防長の畜産

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 将来の枝肉のあり方について

全農近畜センタ― 五十川 豪

1.はじめに

 近年、畜産をとりまく情勢は、ますます厳しいものとなってきております。素牛価格の高騰・枝肉市況の低迷・長引く不況にともなう消費不振など、様々な要因が情勢を厳しくさせていると思われます。特に昨年は、口蹄疫の発生や雪印問題等、畜産関係者にとっては、非常に強い向かい風が吹いた1年でした。しかし、情勢が、厳しい厳しいとばかり言ってはいられません。この状況の中でも、皆様に勝ち残っていただく為、私が、全農近畿畜産センターの牛枝肉販売担当者として、最前線で販売業務を行っている中で、日々強く感じている事・思っている事を中心に、今後の肉牛生産について述べさせていただき、皆さんが、肉牛生産の方向性を考えられる上での一つの指針にでもなればと考えております。

2.枝肉重量について

それでは、将来のことを考える前に、現在の牛枝肉の情勢について見ていきたいと思います。まず、近年の傾向として現れているのが、枝肉重量の増加です。和牛去勢枝肉重量の全国平均は、平成8年度には、421.2 Kgであったものが、平成11年度には、431.6Kgと、わずか3年の間に平均が10Kg以上増えています。特に最近では、600Kg近い枝肉も、そう珍しくありません。目方の大きい牛というのは、エサの食い込みがよく、肉質・内容のしっかりした牛が、多数みられます。一方で、骨が太くて、ムダ脂が多く、正肉歩留まりが悪い・分割して、部分肉にしても大きすぎて、スライサーに入らない、などの欠点も抱えています。しかし、枝肉重量×単価で販売金額が決まる以上、ある程度の枝肉重量の増加というのは、避けられないと思います。(上述の欠点もある為、重量が付きすぎると、今度は単価が下がるということも十分頭に入れておいて下さい)

3.枝肉格付単価について

 次に挙げられる事としては、5等級の発生の低下及び市況の低迷です。平成3年度の全国和牛去勢枝肉の格付は、5等級29.9%・4等級32.6%と、4等級以上発生率が62.5%でした。平成11年度では、5等級14.9%・4等級29.2%で、4等級以上発生率は、44.1%となってます。両者を比較すると、4等級以上の発生率で18.4%,5等級の発生で15%ダウンしています。また、市況(大阪市場)をみると、平成3年度、和牛去勢A−5の平均は、2,784円、A−4は、2,246円でしたが、平成11年度では、A−5・2,365円、A−4・1,900円となってます。5等級発生の低下も実態としてありますが、単に格付けだけの問題ではありません。格付け(=芯のサシ)だけでなく、牛の内容、特に、モモへのサシの抜けの悪化も傾向としてみられます。今現在、市場において、5等級より値段の高い4等級、4等級より高い3等級の取引も実態としてあります。それは、購買者が、芯のサシ(=格付け)だけではなく、牛の内容(=周囲筋・モモ抜けの良さなど)の良し悪しで牛を評価しているという事です。今、末端流通の基本は、部分肉です。部分肉においては、部位ごとの相対評価となり、内容が重視されるのは当たり前のことです。よって、単純に、格付けが、A5だからといって、それが、評価される牛とは限らなくなってきているのが、現状なのです。今後、この内容重視という傾向は、ますます拍車がかかるものと思われます。
 バブル経済崩壊後の消費不振・消費者の低価格志向に相俟って、以上のような、枝肉の内容の低下というものが、今日の枝肉市況を、低迷させているのでしょう。

4.将来の売れる牛とは

 では、将来のあるべき枝肉とはどんなものでしょうか?それは、「売れる牛」ということになるでしょう。「売れる牛」とは、購買者が欲しがる牛のことです。具体的に求められるのは、ロース芯のサシ・大きさのみならず、肉色の良さ、肉のつや・照り・乾き・キメシマリ、モモ抜け、周囲筋の良さ、バラの厚みなどです。逆に、売れない・値段の出ない牛とは、脂肪が厚い、ロース芯が小さい、筋間脂肪がかんでいるなどの欠点を多く持っている牛です。
 消費者が欲しがる肉は、「安くて美味しい肉」です。最近では、それに「安心・安全」という項目も加わってきています。国産牛というのは、種別をとはず、元をたどれば、全て、生産者が見える安心な商品です。まして食べて美味しいとなれば、まさに「消費者に好まれる肉」という事になります。美味な国産和牛肉は、この厳しい状況の中でも、十分に勝ち残っていくでしょうし、そうなる為、私達は、JAと連携した生産指導を行わなければなりません。一方で、生産者の皆様には、低コスト肥育経営による日々の肥育技術の研鑚に取り組み、「売れる枝肉」作りを目指して、がんばっていただきたいと、強く願っています。


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