カルスト台地を舞台とした
牛の放牧による防火帯作りの試み

山口県畜産試験場


1.背 景
 秋吉台国定公園は、カーレンフェルドと呼ばれる石灰岩が多く隆起しており、天然記念物に指定され、毎年2月末に行われている草原の山焼きは、壮大な光景で春の訪れを告げる風物詩なっております。この山焼きの歴史は古く、約600年前から実施されており、地域の文化として維持保全されてきました。
 しかし、山焼きを実施するには、火道と呼ばれる防火帯(長さ17km程度、幅6m程度)を設置する必要があり、これまで、地域の人々の献身的な草刈りで実施されています。、草刈り作業は重労働の上、作業従事者の高齢化、人手不足により存続が危ぶまれているのが現状です。また、カルスト地形のため先ほどの石灰岩が点在し、草丈が高いときには、確認しづらく、草刈り機の事故につながることもあります。
 そこで、防火帯作り作業の軽減を図るため、牛の舌刈り(放牧)により、防火帯設置を試みました。

2 方 法
 試験場所は、秋吉台国定公園からほど近い山口県畜産試験場内でカルスト地形の2.2 haの野草地です。そのなかに、0.5haの野草地を囲むように、幅14〜20mで防火帯を設置し、黒毛和種繁殖雌牛妊娠牛を平成12年8〜11月までの4カ月間、12頭を放牧しました。放牧施設は、電気牧柵(高さ90cm)を防火帯の両側に設置し通路のようにしました。また、飲水は、500gタンクとバスタブにフロートを付けて水があふれないようにしました。

3 結 果

  1. 電気牧柵を長さ1km、幅20m、延長2,040mを設置する労働時間は、1人役で19時間でした。また、直接経費は、電牧器単価75千円×2台、電牧線単価18.4円×2,040m、ポスト(支柱、5m間隔)単価410円×408本、合計356千円でした。
  2. 牛の舌刈りによる野草地(ススキ、ネザザ)内の草丈は、放牧開始前は、99cmであったものが、放牧4か月後に23cmと短くなりました。
  3. 牛の舌刈りによる野草地(ススキ、ネザザ)内の1ha当たりの生草収量は、放牧開始前は、14.5tであったものが、放牧4か月後に0.7tとなり、約95%が牛の胃袋へ入った計算になります。
  4. 野草地で1ha当たり500kgの牛が生活できる日数は、638日で1年間1.7頭の牛が飼えると考えられました。
  5. 飲水量は、1日1頭当たり夏場で最高45gでしたので、この量を確保すればよいことが分かりました。
  6. 野草地で補助飼料を1日1kg程度給与した放牧牛の糞のアンモニア態窒素は、糞そのもので100g中9.6mgでしたが、真下の土壌でほとんど増えていないことから、糞によるアンモニア態窒素の影響はないのではないかと考えられましたが、今後さらに調査をする必要があります。
  7. 防火帯に囲まれた野草地0.5haに火入れを実施したところ、防火効果が確認でき、防火帯設置に有効と考えられました。

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