2 生産性向上のための養豚管理
三 隅 町    大 草 浩 司  

1. 地 域 の 概 況

  三隅町は山口県北西部に位置し、 東隣りは明治維新の胎動の地といわれる萩市があり、 西隣りは観光地である青海島や、 山手に入るとこの地方随一の温泉郷である湯本温泉をもつ長門市がある。 日本海を望むと変化に富む海岸線一帯は 「北長門海岸国定公園」 および 「西長門海岸県立自然公園」 に指定された風光明媚な地である。

 三隅町は県下でも有数な畜産地帯で、 養豚は勿論のこと肉用牛、 ブロイラーも多く飼 養されている。

2. 経 営 の 概 況

 (1) 飼 養 頭 数

 高校を卒業後、 1年間の養豚研修を終えて、 昭和58年に家業である養豚 経営を父から引き継いだ。

 経営規模は、 当時は80頭規模からスタートし、 現在は母豚100頭規模の一貫経営である。

 (2) 労  働  力
区  分 年  齢 従 事 日 数 経 験 年 数
本  人 32 300 13
32 300 11

 (3) 建物・機械
種  類 形式・構造 面積・数 備  考
豚  舎 1 鉄骨スレート 600u 分娩・ストール
豚  舎 2 540 交配・子豚育成
肉 豚 舎 700 田屋養豚組合
堆 肥 舎 270  
ダ ン プ 2 t 1台  
トラック 2 t 1  
ショベルローダ   1  
汚 水 処 理 槽 ブロック積 1  

   その他、 パソコンを利用して生産管理を行っている。

 (3) 補助・融資事業

 豚舎、 堆肥舎、 ダンプ等は昭和53年から近代化資金等で整備。 肉豚舎は昭和53年に農業構造改善事業で6戸の農家と共同畜舎として、 別の団地に建築したものである。

 環境汚染対策は、 汚水処理施設として汚水処理槽等を自力でブロック等を積み重ね設置した。 (図1)



3. 生 産 性 向 上

 (1) 母 豚 管 理

 母豚は、 管理を容易にし生産性を向上させるため集約管理とし、 週ごとに離乳日を統一して、 毎週木曜日に群で離乳を行っている。 離乳後の母豚は2〜3頭の群管理をすると4〜7日後の翌週月曜日から木曜日に発情がくる。 つまり群で離乳等の管理をすることにより、 1頭ごとの離乳よりも発情再帰が良好となっている。

 繁殖成績向上のために、 雌豚は離乳後7日以内に授精できることを目標にしている。 そこで、 まず離乳後から授精までフラッシングを行っている。

 次に、 飼料給与量の調節は繁殖に大きい影響があることから、 母豚1頭当たり豚用配合飼料給与は表3のとおりで、 離乳から授精までは4〜5kg、 授精後は過肥にならないように1日2kg程度にしている。 さらに分娩1ケ月前頃から最初の日は3kg、 次の日から子豚の生時体重が平均1.4〜1.5kgにするために、 給与量を徐々に増やし分娩近くには5〜6kgを給与している。

 母豚の哺乳中は乳量をアップさせ、 哺乳中のやせ過ぎを防ぐために授乳期専用の飼料を分娩から離乳まで、 最初は1kg給与から3kg、 そして3.5kg、 さらに増量して4週目頃は5〜6kg給与している。 これによって、 離乳後の発情再起がよくなっている。

表−3 飼料給与体系


 母豚は授精後、 ストール等に入れできるだけ安静にさせている。 その際、 再発情がある場合があるので注意深く観察する。 妊娠鑑定は超音波による方法もあるが、 直腸検査法を習得していると、 より確実である。

 (2) 分娩前後の管理

 分娩前の母豚は最低一週間までには、 豚房に入れる。 餌は分娩3日前から徐々に減らし、 分娩当日頃は1kg位にまでする。 分娩は、 看護分娩が最善である。 豚は夜間分娩が多いので、 看護が疎かになる恐れがある。 その場合分娩誘発剤を使用して昼間に分娩させ、 確実に看護を行えば分娩時の事故はかなり減少する。

 (3) 哺乳中の子豚管理

  ア 事 故 防 止

 哺乳中の子豚の死亡原因は、 未熟子豚の衰弱によるもの、 母豚による圧死、 下痢等の疾病が主な原因と思われる。

 先ず、 未熟子豚については、 先に述べたように母豚の妊娠後期に飼料を5〜6kg給与し出来るだけ子豚の体重を大きくする。 それでも未熟豚が生まれた場合は母乳を搾って、 それを子豚に与え他の健康な子豚に負けないようにしてやる。

 母豚による圧死は、 生後一週間以内、 特に3日以内が殆どではないかと考えている。 この対策として、 母豚が立ち上がるとセンサーが働き、 腹の下に風を送り子豚を逃がす圧死防止器を設置しており、 これは効果があると考えている。 使用開始後、 母豚1腹平均で圧死が約1頭減少した。

圧死防止器

  イ 温 度 管 理

 分娩豚房の中では母豚と子豚の適温が違うため、 別に子豚用保温箱を設置している。 保温箱は蓋をつけ、 中のヒーターは温度管理器でコントロールしている。 温度管理器は温度の調節が出来るので、 保温箱内を子豚の適温に調節してやると、 その中で寝るようになり、 必要な時以外は箱外に出ないので、 圧死防止や下痢の予防と事故対策によい。 またこの管理器はマイコン制御であることから、 電気料金は経済的である。

温度コントローラー
 (4) 疾 病 対 策

 下痢等疾病の予防は、 分娩豚房の洗浄消毒が大切である。 まず豚房を掃除後、 水洗し、 消毒薬を隅々まで散布する。 その際、 発泡消毒用のノズルを使用すると、 消毒薬の付着状況がよく効果があるように思っている。 これが終了後、 充分乾燥し、 最後の消毒として石灰乳散布をし、 乾燥後に豚をいれている。

 また、 必要なワクチンはその都度実施している。

 (5) そ  の  他

 肉豚の飼育は、 この繁殖豚舎から約4km離れた6戸の共同の肥育団地で、 当場所有の1棟の豚舎があり、 ここで3カ月飼養管理して出荷している。

 これら細心の注意を払いながらの作業を行うことによって繁殖、 分娩率、 育成率等の向上に努力した結果、 成績は向上してきている。

4. 糞 尿 処 理

  環境汚染対策として糞尿処理と臭気については、 どこの養豚場でも種々の問題を抱えていると思われる。

 近ごろは、 堆肥の発酵促進や臭気対策に、 様々な微生物資材等が販売されている。 また、 それを飼料の中に混ぜて販売されている場合もある。 これらは、 今後、 糞尿処理を効率的に行うためには必要と思っている。 あくまでも有機微生物、 つまり生き物が糞尿や臭気を処理するということを考えておくことが必要である。

 当場でも、 微生物資材を混合したの配合飼料を給与し、 堆肥の発酵促進等に効果をあげている。

 まず糞処理として、 平素はストール飼育以外の豚房にオガクズを敷いているが、 これら混合糞の処理は、 まずこれを堆肥舎に運び、 既に製品として確保している発酵堆肥を水分調整剤として混合し発酵処理している。

 つまり、 微生物資材が給与飼料を通して糞に混ざっていると考えられるオガクズ混合糞は、 これに水分調整用の発酵堆肥の混合で発酵が早くなり、 約1カ月位で良質な発酵堆肥になっている。 さらに、 その都度、 水分調整剤として発酵堆肥を使用するために、 発酵糞の全体量はあまり増量しない点が利点となっている。

 次に尿・汚水の処理は活性汚泥法で放流出来るところがあれば、 その方法を充分利用すればよい。 しかし、 今後、 環境問題は厳しくなり、 汚水の少しの放流も厳しいことから、 豚舎から出る処理水の処理について、 次の2点を考慮している。

 [1] 豚に水を充分な飲ますために、 給水器を工夫して、 こぼれ水を最小限にしている。

 [2] 汚水を処理するためには、 浄化槽等が必要となるが市販のものは、 かなりコスト高であることから、 当場ではブロック等を用いて自力で設置した。

 豚飼養の場合、 汚水処理がうまくできれば、 糞尿処理にかかる時間が、 もっと少なくできるし、 規模拡大ができるが難しい問題でもある。

6. 今 後 の 課 題

  繁殖成績や育成率等の更なる向上を目指すためには、 豚舎をウインドレスにし、 豚舎内の環境を充分にコントロール出来るようにする。 また、 オールイン・オールアウトが行える豚舎構造にすべきである。

 次に糞尿処理等で地域から公害と言われないよう、 環境汚染問題を解決を図らなければならず、 しかもこれに掛かるコストが高くなれば経営に大きく影響する。

 生産性の向上を図りながら、 低コストで出来るだけ手間のかからない方法で環境汚染問題を解決する方法ができれば、 もっと増頭も可能とおもわれる。



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