育 成 牧 場 の 30 年

山口県育成牧場
  場長 内 田  孝

  育成牧場の運営

 昭和42年に開場して以来、 平成8年度をもって満30歳を迎えた。
 畜産農家から熱い眼差しに見守られて開場した昭和42年度は乳用牛289頭、 肉用牛128頭 (無角和種86頭、 黒毛和種41頭、 褐毛和種1頭) の計417頭を受け入れたが、 牧草の播種時期の遅れによる草生の遅延に加え、 長期間の異常旱魃による草量不足、 草質の低下、 更に、 例年にない積雪という悪条件に見舞われ、 更に、 牧場開設当時はまだ西南団地における輪換放牧技術が十分確立していない中で、 農家ごとの入牧までの飼育管理方法の違いや月齢の異なる4品種を一度に受け入れたことによる品種別、 成育ステージ別の管理方法、 更に地形に応じた牧柵の布設、 1牧区あたりの面積と頭数の設定、 放牧牛の習性と行動、 利用目的別草種の選定、 害草駆除と草生維持、 放牧病 (特にピロプラズマ病) 対策など、 毎日が試行錯誤の中での牧場運営であった。
 こうした中、 施設の整備と改良、 飼育管理技術の向上に努めると共に、 日々の経験と普段の学習の積み重ねの下に育成段階からの入牧は家畜にとっても環境の急変を伴い、 合わせて種々の要因により十分なDGを確保することが困難とのことから、 昭和48年度から関係機関を通じて哺育から一貫預託を農家に進めてきた。

哺育・育成舎の一部

 その結果、 遂年育成成績も順調な向上がみられ、 預託農家の期待に十分応えうる成績を挙げるに至ってきた。

退 牧 牛 の 発 育 状 況

  機 構 改 革

 畜産を取り巻く技術は、 とりわけ胚の凍結保存と分割技術、 受精卵移植技術、 胚の雌雄鑑別等急速な進歩を遂げつつある。
 本県においても、 これら技術の早期確立を図るべく、 昭和58年度から試験研究機関において取り組むこととなり、 基礎研究の成果を踏まえ平成2年度から技術の実用化並びに応用技術の開発に取りかかるにおよび相当数のドナーの確保が必要となり、 一方、 酪農を取り巻く社会情勢の変化に伴う牧場での受託頭数の減少とも相まって、 従来の岩永台、 秋吉台の両団地の一本化、 即ち、 1団地による哺育から妊娠退牧までの一貫した受託管理体制とすることが決定された。
 この機構改革により、 岩永台団地を畜産試験場の研究施設とし、 秋吉台団地をもって新たに受託一貫体制による育成牧場として衣替えすることとなった。
 このため、 平成2年度から4カ年計画により草地造成、 施設の増設、 飼料調整機械の整備など機能の強化を図ってきた。 現在 (平成8年12月末) では、 1日平均250頭の受託管理を行っている。 過去3カ年間の受託牛の育成成績は表のごとく過去30年間の成績を毎年更新し、 牧場開設当時と比べ隔世の感がある。 これも一重に牧場で苦労された先輩諸氏の貴重な技術の蓄積の結晶であると、 改めて深甚なる敬意を表す次第である。

  これからの牧場経営

 育成牧場は、 乳・肉用牛飼養農家の経営安定に不可欠の施設として農家からの強い支援に支えられ、 今日までに約1万頭の預託牛を受入れ、 農家経営の安定にいささかなりとも貢献してきたところである。 この間の国の内外の経済情勢や先端技術の開発など大家畜を取り巻く環境は大きく変化してきた。
 牧場に対する評価、 価値観も社会情勢の変化に伴って当然変わり、 牧場の果たす役割、 使命も時代の要請に即し的確に対応することが求められている。
 このため、 受託管理業務は預託需要の動向に則して今後とも農家の要望に応じた運営が必要であるが、 更に牧場の有する潜在機能を十分発揮させるためにも改良増殖基地として位置づけ、 山口県の銘柄牛づくりに資すると共に、 優良基礎めす牛の増殖やスーパーカウの受精卵供給など試験研究機関との有機的な連携のもとに、 更なる機能の強化を努めていく必要がある。
 また、 県農林業、 農山村振興の基本構想に即し、 農山村と都市との共生を図る観点から秋吉台国定公園の自然環境や地域固有の資源を活用した多様な地域交流の場として整備していくことも必要なことではないかと考えている。



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