農業大学校における畜産の担い手養成について

山口県立農業大学校       
畜産部長 松 原   保 

  1. はじめに
  2.  いつの時代においても農業の担い手養成確保は農政の最重要課題であり、 その担い手養成が使命である農業大学校の役割はますます重要になってきている。
     本校は、昭和9年農村経済再建のため農村中堅者を養成することを目的に山口県牟礼農民道場として創設され、 時代の変遷とともに修練農場、 経営伝習農場、 営農技術研修所、 山口県農業大学校を経て現在の山口県立農業大学校に発展改組されたが、 一貫して優れた地域農業の担い手養成を教育方針に掲げ、 開校以来卒業生は3,160名を数え畜産の分野において名実ともに山口県農業の中核的な役割を担っている。

  3. 本校教育の特色
  4.  農業は頭で考えているだけではできない職業である。 知識としての技術はあくま知識であって本物の技術ではなく行動に結びつかない。 行動できない技術は経営の自信につながらない。

     したがって、 座学に偏りすぎない実践教育を重んじた学修を進めている。 しかも家畜や作物の生理生態に応じた適切な管理学修が出来るよう全寮制が一般の教育機関と異なる点である。

     実践学修は座学での理論と実習・演習・実験・調査等が有機的に結合し、 学生の主体性を重んじた自主的課題解決学修、 つまりプロジェクト学習を基本にした教育体系が本校の特色である。

    実践学修を進めるうえで実習施設の規模等は重要な要素となるが本校畜産部の家畜頭数、 施設内容は学生、 諸先輩および関係機関の長年の尽力によって全国の農業大学校のなかでもトップクラスであると自負している。

  5. 畜産部の実践学修について
  6.  本校における家畜の導入は 「創立50周年記念誌」 によると昭和20年代前半に豚、 綿羊に始まり昭和30年代に乳牛、 肉用牛は40年代に導入拡大されたものである。

     現代、 畜産部は酪農経営、 肉用牛経営の2コースにわかれ、 日々欠かすことできない家畜の飼養および搾乳管理は学生の当番制によって行われ、 年間を通じて早朝6時から7時半までの朝間実習は畜産部の伝統となっており、 家畜管理の技術は職員の指導のもとに2年生から1年生へと引き継がれ、 技術、 経営の成果も年々向上している。

     なお、 畜産部の募集定員、 実践学修に必要な施設規模は表 −1、 参考までに必要経費は表−2のとおりである。

    表−1 畜産部募集定員および施設規模の概要

    過程の別 専  攻 定  員 修業年限  

    本   科

    酪農経営

    肉用牛経営

    計15人

    2年

    乳牛成牛15・育成10

    肉用繁殖成牛20・育成3・

    肥育牛45    計94頭

    飼料畑 5ha、放牧地 6ha

    研 究 科

    酪農経営

    肉用牛経営

    計 5人

    1年

    表−2 必要経費(平成10年度実績)

    食      費

    29,350

    60,000

    140,000

    60,000

    50,000

    (1年分)

    (2年分)

    (1年分)

    (1年分)

    (2年分)

     1) 酪農経営コース

     酪農経営コースは最大19頭の搾乳施設を有しているが本校の飼料基盤や学生数等によって15頭前後の経産牛規模としている。

     学生のプロジェクト課題は生乳の成分、 衛生的乳質の向上対策、 高能力牛の飼養管理、 繁殖技術の向上、 良質粗飼料の高位生産調整及び環境保全対策等幅広く取り組んでいるが、 最近、 住宅団地の接近によって臭気対策が重要な課題となっている。

     現状における検定成績は経産牛1頭当たり、 305日間乳量で10,000Kgと全国の農業大学校の中ではトップの成績である。

     また、 県農林水産まつりでのホルスタイン共進会や搾乳実演の参加は、 毎年の恒例行事となっており、 学生の学修意欲の高揚に役立っている。

     2) 肉用牛経営コース

     肉用牛経営コースは繁殖、 肥育の一貫体系で学修している。 「肥育を知ろうと思えば繁殖を学べ、 繁殖を知ろうと思えば肥育を学べ」 のとおり繁殖経営と肥育経営は表裏一体であり、 両方を学修している。 繁殖牛は5haの放牧地を活用し夏山冬里方式で、 分娩前後を省き4月中旬から11月下旬まで補助飼料無給与で管理している。

     肥育牛は産肉性の向上に努め枝肉出荷を基本とし、 枝肉評価のフィードバックによって繁殖、 肥育のプロジェクト課題として取り組んでいる。 経済連畜産部のご配意によって恒例となってる本校出荷牛の枝肉調査を兼ね大阪南港市場の視察は学生に大変好評である。

     5haの放牧地は長年学生の努力による転石、 雑灌木の除去、 諸先輩に優良草種の導入等良好な維持管理により芝型のすばらしい景観の放牧地となっている。 草種は在来芝、 ダリスグラス、 バビアグラス、 カーペットグラス、 セントオーガスチングラス等様々であるが、 全国でも珍しいカーペットグラスとセントオーガスチングラスが定着拡大している。

  7. 学修の高度化について
  8.  冒頭で述べたように、 実践教育は本校の特色であり実習の場となる施設の整備は技術の進展と経済情勢に応じた整備を進めていくことが、 農大の存在価値を高める要因となり重要な課題である。

     従来、 畜産部の伝統として農大の敷地面積49haの3分の1近くを管理し、 朝間実習に加え環境整備の草刈り、 炎天下の飼料作物栽培調製等実習時間が多くしかもハードであった。 そのようなことから実習の効率化に向けて飼料畑の排水対策、 区画整理等を自助努力で実施するとともに、 施設については平成2年度に乳牛舎、 堆肥舎、 平成9年度に繁殖牛舎、 育成牛舎及び放牧地の給水施設の整備が完了し、 平成10年度は今まで不備であった実験演習が可能な畜産実習棟の整備を進めている。 実習棟は農業高校や入学学生の要望が強かった受精卵移植に関わる一連の学修や、 畜肉および乳製品加工が可能な施設となる。

     また、 畜産部では畜舎、 ほ場管理において各種の大型作業機械を使用することから機械の保守点検、 修理の学修が可能な施設を設けている。

     このような施設の整備に合わせ学修の高度化に向けたカリキュラムの見直しも進めている。

  9. 入学生の状況
  10.  近年における畜産部入学生の状況は表 −3のとおりである。 残念ながら定員の2割から7割で推移している。 また、 近年研究科の入学生はない。

     入学生の特徴は女子が年々増加しており、 平成10年度では女子が4割近くを占めている。 畜産部も同様な傾向で、 特に酪農はほとんど女子である。

     出身別では7割が農家出身で、 また、 農業高校出身が6割から7割を占め近年その傾向が高まっている。

    表−3入学生の状況

    区 分

    H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10

    酪農経営

    肉用牛経営

     3  3  3  4  7  5  6  3  5

     3  2  1  3  5  4  5  3  4

     6  5  4  7  12  9  11  6  9

    入学者計

    (内女子計)

    25 24 18 33 36 36 36 27 27

    (1)  (2)  (3)  (4) (11) (6) (10) (12) (14)

  11. 卒業時の進路について
  12.  学生の卒業時の進路状況は表−4のとおりである。

     平成10年度 (予定) も含めて5年間でみると農大の教育目的である自家農業就農率は2割、 研修、 農業法人就職を含めると6割の就農率であり全国、 中四国の農業大学校と比較しても高い就農率である。

     なお、 3割の者が畜産を学びながら他産業へ進んでいるが畜産へ希望を持ちながら受け皿がなく他産業に進まざるを得ないケースも多く、 具体的な受け皿づくりが今後に向けた課題である。

    表−4 学生の卒業時の進路状況

    年 度

    卒 業
    者 数

    就 農

    関 連
    産 業

    他産業
    その他

    自家 研修 法人  計

    10

    12

    11

    2  1  2  1

    1  1  2  6

    0  1  0  1

    1  3  3  7

    2  2  2  6

    43

    8  8  9  25

    13

    注)※研修、法人就職も就農とした。
      ※平成10年度は予定である。

  13. おわりに
  14.  平成11年度も関係機関のご協力により畜産部に10名前後の学生を迎える予定である。

     職員も志を新たに農業の担い手育成確保に向けて頑張りますので今後とも皆様のご協力、 ご支援をいただきますようよろしくお願いいたします。

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