牛群検定を利用した繁殖向上対策

(優良経営事例紹介)
山口県酪農農業協同組合
  営農指導課長 原 田 康 典


 今回ご紹介するのは牛群検定を利用した繁殖向上についてうまくいった県内の具体的事例を基に紹介します。
 経営者は誰しも一番先に考える事は所得のアップです。 酪農家が所得確保する早道は乳量アップをすることです。 乳量アップすればその分だけ収入があがりますが……。
 所得のアップと言っても、 いろいろな方法があります。 「改良により遺伝的資質を高める方法」 「飼料給与を見直す方法」 「環境改善を行いストレスを与えないなど間接的な方法」 等がありますが、 今からでもすぐできるのが 「飼料給与を見直す方法」 と 「繁殖成績の向上」 を行うことです。 この農家は後者の方法について、 努力しうまくいった例です。


  繁 殖 成 績 の 向 上

 繁殖の向上を図るということは、 早く種が付いて早く分娩させることです。 つまり分娩間隔を短縮することです。 そうすると無駄な飼料給与を行う日数が短縮して、 効率アップとなります。 いわゆる、 無駄飯食いを無くすることで収入を確保する方法です。
 牛群検定では分娩間隔の目標日数を380日としています。 例えば分娩間隔が450日 (結構このぐらいの農家が多い) だとします。 仮に380日になったとしたら70日の短縮です。 例えば40頭規模の酪農家だとしますと、1日食べる飼料代が約1,000円/頭とすると

       40,000/日 × 70 日 = 2,800,000 円

となりますが一挙にこうなるとは考えられません。 例え1日短縮したとしても40,000円の収入増となります。 アルバイトに出ても1日40,000円くれる所はそう簡単にはありません。 このように繁殖向上が経営改善最短の方法としてよく使われるのはこのためです。 しかしながら、 検討しようとしても分娩間隔がどうなっているのか把握できていなければ話になりません。 そこで牛群検定に参加することで、 牛群の月々の分娩間隔を確認することができます。 牛群検定参加の勧めになってしまいましたが、 私達がこの事業を推進するのはこういう理由により、 経営把握に役立つからです。


  A農家経営の事例

 これはA農家の経営実績を分析したものです。 この農家は夫婦で約40頭の経産牛を管理し、 740aの飼料畑を所有しています。 周囲に民家もなく比較的環境のよい場所です。 この農家を経営分析し (表1) のとおりまとめました。

表1 経営実績分析表(収益性要因)
区     分平成3年平成4年平成5年平成6年平成7年平  均7年全国
収    益    性 所 得 家族1人当り所得
常時1頭当り所得
所 得 率
2,776,954
163,350
21.6
2,601,398
143,612
17.9
1,587,767
110,686
13.8
1,264,358
91,262
11.3
2,906,186
206,102
25.0
2,157,807
139,597
17.3
4,026,000
257,850
29.2
生産原価 牛乳100kg当生産費用
 同家族労賃除く
牛乳100kg当総費用
 同家族労賃除く
8,418
6,973
9,725
8,280
8,564
7,111
10,405
8,953
9,640
8,038
10,888
9,286
9,448
7,873
10,937
9,362
8,409
6,881
9,182
7,653
8,947
7,440
10,230
8,715
7,755
5,846
8,954
7,045
投下労働 1人当り飼養頭数
1頭当り年間労働時間
同管理労働時間
10a当り労働時間
15.5
142.5
130.7
12.0
15.3
143.9
126.5
18.0
14.0
153.4
139.7
9.0
13.9
153.7
140.7
9.0
13.5
163.4
144.7
9.0
14.4
152.3
138.7
11.0
15.7
153.0
135
17.5
生 産 技 術 総産乳量
経産牛1頭当産乳量
搾乳牛1頭当産乳量
平均乳脂率
平均無脂固形分率
平均乳価
乳子牛販売価格
F1子牛販売価格
廃用牛販売価格
分娩間隔
乳飼比
乳飼比(育牧費用含)
276,374
6,774
7,919
3.77
8.66
105.7
41,440
 
130,643
14.5
51.4
297,114
7,194
8,230
3.91
8.71
108.4
18,381
 
220,964
14.2
48.1
298,708
7,180
8,438
3.81
8.67
107.3
15,750
 
55,967
14.8
49.4
301,431
7,555
8,637
3.76
8.59
105.7
18,667
 
29,647
14.3
47.9
299,746
7,647
8,868
3.76
8.69
103.5
22,143
 
18,624
13.0
46.0
53.3
292,968
7,316
8,419
3.87
8.66
105.75
23,262
#div/0!
91,169
14.2
48.5
53.3
322,200
8,226
 
3.74
 
101.7
 
 
 
13.9
43.7
 この表から分娩間隔をみると、 過去14.5カ月程度であったものが平成7年度においては13カ月となっています。 このことが結果として、 乳飼比の低減となって表れています。 乳価下げの傾向の中でも所得率が良くなったのは、 このことも改善につながった大きな要因と考えられます。

図1

 また図1を見てみましょう。 乳量と乳脂率・産次と乳量・産次と乳脂率の関係においても改善され、 平成6年より7年の方がうまくまとまっていることが解ります。
 家畜改良事業団の永井仁アドバイザーの簡易診断評価表で比較しても、 平成6年より7年の方が分娩後初回種付け日数が早まり、 平均授精回数が減少し、 結果として平均分娩間隔が413日から398日と15日短縮され評価点は73点が75点と2ポイント向上しています。
 繁殖成績の向上対策については過去多くの資料なり、 データーがいろいろな機関より出回っています。 料理するか否かはあなた次第です。 ちょうど大海原に出航してコンパスや気圧計のような現状把握をする術を持たないようなものです。 無て勝つ流では台風が近くにいるのに出航した洞爺丸のようなものです。 そこには経営の沈没が待っていることもあります。
 たいそうな表現になってしまいましたが、 皆さんが牛群検定を利用して、 自分のいる位置を把握し、 それを改善して今後の生き残りに活用して頂きたいと思います。



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