A牧場の低コスト牛舎の取組み

山口県酪農農業協同組合
  営農指導課長 原 田 康 典


 ガット・ウルグアイラウンドの農業合意以来より、 酪農経営環境は生乳価格の低下と飼料費の高騰により収益減となりました。
 このことが原因となり、 酪農家戸数の減少を余儀なくされる一方、 残る農家は生き残りのため所得の確保の必要から規模拡大へと変化して参りました。 牛舎が整備され、 牛の頭数が揃って規模拡大が進むと、 収入が多くなるととかく思いがちですが、 そうは問屋がおろさないのが世の常です。 見かけと経営内容とは比例しないことが多いものです。 例えば、 儲かっていないものに100万倍乗じても答えはプラスにならないもので、 一頭がマイナスになればその掛け算で収入はマイナスです。 出てくるものは糞尿ばかりといったことです。
 そこで、 こういった解決に施設投資額を低く抑えることで、 所得の確保を計ることができます。 今後規模拡大や経営移転を考えるかたの参考になればと思います。

  パ イ プ 牛 舎


(写真1)パイプ牛舎
 平成8年5月に、 下関市清末に低コストのパイプハウス牛舎が、 完成致しました。
(写真1)成牛50頭、育成牛50頭の飼育規模です。
 これはAさんが、 今後の酪農情勢のなかで生き残りをかけた牛舎移転に伴う規模拡大です。 彼の考えの中で、 ゆとりをもって10年以内に返済したいということから、 先に最大投資額の上限を決めて業者と交渉された結果です。
 特に酪農は同じ作業を1年365日行うわけですから、 毎日の作業の合理化を行う機械については効果のあるものとする。 このことによって時間と体を合理的に使うことが出来、 経営全般を考えるとこの費用は当座いくらか高くつくように見えますが、 将来コストで考えると結果として低コストです。
 牛舎については事業費が高くつくので合理的な低コストのタイプを検討する。 今後、 乳価の不安定さや先行きの厳しさから、 今回規模拡大のため要した費用の返済は余裕をもって行きたいと考えて、 牛舎のストール数 (飼養頭数) 規模は10以上も余裕をとりました。
 また、 それ以上の場合はフリーバンも対応可能な育成舎の併設の設定となっています。 ただし今回は1頭1頭の牛を大切にしたいという判断からつなぎ牛舎としました。

パイプ牛舎内部

  実施にあたっての検討事項

 作業効果をあげる所については最大限投資することが彼の目標でした。
 具体的には以下の通りです。
 ● 全体事業費については2,500万円以内の低コストとする。
 ● 成牛舎は50頭規模、 牛にストレスをかけない幅広いストールの確保
 ● 成牛舎と同規模の乾乳牛舎・育成舎の確保
 ● 四肢の負担軽減のため、 搾乳全牛ゴムマットの設置
 ● 牛の健康のため、 換気の効いた天井の高い開放的造りとする
 ● チェーン交換の容易なフック式バーン・クリーナーの設置
 ● パイプライン 特に高乳量に対応した乳頭に負担のかからない最新の機器と自動離脱装置の設置
 ● ミルクユニット移動時の負担軽減のためユニットキャリアの導入
 ● 糞尿処理についても最善のものを完備する

 以上のことについて検討しました。
 パイプラインとユニットキャリアにバーン・クリーナーを設置すると、 ほぼ1,000万円を要することは皆さんご存じのとおりです。 また、 糞尿処理については、 国の事業の環境保全型畜産確立対策事業にて対応するので今回はこれに含まれておりません。
 このことから牛舎の費用は残りの2棟分となり、 1棟分はその半分ですから1棟が500万円〜700万円程度で出来る金額となることになります。 最終的に低コストの現在のかまぼこ型のパイプハウスの導入となったわけです。 このパイプハウスについても北海道型と鹿児島型がありました。 この北海道型は積雪と強風に耐えるため中にプレスを入れて強化したもの、 鹿児島型はパイプを揺らしてかわすという特徴がありますが、 この西南団地には台風が多いため鹿児島型としました。 但しこの建設に際しては、 牛舎建築にコストダウンのため自分で人夫を雇って、 資材費と人夫賃のみ支出と致しました。
 簡単にこうお話すると何だそうかということになりますが、 牛舎には柱やウオーターカップ等の細々とした備品が必要です。 そこで低コストにするために、 Aさんは資材の一品一品について納入業者と交渉され、 この積み上げの結果が現在の牛舎完成となりました。
 特に従来Aさんとの旧牛舎での作業は、 体に負担のかかるバケットミルカーとスコップによる除糞作業、 特に建て増しの牛舎のため作業が複雑で随分牛舎にいる時間が長かったのですが、 これらから脱却するため質的改善を図った結果とも言えます。
 今回紹介した低コスト牛舎が全てではありません。 皆さんの経営に添ったそれなりの経営改善は、 その経営一つ一つで違ってきます。
 今後、 この私達の酪農環境に明るい兆しがそう簡単に見える様子はありませんが、 こうした努力によってコストダウンを図り、 この厳しい経営環境に打ち勝ってほしいと私たちは願っています。



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