山口県に西日本一のノシバ草地

畜産コンサルタント 清水 誠

 私の住んでいる団地にも庭に芝生を植え、気候が良くなるとよく家族でバーベキューなどを楽しんでいるお宅がある。いつか私も、と思うばかりで実践が伴わない面倒くさがりやの畜産コンサルタントに、芝生は憧れの一つでもある。

 もう5年くらい前になるが、島根県の三瓶山へ研修に行ったとき、あの有名な川村さんが説明してくれたスキー場のシバがとても印象に残っている。牛達の力で、少しづつ広がっていったことを熱心に語っていた川村さんの話を聞いて、すごい牛飼がいるものだと感心し、やはり、牛は放牧、それも、シバ草地というイメージが畜産コンサルタントの頭にインプットされている。

 山口県では、水田放牧事業という名前の、いわゆる米を作っていない棚田へ牛を放牧するための事業を全国に先駆けて行っている。参加農家の一人である、油谷町の

谷川さんの放牧地には、毎年お邪魔をしている。ここでは、数年前に植えたノシバがかなり広がり、シバ草地らしくなっているのを毎年楽しみにしていた。放牧地にノシバを活用している農家は少しづつ増えている。

 しかし、もっと身近に、本格的にノシバ草地を作っていたところがあった。ふれあい牧場でも紹介している山口県酪農農業協同組合の

「しらさぎ牧場」である。その名前も、場所もよく知っていたし、毎年行われるジュニアデイリーショーも行ったことがある。最近では研修室でパソコン教室なども開催している、とても馴染みの公共牧場である。牧場というからには牛がいるわけであるが、育成牛や肥育がいる程度の認識しかなかったのが無知というもの。なんと、ET研究用にF1を飼育し、その牛達が放牧されていたのである。

 現在、全草地面積70haのうち10haがノシバ草地となっている。ノシバを植え始めたのが平成元年というから、かれこれ10年。当初は植付け方法が良く分からず、人力で押し苗作業を行い、大変苦労されたらしい。雑草との戦いの末、4年目でノシバが全面に定着し、その後の維持管理は牛達の放牧で行われている。

 訪れたのは平成11年5月11日。この日は、山口県草地研究会の総会と11年度第一回研究会として、元高知県畜産試験場長の上田孝道先生の講演と「しらさぎ牧場」での現地研修が行われた。畜産コンサルタントも幹事兼編集委員という大役を仰せつかっている(ほどんど役に立っていない)。まず上田先生の講演。高知県のノシバといえば上田場長、と全国的に有名な元場長さんの講演は穏やかな口調ながら、とても多面的にノシバの事を考え、研究されてこられたことが伺われた(私の前に座っていた、県酪の課長はコックリコックリ、お疲れ様!)。山口県出身の童謡作家・金子みすずの「シバ草」という詩にとても感動していたのが、なんとも嬉しかった。

 昼食後、「しらさぎ牧場」へ。いつも、ジュニアデイリーショーなどが開催される広場から、入り口から反対側の方向へしばらく歩いていくと、育成牛達の牛舎があり、道沿いにはカーフハッチが並んでおり、子牛達が日ごろ目にしない大勢の人間に少し驚いている。牛舎を通りすぎ、さらに進むと、牧柵が開けられており、日ごろは牛しかいない放牧地へと入っていった。

 確かにノシバが広がっている。この日は暑いくらいの五月晴れであり、研修というよりも、ハイキングにきた気分である。周りの木々は新緑が鮮やかであるが、ノシバの方は8月くらいがとても緑が美しくなるそうである。

 それでは下から見てみようと傾斜を下っていくと青空を背景に、ノシバ草地らしくみえてきた。こうやって見ると、牛たちは大変環境の良い場所で暮らしていることが実感できる。保育園に通っている私の娘が、ここへきたら大喜びしそうである。牛のフンがところどころ見られるが、既にカラカラになっている。先ほどの講演の中で、「ノシバで放牧された牛のフンは形が良く、自然分解が早い。」という話があったが、まさにその通りである。アニメの主人公アラレちゃんが、道に落ちているウンチを棒でツンツンして喜んでいるシーンを羨ましそうに見ている娘に、是非ツンツンしてもらいたいウンチである。

 さて、フンだけでなく、もう少し良く見ると、白クローバーや黄色い花を付けた豆科の植物と所々不自然に枯れたところがある。牧場の高橋場長さんに聞いてみると、あのギシギシへ除草剤を散布したところだそうだ。やはりこのギシギシだけはなかなか退治できないらしい。ちなみに、黄色い花をつけた草は「ヤハギ草」という名前だそうだ。一つ知識が増えてしまった。

 場長さんの話では、今後、隣接している林を徐々に放牧地へ広げていく予定であり、近い将来、ふれあい牧場としての機能を充実させていきたいらしい。ここは公共とはいえ、県酪農協が運営する牧場であり、採算を考えると多くの課題があるのだろう。しかし、せっかく苦労して築き上げてきたこのノシバ草地を、できるだけ多くの人に知ってもらいたいという希望は痛切に感じている。遠くに放牧された牛を見ながら、牛のウンチをツンツンする娘の姿を、是非ビデオに撮りたい畜産コンサルタントであった。

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