山口県酪農業協同組合
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図1 遺伝的能力と飼養環境の効果の推移(乳量) 遺伝的能力は平成元年生まれの雌牛の平均、飼養環境の効果は平成3年初産分娩牛(平成元年生まれの雌牛にほぼ相当)に対する効果の平均をベース(±0kg)として示した。 |
この年当たり126s伝的改良量は、1世代 (更新される雌牛と後継牛) 当たりでは578sに相当 (平均世代間隔4.6年)。 これは生乳1s当たり3.9円のコスト削減 (年間所得1頭当たり37,000円増) に寄与していることが示された (農林水産省牛乳生産費調査より−H.5)。 生乳の生産コスト低減と乳量の増加を含めた生産性の向上に遺伝的改良がいかに大きく係わっているかが判る。
乳牛用の改良をめぐる最近の情勢はF1生産の増加にともなう後継牛の不足が全国的な傾向としていわれている。 山口県全域での黒毛和種授精状況はH.9.1月〜H9.12月で黒毛授精/授精頭数:880/2,403頭=36.6% (H10.7.15;日本家畜人工授精師協会調べ) である。 当組合でもその傾向はみられるが、 大部分の酪農専業家はF1生産に適当な距離を置き、 NTP上位、 TPI上位の種雄牛を選択し後継牛の確保と初産牛群の充実に伴う牛群全体の底上げと淘汰レベルでの改良を展開している。 ところで乳用種未経産牛でのF1生産 (分娩が安易、生産F1子牛の市場価格などの理由) が乳牛改良に与える影響について検討すると、 まず★牛群中で最新の遺伝子保有牛を1世代後退 (世代間隔4.6年) させ、 ★初産次の後継牛遺失に加えて★泌乳量の低下、 また前述の改良コスト削減効果を当てはめると、 この場合反対に★世代無更新損失として17万円 (年間所得1頭当たり増としての3.7万円*世代間隔4.6年=17.02) となる。 仮に40頭規模でのF1生産率36.6%による損失は約17万円*14.4頭=244.8万円となる。 結果、 乳用牛を母牛としたF1生産は改良の後退、 後継牛の遺失にとどまらず、 目に見えない経済的損失も大きくF1生産率の動向に無関心ではいられない。
組合の授精業務は昭和48年よりJHBS (北海道) 繁用のアメリカ、 カナダからの遺伝子導入を開始して以来、 常に改良最前線の種雄牛を選択し今日に至っている。 また平成1年11月29日に1卵採取卵の凍結ダイレクト移植によるホルスタイン産子 (♂) の誕生を契機として、 乳用牛改良の手段としての受精卵移植技術の開発とフィールドでの応用に着手した。 受精卵移植に関する技術については山口大学農学部鈴木達行教授の全面的な支援と指導を得て画期的なダイレクト移植技術への取り組みをスタートさせた。 H.2年7月4日にはダイレクト移植でホルスタイン雌牛の誕生1号 (新聞報道記事掲載) を皮切りに、 数戸の農家ではあったが高い改良意欲の熱意に後押しされながら続々と移植による雌牛の誕生を得た。 H.3年度末にはETセンターを開設し、 H.4年10月に北米から採卵用のドナー牛10頭の導入、 5戸の酪農家の繁用管理協力を得てH.5年1月より随時採卵を開始し今日まで継続している。 これまでの採卵、 移植成績については (表−1) に示す。
表−1 受精卵移植成績(H.5年度〜H.9年度)
採卵頭数 | 採卵回数 | 採取卵数 | 正常卵数 | 移植戸数 | 移植頭数 | 受胎頭数 | 受胎率(%) |
108 | 126 | 569 | 234 | 145 | 202 | 96 | 47.5 |
※凍結移植法:1.8Mエチレングリコール、ダイレクト移植
現在までに85頭のET産子が生産され、 そのうち31頭が雌牛、 初産次泌乳成績 (平均8500−13000s)、 乳成分:蛋白質は3.1%以上の成績を得ている。 ちなみに平成9年度泌乳成績10,000s以上の検定牛中では初産ながら13,458s、 F%−3.4、 P%−3.2で10位のY.D.AクローバートゥマーET (原田賢司氏所有)、 H.10年4月4日岡山県久世町で第1回西日本ブラック&ホワイトショウが開催され、 H.12年岡山県にて開催予定の全日本ホルスタイン共進会を睨みながらの近畿、 四国、 九州、 中国各地からの196頭の出品中、 第5部経産部門で堂々の1等4席に入賞を果たし (Y.D.AトライセクスローカムET、小嶋一成所有、泌乳成績11,732s、 3.6%、 3.2%) 体型、 能力ともに優れた遺伝子を着実に確保して共進会でも活躍している。 (写真1)
平成10年7月には家畜改良事業団より平成10年度乳用種雄牛後代検定推進事業に係わる国産候補種雄牛生産のための事業団改良部による現地調査があり、 計画交配対象雌牛全国16頭中の2頭 (県酪U.S.Aドナー娘牛、及びET産子) がノミネートされた。 このことは、 全国の表価値を持つ牛群検定加入雌牛の中のパーセント順位1%内にランクされた高能力牛16頭中の2頭ということで、 検定農家の優れた管理技術と検定成績の効率的な利用、 交配種雄牛の適正な選定、 ET技術の応用がこの成果をもたらしたのであり、 今日まで進めてきた交配計画、 育種プログラムが評価されたことに大きな自信を得た (表−2)。 16頭中10頭 (63%) がET産子であることも興味深い。 2頭中の1頭:ユング、 マスコット、 ジェシーは前年に総合指数全国84位 (H9.9.29日本登録協会公表) にランクされ、 全国の著名牛に互して名をつらねた。 しかし残念ながら彼女はH10年8月病傷事故により死亡した。 幸い彼女の母牛 (USAドナー) 直系列、 ET娘牛を含め4頭の雌牛と、 現在ETによる4頭の妊娠が確認されており分娩が待たれる。
表−2 平成10年度上期計画交配対象雄牛(都道府県)
No | 農家コード | 対象牛 | 登録番号 | 生年月日 | 住 所 | 所有者 | 地 区 | 10前期 |
1 | 2606512 | オールドリバー クリーメル ヒロ サンド ET |
6622014 | H08/09/01 | 福島県郡山市朝日2-14-7 | 熊田英重 | 6都道府県 | 調 査 |
2 | 2606512 | ベアフィールド クリーメル サチ サウンド ET |
6622015 | H08/12/01 | 福島県郡山市朝日2-14-7 | 熊田英重 | 6都道府県 | 調 査 |
3 | 4201079 | ドリームヒル リューク ベルウッド フタゴ |
6754958 | H08/12/05 | 富山県富山市舟橋北町4-19 | 富山県 農業公社 |
6都道府県 | 調 査 |
4 | 4201079 | ドリームヒル ブライト ベルウッド フタゴ |
6754959 | H08/12/05 | 富山県富山市舟橋北町4-19 | 富山県 農業公社 |
6都道府県 | 調 査 |
5 | 5501023 | エムエイチイーティー ベウ ロージィ フロレット |
6613877 | H08/12/29 | 愛知県知多郡武豊町上山の田 | 榊原徳雄 | 6都道府県 | 調 査 |
6 | 5502049 | マリーデール エル ルーテナント ET |
6591006 | H08/01/03 | 愛知県豊橋市野依町上鷲田44-1 | 前田 昇 | 6都道府県 | 調 査 |
7 | 5504015 | エメラルド エーカースSA ベルウード ブレンウェイ |
6781187 | H08/06/17 | 愛知県渥美氏赤羽根町赤羽根中瀬古78-1 | 鈴木基夫 | 6都道府県 | 調 査 |
8 | 7307038 | オーエーシー エルラ ビーエムエル エーデル |
6370044 | H06/12/27 | 岡山県久米郡旭町北2272 | 岡山県 総合畜産 センター1 |
6都道府県 | 調 査 |
9 | 7307038 | オーエーシー セエイラ ピーエル セレン ET |
6374377 | H07/03/21 | 岡山県久米郡旭町北2272 | 岡山県 総合畜産 センター |
6都道府県 | 調 査 |
10 | 7307038 | サリー ジェッド フグネス ET | 6592957 | H07/06/25 | 岡山県久米郡旭町北2272 | 岡山県 総合畜産 センター1 |
6都道府県 | 調 査 |
11 | 7307038 | ロンナン ベルウード マダワスカ ET |
6758094 | H08/03/18 | 岡山県久米郡旭町北2272 | 岡山県 総合畜産 センター |
6都道府県 | 調 査 |
12 | 7307038 | メイプルタウン エモリー チーフ デイリー ET |
6746605 | H08/11/08 | 岡山県久米郡旭町北2272 | 岡山県 総合畜産 センター |
6都道府県 | 調 査 |
13 | 7401200 | ニセコスプリ フローレット アルル ET |
6135885 | H05/12/08 | 広島県山県郡大朝町新庄911 | 日高 隆 | 6都道府県 | 調 査 |
14 | 7401200 | サンフィールド フローレット サリー プレリュード ET |
6369417 | H07/01/06 | 広島県山県郡大朝町新庄911 | 日高 隆 | 6都道府県 | 調 査 |
15 | 7501019 | ユング マスコット ジェーシー | 6149517 | H06/03/22 | 山口県豊浦郡豊田町日野20-1 | 竹永洋幸 | 6都道府県 | 調 査 |
16 | 7501066 | イトザクラランド ワイデイ ミスト マーク ET | 6374393 | H07/04/04 | 山口県豊浦郡豊北町滝部3754-6 | 佐々木 磯址 |
6都道府県 | 調 査 |
乳用牛の改良と後継牛づくりについて思いつくままに述べてきた。 確かに産乳量は栄養学の進歩と検定事業、 後代検定牛の利用で向上した。 しかし、 牛群の耐用年数を調べると山口県乳用牛群検定組合の平均産次は2.7産次 (H.9年度) であり前年より更に短縮傾向にある。これでは全体としての収益につながらない。 原因として一般的に急速な乳量の増加に比較して、乳器、肢蹄の強健性についての改良の遅れが云々と言われる。 確かに1つの要因ではあるが、 フィールドでの診療活動で判る事は、 疾病がより直接的にその牛の耐用年数に係わり、 特に乳房炎 (乳房炎発生率18%:368件/2004件:H.9年度西部管内病傷事故調査まとめ) による廃用、 淘汰は初産、 経産の区別無く発生する。 耐用年数的には充分な肢蹄、 乳器を持ち合わせながらも廃用となるケースも多い。 よって、 強健性、 機能性に優れた肢蹄、 乳器の改良を目標とすると同時に、 疾病を予防する管理プログラムを充分機能させ、 抗病性に優れた牛郡を作るために、 例えば、 乳房炎に羅患しづらい遺伝子を持つ牛群のDNA探索など別角度からの研究、 取り組みも必要になるであろう。
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