へのこだわり

11名の構成員は耕種農家のみで、畜産農家は含まれていないことから、「飼料イネは牛の飼料になるのだから・・・」という受け止め方ではなく、あくまで商品として常に良質のものを生産・販売していくという意識が徹底しており、1つのロールが6,000円になるという気持ちで栽培・生産している。

同じように、たい肥もただ処理するのではなく、高品質の作物を作るための土壌改良となる重要な資材であると位置付け、畜産農家とはやや視点が異なっている。

 

2 関係機関の支援

生産物の売買という点で、耕種サイドと畜産サイドとは利害関係が相反することから、行政等が仲介した中で常に綿密な打合せ・調整を行い、双方が十分納得した販売体制を整えることが、持続性のある連携体制を進める点で必要である。

 

 

7.活動に対する受益者等の声(評価)

 


 

氏名

所属・属性

声(評価)

吉岡

 

 

 

 

 

 

 

 

早田 孝

こぶし

 

 

 

 

 

 

 

 

むつみ牧場

組合員の水田の利用権設定期間の半分が経過し、試行錯誤を重ねたが、ようやく事業種目を比較的効率の良い水稲と飼料イネ(一部飼料作物)に絞る事となった。むつみ牧場への販路も拡大し、その堆肥を有効に使うための堆肥センターも整備し、良質堆肥を使ったエコ山口農産物を生産できる体制が整った。

 

 

 

飼料イネサイレージについて、乳牛への嗜好性も良く満足している。ただし、飼料内水分量が若干高いので、収穫時期等については、十分協議の上実施してほしい。

また、継続的な土壌分析や飼料分析等の調査を実施してほしい。

ソルガム類の他、コーン類の作付けを拡大してほしい。


 

8.事例の特徴や活動を示す写真