養豚報告書

Ⅰ　特徴ある取り組みの事例紹介

１　養豚の管理技術について

鹿野町　(有)鹿野ファーム　　　　代表取締役　佐　武　克　也　　

１．概　　　　　況

　鹿野町は山口県の中央部の山間地域に位置し、当牧場はこの町の北東の山間部で、標高650mの高地にある。この地方は水田農業を中心とした山合いの過疎地で、耕地面積が少ない地区である。この地で農業をするには畜産を取り入れる以外に道がないことから、養豚を中心に、米、畑作等の経営を続けてきた。

　現在は、これに加え和牛一貫経営 (母牛50頭規模) の完成を目指しており畜産を中心に、観光を兼ねた複合経営を構築中である。

２．経営の概況

　(1)　経営の推移

　　・会社設立 (３戸) 昭和57年

　　・稼働開始は昭和59年より原種豚200頭　種豚220頭で計420頭規模

　　・平成元年　阿武郡阿東町徳佐分場開設、種豚60頭

　　・平成元年より食肉加工場稼働

　　・平成２年より和牛一貫経営部門開始

　　・平成６年度食肉加工場新築移転　年間肉豚1,500頭処理に拡大

　　・平成６年　肉豚舎建築

　　・平成７年度豚舎大改造
　オールイン・オールアウト方式を取り入れ、同時にこの全農場を原種豚飼育種豚雌生産農場とする (現種豚440頭)
　　・平成８年度徳佐分場の大改造
　　　　原種豚飼育種豚雄生産農場とする (原種豚60頭)
　この地域は、集落より約６km離れた標高650mの山間部で、周囲は山林に囲まれた約40,000㎡程度の水田及び耕作放棄地を整備し豚舎を計画的に建築したものである。

養豚場の全景

　(2)　経営内容の推移

　表－１

Ｓ58～63 Ｈ　2 Ｈ　5 Ｈ　8 目標備考

種　　豚（頭） 220 220 280 - - 分場含む

原種豚　（頭） 200 200 220 500 500 〃

水田　　（ha） 2 2 1 1 1 　

畑　　　（ha） 0.5 - - - - 　

草地　　（ha） 0 0 4 4 7 　

繁殖雌牛（頭） 0 10 11 14 50 一貫経営

肉豚　　（頭） 0 500 800 1,000 1,500 食品加工

　　・平成７年度より本場・分場とも種豚飼養を中止し、平成８年度で原種豚500頭飼養とした。ここで生産した種豚は一貫生産農場に販売され飼養している。

　　・食品加工用の肉豚1,000頭は当場で飼育されたものである。

　　・牛の一貫経営は平成２年より開始、繁殖雌牛は平成８年には14頭に増頭し、以後50頭に増頭の計画である。

　(3)　事　業　導　入
　豚舎等の施設は総て公庫資金の借入れで事業を行った。
　和牛飼養開始にあたって平成２年度水田放牧普及促進事業 (単県) を取り組み、次に平成６年度地全協事業で食肉加工場を新設し、豚肉を加工処理し、ハム・ソーセージ生産販売を本格的に開始した。

ハム工房

　(4)　経　営　基　盤
　　ア　労　働　力
　構成員 (出資者) ６名、社員23名、パート12名で本場 (440頭の原種豚管理) と徳佐分場 (原種豚60頭) 及び加工場の仕事を、さらに新たに開始した牛舎施設で肉牛の管理をしている。

職員写真

　　イ　土　　　地

表－２

施設用地水　田草　地放牧地山　林備　考

面積（ha） 3 1 4 1 18 平成８年現在

農場直営の水田を所有しており米を生産している。

　　ウ　建　　　物

表－３　本　場　　豚　舎

施　　設数面積(㎡) 施　　設数面積(㎡)

繁殖豚舎 1 850 分娩舎 1 1,100

子豚育成舎 2 1,500 導入豚舎 1 440

若雌育成舎 4 3,800 堆肥倉庫 2 820

倉庫 2 150 管理棟 1 100

研修棟 1 150 肉豚舎(堆積豚舎) 3 1,900

団地の中に繁殖豚舎、分娩舎、育成舎、肉豚舎、堆肥舎等を公庫資金で建てた。

表－４　牛　舎

施　　設数面積(㎡) 施　　設数面積(㎡)

繁殖舎 1 180 育成肥育舎 1 220

堆肥舎 2 1,200

また肥育牛舎も建築予定である。

表－５　分　場

施　　設数面積(㎡) 施　　設数面積(㎡)

繁　殖　舎 1 387 堆　肥　舎 1 64

育　成　舎 1 452 管　理　舎 1 10

導入豚舎 1 30

阿東町徳佐に分場を設けている。

　(5)　農　業　収　入　　平成７年度

表－６

項　　目金額(千円) 率項　　目金額(千円) 率

種豚売上 116,000 27.8 肉豚売上 216,000 51.8

農業売上 3,100 0.8 加工売上 73,800 17.7

その他売上 8,400 2.0 計 417,300 100.0

肉豚・種豚の売上げが多い。

３．管理技術の概要

　(1)　豚舎改造の目的

　　・豚舎作業全体の流れを一本化し、分娩から出荷まで週単位のオールイン・オールアウト方式を取り入れた。

　　・各部門の管理を責任制とした。

　　・週休２日制を目指すため、すべての作業を週作業とした。 (現在隔週休２日制)

　表－７　週作業の内容

月火水木金土日

繁殖舎交配交配ワクチン・交配受入・妊確日飼育管理のみ

分娩舎導入去勢入墨・ワクチン離乳・子豚移動　

子豚舎移動水洗消毒・ワクチン子豚受入交代休日

育成舎受入　ワクチン水　洗　

肉豚舎出荷受入・出荷　（廃豚出荷）　

　　・各豚舎ごと一週間の作業内容を決め、この計画によって作業を行う方法である。

　　・各豚舎とも給餌や除糞等の日常管理は朝・夕に行うが、例えば繁殖舎は10時から３時頃までは月・火曜日に交配、水曜日はワクチン接種等の作業内容を決め実施する方法である。

　(2)　１日の各部門の作業

　表－８

時　間　割作業内容

8 時　作業開始（冬期は8時半開始）

8 ～ 9 時午前の給餌・除糞

9 ～ 10 畜舎内消毒

10 ～ 12 週作業

昼食　

13 ～ 15 〃

15 ～ 16 午後の給餌・除糞

16 ～ 17 夜間の調整、翌日の準備、作業の記録

　　　　17 時　作業終了

　従って各部門の１日の作業内容は表８のとおりで、８時作業開始、 17時作業終了で、その間、作業内容が時間によって区切られている。

　(3)　豚舎の配置図

　　　図１のとおりで、大型の交配豚舎、分娩豚舎、子豚舎、堆肥舎等が一団地に建てられている。

　(4)　豚舎の施設の内容

　　　施設の利用内容は次の通りである。

　　ア　交配豚舎

　　　　雄豚房 (単飼) …離乳豚房の前、又は隣の房に配置

　　　　離乳豚房…………１群　３～４頭飼育、交配後ストールに移動、２回交配

　　　　確認豚房………… (巾55㎝ストール) 交配後より21日の妊娠確認まで

　　　　妊豚房………… (巾60㎝ストール) 妊娠確認決定後移動、分娩後10日まで飼育　交配豚舎には雄豚房、離乳豚房、確認豚房、妊豚房の４つの用途別豚房を設け飼育ステージによって母豚を移動させて管理し繁殖成績の向上や事故防止に努めている。

　　イ　分娩豚舎

　１室に20頭入る房を５部屋設け、この中で分娩させ、ここは総てオールイン・オールアウトである。

　施設の床面は高床オールスラット床とし、温湯配管付 (自動コントローラ付) の子豚休憩場所がある。また換気も自動コントローラ付 (シーリングベンチレーション方式) である。

　　ウ　子　豚　舎

　１棟は１室を12豚房に区切り、この部屋は７部屋あり雌のみ収容している。１豚房に大体７～８頭を収容できる (30日～70日齢)。

　他１棟は１室を60豚房に区切り、雄のみ収容 (30日～70日齢)

　　エ　育　成　舎

　　　　４棟26室あり１室12豚房　３～６頭収容し (種豚候補) 70日齢～出荷まで飼育。

　　オ　肉　豚　舎

　　　　３棟33豚房 (オガコ豚舎) あり、１室45頭収容70日齢～出荷まで飼育。

４．管　理　目　標

　表－９

　母豚年間回転数・・・・・・・・・・ 2.4回　離乳子豚数・・・・・・・・ 9.2頭以上

　分　　娩　　率・・・・・・・・・ 85%以上　離乳子豚幣死数・・・・・・・・・・ 2%以内

　総産子数・・・・・・・・・ 11.5頭以上　育成子豚幣死数・・・・・・・・・・ 2%以内

　正常子豚数・・・・・・・・ 10.5頭以上　肉豚幣死率・・・・・・・・・・ 3%以内

　豚の生産にかかわる技術水準を向上させるため、その目標数値を表－９に示した。これによって管理する者が細心の注意と努力によって分娩回転数、子豚育成率等の成績は向上するものと考えている。

５．管理のポイント

　(1)　繁　　殖　　舎

　　・交配部門として毎週母豚を20頭分娩させるために、必ず毎週24頭交配している。このため種雄豚は交配ローテーション表を作成し、これに従って雄を使用している。　　・母豚の更新には、雌豚のローテーションを考えた上で補充用若雌を毎月導入している。

　　・母豚の妊娠確認は毎日の管理の時チェックと、テスターでの確認を定期的に行っている。

　(2)　分　　娩　　舎

　　・分娩舎に妊娠母豚を入れる際は、その豚体を備付けのシャワールームで充分に洗浄消毒をおこなう。

　　・母豚が分娩する際、脱水症状を起こす危険性があることからニップルのみでは必要量の給水が出来ないので、まえもって充分な水の補給を行うとよい。

　　・分娩時の室温は子豚に影響がある。徹底した室温管理に心がける。

　(3)　子豚舎・育成舎

　　・子豚の温度・湿度・換気には細心の注意がいる。そこで毎週指示表を作成しこれらのコントロールを行う。

　　・育成豚の無駄な飼料給与を防ぐために給餌量を毎週指示表を設定しこれに合わせ給与する。

６．成　　　　　果

　　オールイン・オールアウト方式及び週間作業体型に変更したことにより作業が非常に単純化され、予定どおりの業務がこなせるようになった。また、オールイン・オールアウトを行う事で各ロットが小単位で区切られ疾病が減少してきた。

　さらに成績が週単位と早い時期に把握できるため、それに関する看護対策が早目に効じられる。

　その結果、繁殖、分娩、育成率、発育等の成績が当初の目標に達しつつあると確信し、今後も引き続きこの方法を続けたいと考えている。

７．問題点と今後の方向づけ

　(1)　養豚業は豚価や飼料価格の高低に経営が左右される部分が多く、ウルグアイラウンドによる輸入肉の問題もあり苦戦をしており、農業の生き残りをかけて事業の展開を考えている。生産物の有利販売の為に、食肉の加工部門の売上増強を図ると同時に、食肉のブランド販売を推進し産直販売を拡大することに力を入れたい。

　(2)　中山間地域における、畜産を中心とした複合農業を完成するため、養豚部門に加え、環境整備を念頭にいれた和牛の生産販売態勢の完成を目指したい。

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	Ｓ58～63	Ｈ　2	Ｈ　5	Ｈ　8	目標	備考
種　　豚（頭）	220	220	280	-	-	分場含む
原種豚　（頭）	200	200	220	500	500	〃
水田　　（ha）	2	2	1	1	1
畑　　　（ha）	0.5	-	-	-	-
草地　　（ha）	0	0	4	4	7
繁殖雌牛（頭）	0	10	11	14	50	一貫経営
肉豚　　（頭）	0	500	800	1,000	1,500	食品加工

	施設用地	水　田	草　地	放牧地	山　林	備　考
面積（ha）	3	1	4	1	18	平成８年現在

施　　設	数	面積(㎡)	施　　設	数	面積(㎡)
繁殖豚舎	1	850	分娩舎	1	1,100
子豚育成舎	2	1,500	導入豚舎	1	440
若雌育成舎	4	3,800	堆肥倉庫	2	820
倉庫	2	150	管理棟	1	100
研修棟	1	150	肉豚舎(堆積豚舎)	3	1,900

項　　目	金額(千円)	率	項　　目	金額(千円)	率
種豚売上	116,000	27.8	肉豚売上	216,000	51.8
農業売上	3,100	0.8	加工売上	73,800	17.7
その他売上	8,400	2.0	計	417,300	100.0

	月	火	水	木	金土日
繁殖舎	交配	交配	ワクチン・交配	受入・妊確日	飼育管理のみ
分娩舎	導入	去勢	入墨・ワクチン	離乳・子豚移動
子豚舎	移動	水洗	消毒・ワクチン	子豚受入	交代休日
育成舎	受入		ワクチン	水　洗
肉豚舎	出荷	受入・出荷		（廃豚出荷）

時　間　割	作業内容
8 時　作業開始	（冬期は8時半開始）
8 ～ 9 時	午前の給餌・除糞
9 ～ 10	畜舎内消毒
10 ～ 12	週作業
昼食
13 ～ 15	〃
15 ～ 16	午後の給餌・除糞
16 ～ 17	夜間の調整、翌日の準備、作業の記録
17 時　作業終了

母豚年間回転数・・・・・・・・・・ 2.4回	離乳子豚数・・・・・・・・ 9.2頭以上
分　　娩　　率・・・・・・・・・ 85%以上	離乳子豚幣死数・・・・・・・・・・ 2%以内
総産子数・・・・・・・・・ 11.5頭以上	育成子豚幣死数・・・・・・・・・・ 2%以内
正常子豚数・・・・・・・・ 10.5頭以上	肉豚幣死率・・・・・・・・・・ 3%以内

Ⅰ 特徴ある取り組みの事例紹介

１ 養豚の管理技術について

Ⅰ　特徴ある取り組みの事例紹介

１　養豚の管理技術について