山口県畜産課 大城 健一郎
21世紀を迎え社会情勢、経済情勢が大きな変革期に直面している中で、畜産についても、社会情勢の変化や国際化の進展に対応して抜本的に見直し、新たな認識での取り組みが求められている。
これらの状況の中で、本県肉用牛の現状や抱えている課題、さらに、昨年11月に開催された肉用牛振興大会やその後の検討会で示唆された改良方向や牛肉消費動向などを踏まえ、今後「やまぐち和牛」が産地間競争に打ち勝ち、健全な発展を続るための方策などを示し、皆さんの意見を伺いたい。
1 現 状
(1)飼養頭数と戸数
本県の肉用牛経営は、中規模以上の農家は所得を確保するため規模を拡大したものの、高齢者を中心とした小規模農家の一部が経営を中止したため、戸数は1,140戸に減少し、頭数は20,100頭となっている。
しかし、内容をみると肉用牛全体は前年に比べ減少している中にあって、主体となっている黒毛和種は平成3年の輸入自由化時と現在の頭数もほとんど変わっておらず、さらに、基礎となる繁殖牛は若干ではあるが増加していることは今後の肉用牛振興を図る上で心強く思っている。
【 飼養戸数及び頭数 】
区 分\ 年
|
60年
|
3 年
|
7 年
|
10年
|
11年
|
12年
|
戸 数 |
3,860
|
2,520
|
1,700
|
1,280
|
1,210
|
1,140
|
頭 数 |
24,600
|
22,600
|
21,800
|
20,900
|
21,000
|
20,100
|
内繁殖牛 |
5,800
|
5,830
|
5,450
|
5,030
|
5,070
|
5,170
|
内
訳
|
黒 毛 |
15,723
|
14,797
|
15,711
|
14,615
|
14,704
|
14,619
|
無 角 |
2,271
|
999
|
258
|
270
|
281
|
252
|
交 雑 種 |
-
|
860
|
2,400
|
3,620
|
3,902
|
2,942
|
乳用種他 |
6,606
|
5,944
|
3,431
|
2,395
|
2,113
|
2,287
|
飼養規模 |
6.4
|
9.0
|
12.8
|
16.3
|
17.4
|
17.6
|
(単位:戸、頭)
※出典;各年2月1日の農林水産統計、見島F1は交雑種に含む
(2)価格動向と生産額
最近の子牛価格は、平成5年度を底に上昇しており、特に平成9年度以降は中国地域の中でも他県より高値で推移している。枝肉価格は、ここ2年間やや低迷しており、肥育農家にとっては経営的に厳しい状況にある。
また、平成11年度の山口県の農業粗生産額が前年比で12%減少している中で、肉用牛粗生産額は子牛価格が高いこともあって、56億8千万円と4億円 (8.1%)増加し、農家所得の向上に大きく貢献している。
【粗生産額 】
区 分
|
60年
|
3 年
|
7 年
|
9 年
|
10年
|
11年
|
農 業 総 額 |
122,234
|
104,518
|
106,625
|
93,783
|
95,126
|
83,570
|
畜 産 合 計 |
32,200
|
28,489
|
23,295
|
22,725
|
22,424
|
22,860
|
肉 用 牛 計 |
3,835
|
6,408
|
5,366
|
4,854
|
5,254
|
5,680
|
肉用牛/畜産 |
11.9
|
22.5
|
23.0
|
21.4
|
23.4
|
24.9
|
肉用牛/総額 |
3.1
|
6.1
|
5.0
|
5.2
|
5.5
|
6.8
|
(単位:100万円,%)
※ 出典;生産農業所得統計調査
(3)繁殖牛の血統構成
県内で飼養されている繁殖雌牛(4,015頭)について、その父牛を系統別に分けると兵庫系が44%、島根系が31%と2系統で75%を占めている。最近は、これに鹿児島・鳥取系を加えた3系統での適正交配により市場性の高い子牛が生産されている。
【 県内の繁殖雌牛群の系統 】
区 分
|
祖父牛
|
合 計(%)
|
兵庫県
|
島根県
|
鹿児島県
|
山口県
|
鳥取県
|
その他
|
父
牛
|
兵 庫 県 |
516
|
556
|
68
|
50
|
292
|
283
|
1,765(44.0)
|
島 根 県 |
386
|
649
|
28
|
20
|
86
|
56
|
1,225(30.5)
|
鹿児島県 |
276
|
47
|
30
|
19
|
40
|
21
|
433(10.8)
|
山 口 県 |
72
|
44
|
3
|
12
|
33
|
17
|
181( 4.5)
|
鳥 取 県 |
83
|
3
|
13
|
3
|
35
|
5
|
142( 3.5)
|
そ の 他 |
59
|
23
|
6
|
2
|
6
|
173
|
269( 6.7)
|
合 計(%)
|
1,392
(34.7)
|
1,322
(32.9)
|
148
( 3.7)
|
106
( 2.6)
|
492
(12.3)
|
555
(13.8)
|
4,015
|
(単位:頭,%)
平成11年6月時点調査
(4)やまぐち和牛の枝肉成績
農協系統の一般出荷と県共進会出荷の枝肉成績を見ると、従来、「やまぐち和牛」の欠点とされていた枝肉重量も10年度以降改善されている。
また、8年度から3年間京阪神地域で「やまぐち和牛」のブランド化を推進した結果、品質的には一定の評価を得た。
やまぐち和牛の枝肉成績の現状
1 やまぐち和牛の枝肉目標
性\項目 |
枝肉重量(kg)
|
脂肪交雑 基準値
|
ロース芯面積(cm2)
|
去勢
|
450
|
BMS 7
|
55
|
雌
|
400
|
BMS 7
|
55
|
2 農協系黒毛和種枝肉販売頭数と枝肉重量
区 分
|
去 勢 牛
|
雌 牛
|
頭数
(頭)
|
枝肉重量
(kg)
|
BMS
(No.)
|
枝肉価格
(千円)
|
頭数
(頭)
|
枝肉重量
(kg)
|
BMS
(No.)
|
枝肉価格
(千円)
|
8年度
|
1,533
|
419
|
5.1
|
683
|
466
|
379
|
4.6
|
575
|
9年度
|
1,504
|
424
|
5.2
|
735
|
437
|
380
|
4.7
|
615
|
10年度 |
1,427
|
426
|
5.2
|
732
|
565
|
337
|
4.6
|
597
|
11年度 |
1,566
|
432
|
5.0
|
715
|
568
|
379
|
4.5
|
580
|
3 県共進会枝肉区の成績(去勢)
区 分
|
頭数
|
月齢
(月)
|
生体重
(kg)
|
4・5率
(%)
|
枝肉重量
(kg)
|
BMS
( No.)
|
ロース芯
(cm2)
|
歩留基準
(%)
|
バラ厚
(p)
|
販売価格
(千円)
|
7年度 |
66
|
27.4
|
698
|
72.7
|
446.2
|
6.0
|
52.4
|
72.8
|
7.1
|
750
|
8年度 |
70
|
26.9
|
705
|
61.5
|
451.8
|
5.9
|
51.6
|
72.7
|
7.0
|
791
|
9年度 |
61
|
26.8
|
709
|
65.6
|
454.0
|
5.7
|
50.0
|
72.8
|
7.6
|
823
|
10年度 |
74
|
27.9
|
716
|
67.6
|
457.7
|
6.1
|
54.0
|
73.3
|
7.5
|
844
|
11年度 |
69
|
27.2
|
757
|
70.0
|
485.5
|
6.0
|
55.0
|
72.9
|
7.5
|
883
|
12 年度 |
83
|
27.6
|
748
|
66.4
|
480.8
|
5.7
|
54.7
|
73.0
|
7.5
|
858
|
2 課 題
(1)ロットの拡大
県内の子牛価格は中国地域では最も高く、県内外の肥育農家から高く評価されているが、県外から購買者を呼ぶには上場頭数が少なく、繁殖牛を増頭して子牛市場のロット拡大を図る必要がある。
また、肥育牛についても京阪神地域で、品質や値頃感で流通業者と消費者の評価を得ているが、出荷ロットが不足し、ブランドを確立するまでには至っていない。
(2)斉一性の向上
山口中央家畜市場に上場されている子牛の父牛は30〜40頭と多く、これが子牛のバラツキの要因にもなっている。今後、斉一性を向上させるには交配種雄牛の頭数を少なくするとともに、繁殖雌牛群の整備と適正交配を推進する必要がある。
3 状況の変化
輸入牛肉の増加や牛肉消費動向の変化などにより和牛を取り巻く状況は大きく変化しつつある。
(1)JAS法改正に伴う産地表示
消費者の食品の品質及び安全性や健康に対する関心の高まりを受け、JAS法が改正され、平成12年7月から食肉を含む全ての生鮮食品に原産地表示が義務づけられ、国内における産地間競争が激化してる。
(2)輸入牛肉の品質向上
昨年末の農業新聞で4回にわたって連載された海外産地情報などによると、数年前に一部の業者が輸出した和牛を利用した和牛F1(和牛×アンガス)がオーストラリアで生産・肥育されたものが数百頭輸入された。数年後には10倍程度に増加することが見込まれており、これに対する早急な対応が必要と思われる。
日本の商社が絡んで日本向けの肥育が行なわれており、品質的にも日本の格付けで5等級が1割程度でており、専門家の選別でも国産に近いものができているという事実は驚異であり、国内生産者も意識を大きく変えて対応する必要がある。
(3)焼肉・外食消費の増加
最近の食肉消費動向は、NHKの放送や新聞報道などを見ると焼肉や外食消費が増加しており、それに伴う和牛に対する多様な消費者ニーズが紹介さ れている。このため、和牛の中程度の肉質の需要が増加し、生産現場においても一部に従来の肉質重視から増体を重視した低コスト肥育を目指す動きが見られるなど、和牛を取り巻く情勢は確実に変化しつつある。
4 今後の方向
和牛を取り巻く状況の変化に対応し、国内の産地間競争に打ち勝ち「やまぐち和牛」が生き残るには、肉用牛関係者が同一認識で一体的に取り組む必要がある。
(1)繁殖雌牛群の整備
「やまぐち和牛」の産地を確立するためには、繁殖雌牛の肉質、増体、繁殖性などを調査・整理し、データに基づいた選抜・淘汰により能力的に高く、斉一性のある繁殖雌牛群を早急に整備して、品質差の少ない商品性の高い「やまぐち和牛」をつくる必要がある。
また、個々の繁殖農家においても、自己経営の中で能力の高い看板牛を見つけ(持ち)、その系統を中心に保留して能力の高い繁殖雌牛群を整備し、経営の安定を図る必要がある。
(2)消費動向を踏まえた改良方向
従来は、市場評価を反映して肉質重視の改良を進めてきたが、最近の焼肉や外食の増加などの消費動向の変化により中程度の肉質の需要が増加している状況を踏まえ、新たな視点での改良方向を進める必要がある。
- 肉量と肉質のバランスのとれた改良。
- 繁殖雌牛の育種価、血統、体型などを把握し、それを補完する適正交配を進めて、斉一性を高め、大型化することを基本とする。
- 肉質は5等級のBMS10以上を狙う肉質重視型ではなく、4等級程度の肉質で増体を重視した生産性の向上型を進める。
- 繁殖能力の向上など総合的な生産能力の向上。
- 分娩間隔の短縮、泌乳能力などの種牛能力の向上を図る。
- 消費者ニーズ(味、風味)を視野に入れた改良。
- 市場で評価されない味、風味を改善して消費者に評価される「やまぐち和牛肉」の生産を推進する。
(3)生産性の向上
改良による能力向上だけでなく、飼養管理技術の改善、省力化などの生産性向上を重視し、農家所得の向上図る。
- 繁殖経営対策
- 繁殖経営では、省力化、低コスト化をを基本とし、効率的な牛舎改築や放牧利用を推進する。
- 超早期離乳(人工哺育)などの先進技術を取り入れ、母牛の繁殖性の向上を図る。(1年1産の実現)
- 粗飼料主体の子牛育成マニュアルにより飼育管理を統一し、市場性の高い子牛生産を行う。
- 若手経営者や大規模経営は、子牛価格に左右されない経営が安定した繁殖肥育一貫経営へ誘導する。
- 肥育経営対策
- 将来的には、消費者の評価の高い「安全で美味しい牛肉」生産に向けた肥育を行い、本物のブランドを確立する必要ある。
- 和牛肉の消費動向の変化に対応した各経営体の肥育目標を明確にし、方針に見合った素牛の導入、飼養管理を行う。
- 輸入牛肉の増加や品質向上などの状況を踏まえ、長期的には肥育期間を短縮などによる生産コストの削減を行う。
(4)ロットの拡大
今後の産地間競争に打ち勝ち「やまぐち和牛」の産地を確立するためには、子牛、肥育牛ともに出荷ロットを拡大して、定時・定量・定品質の出荷体制 を整える必要がある。
主要産地に資源循環型で環境保全に考慮した拠点団地を整備し、これを拠点として地域の肉用牛の増頭を進める。この拠点団地で企業的な法人経営を育成し、雇用による新規就農の受け皿機能など、増頭へ向けての主要な担い手とする。
また、高齢化が進む繁殖経営では、肉用牛生産小組合や女性グループの組織活動の活性化を図り、仲間の連携を強めるとともに粗飼料確保、子牛出荷などの受託組織を育成し、繁殖牛の増頭を図る。
従来、和牛は高品質化に向けた改良や肥育技術の向上を進めて、品質面で輸入牛肉に対抗してきたが、昨今の輸入牛肉は、和牛を利用した品質の高い輸入牛肉が増加しており、新たな観点での肉用牛振興への取り組みが必要である。
このためには、国内の産地とも交流を活発化し、アンテナを高くして情報交換を行うなど、国内産地が連携して消費者に支持される国産牛肉を安定供給していく必要がある。
今後、「やまぐち和牛」をさらに発展させるためには、繁殖農家は購買者である肥育農家に好まれる子牛を生産し、肥育農家は市場評価だけでなく消費者に買ってもらえる“味、風味のある旨い牛肉”を生産するとともに、生産者、流通販売業者、消費者が交流して相互理解を深めて本物のブランドを作る必要がある。
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