「こぶし」では、地域の基幹作目である水稲の他に収益力のある転作作目を模索する中で、飼料イネの生産・販売を試み、飼料イネを知るきっかけとなった平成12年の農業試験場の現地実証ほ場設置から平成13年には15aで栽培試験を行い、肉用牛農家から小型ロールベーラを借り受けて収穫調製作業を行い、高品質のものを作れば畜産農家へ販売していくことも可能であることを確認した。
また、平成14年には行政が中心となって「稲発酵粗飼料生産振興検討会議」を設立し、本格的な生産に向けた協議を進める一方、地域適性の十分ある作物として一層の生産拡大を図るため、平成16年には隣接する阿武町も含めた「阿中地域飼料イネ生産利用推進連絡会議」を立ち上げ、地域全体の運動として飼料イネ生産を通じた耕畜連携体制の整備に向けた取り組みを行ってきた。
1 飼料イネの栽培調製技術の確立
(1)専用品種の導入
本来、飼料イネ栽培では収量性を高めるため専用品種の導入が望ましいが、食用品種との交雑や脱粒等による混植が問題となり、あえて食用品種を導入している事例も少なくない。
しかし、コスト低減を図る上では収量性の向上は必要不可欠であり、これらの問題を解決するため、農業試験場等の支援を受けて独自の「栽培ごよみ」を作成し、作付け時期をずらすなど交雑・混植等が発生しないよう徹底した。
(2)湛水直播栽培の導入
従来からの移植方式は、初期生育は良好なものの、播種・育苗・作付け作業に手間が掛かり、育苗箱の運搬等も重労働となっていたため、湛水直播方式の導入を検討するため、平成12年・13年においてまずは食用水稲23aで試験実施し、平成14年には食用水稲で250aに拡大し、飼料イネでは227aを全て湛水直播で行った。
その後、飼料イネは全て湛水直播とし、食用水稲についても、その割合は53%、76.5%と拡大している。
(3)収穫・調製作業の検討
飼料作物を生産した経験がない「こぶし」にとって、一番課題となったのが収穫調製作業である。特に、畜産農家への安定的な販売体制を目指すためには、喜んで使ってもらえる粗飼料(製品)を常に供給していくとともに、高価格が望めない粗飼料販売では流通粗飼料並の価格で提供する必要があり、単収向上や省力化・作業効率の向上による低コスト化が必要となる。
そのため、平成14年には地域内の肉用牛繁殖農家をターゲットにした小型ロール(30kg/個)と大型酪農家をターゲットにした中型ロール(200kg/個)について、製品 製造の比較試験を行った。このとき、小型ロールで936個、中型ロールで136個を収穫・調製し、小型ロールは肉用牛農家3戸へ、中型ロールは隣接する阿武町内の酪農家1戸へ販売した。
なお、その際の試験結果としては、小型機械ロール体系は作業効率が悪く、できあがった製品も土が混入して品質低下を招き、牛の嗜好性も悪い結果となったが、中型機械ロール体系では作業効率も良好で土の混入も無く、梱包密度の高い高品質の製品となり、牛の嗜好性も良好であった。
このようなことから、平成14・15年では農機具メーカーから飼料用コンバインベーラを借り上げて作業実施したが、平成16年からは「阿中地域飼料イネ生産利用推進会議」の仲介・調整の下に、阿武町内の農事組合法人「あぶの郷」が機械導入を行い、ここに作業委託する体制を整えた。
(4)安心・安全の確保
食の安心・安全が強く求められる時代の中で、安心して畜産農家が利用できる製品を供給していくためには、農薬や化学肥料の使用を極力削減していく必要があるとのことから、農薬散布は播種後の除草剤のみとし、化学肥料も地域内のたい肥でなるべく代替していくこととし、平成16年には良質たい肥を施用していくためのたい肥センター(194u)を独自に整備し、畜産農家から供給されるたい肥のストック場所を確保した。
また、本当に安心・安全な粗飼料が供給されているか自らが確認するため、本格生産を始めた平成16年には農薬残留検査を行っている。
2 販売体制の整備
中型機械ロール体系の導入により、地域内の酪農家に向けた販売体制を整えるため、地元農林事務所等が中心となって、供給価格設定のための生産費調査や供給先の酪農家での給与メニューの検討を行った。なお、平成16年の調査結果では平均単収2,285kg/10aで、生産原価が26円/kgであったことから、酪農家への最低販売単価を25円/kgとした。
また、供給先としては、平成14年は隣接の阿武町内の酪農家へ販売したが、平成15年からは旧むつみ村内の酪農家1戸への販売体制を整えた。なお、当酪農家は生乳出荷先との契約条件として、給与飼料に厳しい制限(NON-GMO等)が設けられていたが、供給される飼料イネは無農薬栽培(除草剤散布のみ)であり、残留農薬検査も実施していたことから、販売する体制が整った。
供給を受けた酪農家では、飼料イネは栄養分が高く嗜好性も良好なため、濃厚飼料を減らすことができ、経営的にも強いメリットを感じるとして、平成17年は450ロール(90t)の供給を希望している。
これを受けて、確固たる販売先が確保できたことから、本年は飼料イネの単収2,500kg/10aを見込んで3.8haを作付け、販売額285万円(30円/kg)を目標とし、総収入額の目標の12%を占める作目と位置付けることとなった。
3 資源循環型農業の推進
地域内の条件不利地の活用を目指した「こぶし」による飼料イネ生産の取り組みは、安心・安全な稲発酵粗飼料の供給と引き替えに、畜産農家からたい肥を受け入れるという新たな動きとなり、耕畜連携による共存共栄と、地域内の貴重な資源を活用した資源循環型農業へと発展した。
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