観光牧場 本郷村営羅漢高原放牧場の紹介

本郷村役場   経済課長 藤 井 美 幸  

1 本郷村の概要

  本村は、山口県の北東部、中国山地の西端に位置し広島、島根両県に近い東西4km、南北13kmと南北に長い山村で、周囲を高い山々に囲まれた谷底平野である。また河川は、2級河川本郷川とその支流が南に流下しており、集落や耕地は概ねこれらの河川沿いに開けているが狭小であることから生産性は乏しい。本村の81%は山林で、自然条件上スギ、ヒノキの育成は適し、人工林は51%であるが近年の木材需要の低迷により生産額は横ばい状況にある。

 本村における公共交通機関はバス以外になく、現在、県道岩国錦線および徳山本郷線が運行され、近隣の錦町、美川町へ連絡している。

 人口は、昭和30年の総人口3,920人をピークに激減し、昭和60年で総人口1,647人となっており、県内においても最も少ない部類に属し過疎化と高齢化社会が進み、現在本村の重要な課題となっている。

 

2 羅漢高原放牧場の概要

 1)沿  革

   この山代地方は、昔から優秀な山代牛の産地として、畜産に熱心な地域である。そこで村畜産振興の推進と、土地利用の高度化を図るため、標高1,109mの羅漢山南山麓に位置している未利用の原野を高度の生産力を有する牧草地として開発した。 昭和47年度から昭和52年まで、国・県の補助により総事業費118,000千円余りを投じて村直営の公共牧場を設置、以降毎年50〜60頭程度の預託育成をすることで出発した。その後、預託牛の頭数の増加に伴い、牧場施設機能の強化を一段と図るため、昭和60年度より団体営草地畜産基盤総合整備事業による国、県の補助を受け、総事業費556,364千円を投じて、畜舎や堆肥舎、草地の改良造成を行うとともに機械整備の充実と道路、管理道の整備をして、夏80頭、冬60頭規模に模様替えし、玖北地区の畜産振興の中核的役割をはたす殿堂となった。

 また昭和52年から「らかん高原憩いの広場」施設として、まず無料休憩所、55年には羅漢野外活動施設やリクリエーション施設等が出来た。さらに昭和62年7月には、隣接して情報教育にはもってこいの小動物と触れ合いができる「ちびっこ動物共和国」、広さ20,000u、建築費53,000千円の施設がされ、小動物が多数放し飼いされ、観光客に好評を博している。

 2)現  況

   牧場は標高1,109mの羅漢山南山麓に位置し、場内の小高い場所から一望すると、眼下の瀬戸内海と中国山地の山並みがパノラマとなって連なるすばらしいロケーション。澄みきった空気・ぬけるような青空、さわやかな風と3拍子そろったフィールドに北欧風のモダンな畜舎・サイロがコントラストを写しだす。四季折々の風情を漂わせ、訪れる人々の心を和ませる。草地でのんびり草を食む牛逹の姿をみれば、のどかで牧歌的な雰囲気が味わえ、しばし時を忘れ自然を満喫できる。

 この牧場の用地、建物、機械設備、草地等は次のとおりである。

  1. 用地・施設

区 分

規 模

備 考

草 地

道 路

施 設
44.7ha

7,710m

2,601.6u
放牧場39ha 採草地4ha 野草地1.7ha

登山道路

牛舎等
  (2) 羅漢高原牧場主要事業概要 千円 

事 業 名

年 度

事 業 内 容

事業費

団体営草地開発事業 昭和47〜52年 草地造成40ha 188,340
飼料基盤施設等整備事業 昭和57〜59年 管理用機械ほか 25,216
畜産総合開発 昭和58〜59年 バンカーサイロ、機械倉庫ほか 13,334
団体営草地畜産

基盤総合整備事業
昭和60〜平成元年 畜舎、堆肥舎、草地造成及び改良

機械整備、道路管理、道路整備
566,364
  (3) 建物・施設

区 分

員数

規 模

畜舎 1棟

1,532.00u

畜舎敷地

 

2,080.00

事務室

 

79.75

飼料置場

 

95.68

飼料置場

 

113.62

廊下

 

40.95

管理資材置場

 

93.50

わら置場

 

247.50

牛房

 

378.00

作業通路

 

199.50

作業場

 

157.25

飼料調整室

 

21.25

衛生室

 

20.00

パドック

 

525.00

堆肥舎 1棟

124.00

堆肥舎施設

 

310.00

バンカーサイロ 6基

112.80

機械格納庫

 

108.75

飼料乾燥庫

 

199.00

用排水施設

 

1,793.90

隔障物

 

3,633.00

 

   畜舎の特徴

    朝夕の飼料給与時に牛をつなぎ飼いすることによって、後方からの発情発見を容易とすることや発情の見逃しや、採食時の競合を避けるため連動スタンチョンを設置した。

 また作業の省力化をはかるためバンクリーナー2台を設置した。さらに悪臭防止対策として床のコンクリート全面に活性炭を混入している。その結果として牛舎に入ってもあまり臭気がない。

写真:牛舎

写真:堆肥舎

  (4) 機械設備

区 分

数量

区 分

数量

区 分

数量

トラクター(大)

コーンプランター

テッダレーキ

コーンハーベスター

フォーレージワゴン

ディスクハロー

衛生パトロール車

牛衡機

コンプレッサー

2

1

2

1

1

2

1

1

1

トラクター(小)

ホイルローダー

運搬車

フレールハーベスター

ブロードキャスター

プラウ

ボブキャット

ダンプカー

1

1

1

1

1

1

1

1

モア

クラーラートラクター

ベイラー

トラック

ライムソワー

マニアスプレッダー

バキュームカー

カッター

2

1

1

1

1

1

1

1


  (5) 放牧場の管理

 オーチャードグラスを基幹草種とし、ペレニアルライグラス、トールフエスク及びレッドクローバー混播草種である。

 平成8年度は牧場草地内において飼料作物単収向上のためイタリアンを1ha播種、展示圃を設置した。

 平成7年度に牧場草地内でシバ草地づくりの実証を行うため、約10aほど、シバを裸地に移植した。

 
写真:放牧風景

 

3 牧場の業務と運営

 1)業  務

  (1) 繁殖用肉用牛の飼養管理

  (2) 草地の肥倍管理及び貯蔵飼料調整

  (3) 入牧牛の人工授精

   管理職員は1名、他に草刈り等、草地での作業時には臨時に3〜5人を雇って作業をしている。牛の入牧時、下牧時、衛生検査時には飼育農家が手伝っている。

 2)運  営

  (1) 受託期間

    原則として 夏期は5月〜10月末日(80頭)まで

          冬期は11月〜4月末日(60頭)までの放牧期間

  (2) 受託受付期間

    特に規定なし。

  (3) 受 託 料 (1頭1日当たり)

区 分

夏期(5〜10月)

冬期(11〜4月)

備 考

成牛

育成牛(4〜18ヶ月)
170円

300
250円

340
精液料、授精料、診療費及び予防注射検査料等の経費は別に徴収する
  (4) 預託者の義務

    放牧前の適応管理、家畜共済への加入、互助会への加入

  (5) 受託牛の管理方法

    夏期 (5〜10月)は放牧管理(12牧区に区分して輪換放牧)

    冬期 (11〜4月)は畜舎を中心とした舎飼いとし、サイレージ、乾燥草、濃厚飼料給与

 
写真:入牧時の衛生検査

 

 3)入牧牛の概要

   入牧実頭数は、夏季は80〜90頭、冬季は60〜70頭で、入牧頭数は月や日によっての変動がある。各年度入牧延べ頭数は次の通りである。また本郷村だけでなく隣の美和町からも入牧している。

             年度別入牧延べ頭数(実績) 頭 

 

S63

H1

H2

H3

H4

H5

H6

H7

H8

延べ頭数 12,557 10,737 22,213 26,176 26,649 28,220 24,066 21,475 24,416
 

4 観光放牧場としての現状と対応

 1)現  状

   羅漢高原放牧場を観光牧場として機能させるために「らかん高原憩いの広場」を設けた。これらの施設と「ちびっこ動物共和国」の動物の一覧は次表のとおりである。

             

らかん高原憩いの広場施設 千円 

事業名 建設年次 事業費 内容
無料休息所 52 4,400 木造平屋建64u
羅漢山野外活動施設 55 13,500 芝生広場、林間滑り台等
観光施設整備事業 55 28,500 人工スキー場、配水施設等
勤労者野外活動施設 55 150,000 レストハウス、レストラン等
地域経済振興対策事業 56 14,500 管理人宿舎
56 4,000 センターハウス周辺舗装
バンガロー(小) 57 6,500 炊飯棟
地域経済振興対策事業 57 16,019 多目的広場、展望台等
バンガロー(大) 58 6,500 木造平屋建
羅漢レクレーション施設 60 18,898 シャワー棟、屋外施設
特産品展示施設 61 4,245 木造平屋建
人工スキー場プラスノー張替 62 21,000 3,000u
ちびっこ動物共和国 62 53,000 管理棟ほか16棟、牧柵等
スポーツゲームハウス 63 114,165 ゲームコーナー等
イタリアンレストラン 63 16,935 レストラン「伊太利屋」
バンガロー(中) 13,545 木造平屋建93.15u
展望台休息施設 2,219 丸太風物見台
駐車場 31,000 41台収容
風力発電 561 ポール2枚羽根100W
ログハウス 2 4,600 木造一部2階建
森林体験交流促進施設 2・3 50,500 キャンプ場、森林浴歩道等
ちびっこわんぱくランド外周柵 6・7 2,595 外周柵
 

ちびっこ動物共和国

動物名 頭数 動物名 頭数 動物名 頭数 動物名 頭数

山羊(サフォーク等)

ポニー

鹿

猪豚

洗熊

モルモット

7

2

7

2

3

11

3

40

40

リス

ハリネズミ

5

1

1

10

10

1

ニワトリ

ホロホロ鳥

金鶏

銀鶏

ハッカン

セキセイインコ

オカメインコ

カナリア

孔雀

100

50

15

3

2

4

40

10

10

3

ジュウシマツ

ハト

オウム

九官鳥

あひる

あい鴨

ガチョウ

七面鳥

ジャボ

10

50

1

1

8

10

5

2

2

100

   ここには「ふれあい牧場」「テニスコート」「人工スキー場」「ちびつ子わんぱくランド」「ちびっこ動物共和国」「林間すべり台」「スポーツゲームハウス」「ポポロの森のキャンプ場」「バンガロー」と遊びにスポーツに、そしてキャンプにと、一日中楽しめる施設が多くある。そして休憩所としての「センターハウスレストランカーフ」「食事処むぎわらぼうし」には高原焼き肉、うどん、そば等、各種メニューを取り揃えていることから、多くの人が訪れている。

 

 2)観光客数

   この高原放牧場は本郷中心地から車で登山すること20分、広島から車で60分の距離にあることから、県内外から年間多くの人々がレジャーに訪れている。昭和63年〜平成3年頃はピークで年間15万人の観光客が推定されたが、最近は不景気もあってその数は年々減少してピーク時の約半数程度と推定している。特に季節別には夏が涼しいことから涼を求めて車でそのまま登山するものが多い。観光客は宿泊客を含めて約半数の人々がこれら施設を利用し、おおくは「憩いの広場」「ちびっこ動物共和国」で楽しんで帰っている。

写真:観光施設

写真:つりぼり

写真:バーベキュー大会 

5 放牧場の利点・問題点

 (1)利点としては

   放牧管理上、粗飼料給与と糞尿処理の省力化が図られている。

  (2) また飼養管理労力が軽減され、生産性が向上している。

  (3) 日光浴と運動することにより、強い足腰と、骨格等の丈夫な牛が出来ている。

  (4) これらにより、この牧場は地域の畜産振興の中核的役割を果たしている。

  (5) この放牧場は高原であるが、都市近郊に近いことから、行楽時、動物とのふれあいの場として、観光、遊園の絶好の場として多くの人が訪れている。

 

 2)問題点としては、

  (1) 雑草木の成長が早く繁茂し、さらに牛すいば(ギシギシ)が種子飛散と深耕切断によるはびこりにより手入れに労力がかかる。

  (2) 野猪が餌を探し草地を堀返すため、混播草地のいたみが早い。

 

6 高原放牧場の今後の方向

この高原放牧場は地域の畜産振興を進めて行く上で重要な役割をしていることから、問題点を解決しながら、今後も牛の放牧場として活用し、さらに観光牧場として都会の人逹の行楽の場、動物とのふれあいの場として、この放牧場を多くの人に開放していきたい。

 

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