水田の耕作放棄地を利用した放牧経営

(社)山口県畜産会    
山 本   宰 

 長門市俵山地区は、 山口県西北部地方の山間部で、 周囲を高い山々に囲まれ、 この周辺の山間には猿や鹿等の野生動物が多く生息している。 ここに流れる川は下関市小月地区に注ぐ木屋川の源流である。

 俵山温泉は、 神経痛やリュウマチに効果があるとされ、 西日本や九州の各方面から湯治客が絶えまず訪れてきている。

 この地の畜産は、 昔から肉用牛と豚が多く飼育されていたが、 今は豚の頭数は減少し肉用牛が主体である。 その肉用牛は現在長門市全体で47戸の443頭、 その内、 俵山地区で20戸の113頭が飼育されている。 今回紹介する福浪牧場は肉用繁殖牛5頭を周年放牧で飼養している農家である。

 

  1. 水田の放牧への経緯
  2.  この放牧場は、 水田の耕作放棄地が、 荒廃がひどいことから、 所有者の了解を得て借り受け、 平成4年に畜産利用するため単県補助事業の水田放牧普及促進事業に取り組んだ。 まず放牧場内の牛舎は低コスト牛舎を考えて建築した。 更に、 この牛舎から北西に向け耕作放棄地の棚田を、 有刺鉄線で囲み放牧場として利用した。

     

  3. 経営概況
  4.  飼養形態は水稲と肉用牛繁殖経営で、 牛は繁殖牛5頭を水田放牧した。 その概況は表1のとおりである。

    表−1 経営概況

     

    経 営 内 容

    形 態

    家 族

     

    規 模

    水稲+肉用牛繁殖経営

    本人と奥さんの2名

    水稲

    肉用牛 繁殖牛5頭(平成4年より放牧飼育開始)

    水田放牧場 80a

    粗飼料確保 120a

    内訳 水田転作(ソルガム10a イタリアン10a)水田(ワラ、あぜ草100a)

     

     自家所有水田は80a、 放牧面積80a、 水田転作としてイタリアン10a、 ソルガム10a、 その他、 畦畔草やワラの確保に努めている。

    表−2 保有施設・機械

    施設・機械

    数量

    備 考

    牛 舎

    堆 肥 場

     

     

    軽四トラック

    2棟

    1〃

    1台

    1〃

    1〃

    成牛舎(5頭飼養規模)他1棟は子牛育成舎(納屋兼)

     

  5.  飼養形態
  6.  牛舎は本人住居に隣接した下牛舎と、 住居より一段高い放牧場内にある上牛舎があり、 上牛舎から北西に向け傾斜が平均22度の棚田、 約80aを有刺鉄線で囲み、 これを放牧場として利用している。

       

     

  7.  飼養管理
  8.  1) 飼養・放牧管理

     放牧を目的に平成4年から水田放牧普及促進事業に取組み牛の放牧を開始した。 繁殖牛は周年放牧を基本とした。

     牛の飼養管理は毎朝、 舎内で飼料給与した後、 朝7時半過ぎ頃から放牧開始し、 1日中放牧して夕方には牛舎に帰る。 そこで牛房につなぎ夕方の飼料給与をする。 従って、 牛は夜間には牛舎で過ごすことになる。

     放牧は年間を通じて行い、 降雨時でも放牧するが、 冬期の特に降雪時は放牧を見合わせ舎飼いとしている。

     2) 草  地

     牧場の植生は野草が主でイタリアンライグラスやノシバが随所に見られる。 放牧地の周囲は有刺鉄線で囲んでいるが、 草地の草量が減ると牛は脱柵する。 そこで長い竹で牧柵を補強することで脱柵防止の効果は上げている。

     一般に放牧はダニによるピロプラズマ病の発生被害があると言われているが、 今日までそのような被害はない。

     3) 飼料給与

     放牧場は夏期になると主に野草 (一部に野芝やイタリアンライグラスを含む) が繁茂しているので、 4月から10月までこの草を利用し、 濃厚飼料は少量程度を給餌している。

     しかし11月中旬から3月末までは放牧場の草量が少なくなると粗飼料や濃厚飼料を少し多めに与えている。 粗飼料は夏期は十分あるが冬期は不足するので冬期用にソルガムや藁、 野乾草の確保に努めている。

  9.  繁  殖
  10.  発情の発見は、 放牧中は牛の乗駕する行動により観察し、 また舎内では朝夕の給餌の際に各個体を丹念に観察している。

     繁殖成績は、 平成9年までの種付け回数や平均分娩間隔は良好であった。 平成10年度になって2頭が種付け後、 何らかの原因で2〜3ケ月経過して再発情があったので授精した。

     

  11.  子牛育成と出荷
  12.  妊娠牛は分娩予定の1ケ月〜半ケ月までは下牛舎で舎飼いをしている。

     分娩後1ケ月が過ぎると上牛舎に移し、 4ケ月過ぎた子牛は下牛房で舎飼いをして市場出荷にむけて管理する。 子牛は8〜9ケ月齢で市場出荷する。 育成時の粗飼料としてスーダンや、 野乾草を主に給与している。

     

  13.  労務作業
  14.  夫婦2人で飼養管理の作業を行っている。 主は毎日の家畜の世話と飼料調達である。 それ以外は、 子牛を市場出荷前の手入れと、 堆肥の搬出・運搬、 牧柵の補修等であるが夫婦2人で十分こなされる。

     

  15.  おわりに
  16.  放牧されている牛の栄養状態は良好であり、 子牛は運動をしているためか、 飼料の食い込みがよく、 肉付きはやや悪いが発育は良好である。 従って、 子牛市場での成績も悪くない。

     福浪さんは現在72歳で、 奥さんとも元気である。 本人は80歳まで牛を飼いたいとの夢がある。 これらのことから高齢者の生き甲斐対策としても繁殖肉用牛の飼養は最適であり、 まだ少しの増頭は可能と考えられる。

     この場所で、 しかも水田放棄地で肉用牛を飼うのは最適であり、 老後の楽しみ、 生き甲斐対策にもなっている。

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