3 泌乳量の向上対策
動物の体内で発生する熱は2つあります。1つはルーメン(第1胃)内での熱発生、今一つは乳牛で多く発生する乳房の熱発生があります。いずれの熱も牛は体表面と呼吸によって体温調節し、体内の各臓器活動を正常に維持しています。
ところが気温が高く(夏季)なって来ると、うまく熱が逃げないので体の表面に汗を出したり呼吸を多くして熱を逃がし体温の上昇を止めようとします。
牛の場合、体の表面は余分の熱の8割が汗を蒸発させることにより体温調節します。ところが回りの温度・湿度が高く通風が悪く、室温が30℃以上になると汗の蒸発がさまたげられ熱をうまく逃がすことができず、舎内の牛は体温調節が出来なくなり体温が上昇しストレスがかかります。(表5) |
表5 気温及び湿度と乳生産
気温(℃) |
相対湿度(%) |
乳量(%) |
24 |
38 |
100 |
24 |
76 |
96 |
34 |
46 |
63 |
34 |
80 |
41 |
気温24℃湿度38%のとき乳量100%とする
(1)ふく射熱防止 |
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[1]直射日光の舎内侵入防止
[2]屋根には白や日光を反射する色の塗装
[3]屋根がスレート瓦の場合は消石灰のスプレー塗装
[4]屋根の上に寒冷紗の設置
[5]暑熱侵入防止のため屋根裏へ断熱材の設置
[6]地面からの反射熱防止のため牛舎周囲に被陰樹や寒冷紗設置 |
(2)清涼風の確保 |
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[1]舎内へ自然の風を確保
[2]夏の風路の調査と風の確保
[3]屋根にスプリンクラー設置し水を散布
[4]夕方は牛舎周囲に打水を実施 |
(3)自然通風の利用 |
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[1]一般に舎内では暖風は上、冷風は下を流れることから低い飼槽の設置
[2]屋根裏に緒留している暑熱空気の除去(機械等の設置) |
(4)牛舎内の環境改善 |
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[1]牛床と牛床の間隔を広げ、牛同士の熱の影響防止
[2]強制送風
ア 風は出来るだけ牛体に当てないよう、舎内空気の撹拌
イ ダクト送風の場合は新鮮空気の取り入れ口と送風口の配慮
ウ 夜の10時か11時頃に冷気を取り入れる |
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(5)餌槽周囲の改善 |
飼料は腐敗防止のため、夏季は出来るだけ早めに残滓の除去 |
(6)牛個体の衛生管理 |
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[1]牛は呼吸数を多くして体温調節を行っている。その呼吸運動は逆に熱を生産することから、呼吸数を下げ牛の体調快復を図る。
[2]良質飼料の給与は第1胃の発酵熱を抑える効果がある。
[3]採食後、数時間は第1胃の温度が上昇する。気温の高い時に牛にはこれがストレスとなることから、給飼時間の主力を気温の低い夜間にするのも1つの方法である。
[4]牛は体温が一定温度(約39度)以下にならないと食欲が出ない。そこで外気温の低下し始める時間帯の送風や、夜間に舎外に牛を出すと効果がある。
[5]第1胃の温度を低下させるため冷水を飲まし、飼料摂取量を増加させた試験成績がある。 |
以上の対策が考えられるが、これらを1項目のみ実施してもすぐ効果が出るものでなく、数項目を積み重ね実施することが成果につながるものです。 |
乳牛は夏季、気温が高くなると、第1胃の運動が低下し採食飼料が消化管内に滞留時間が長くなります。その結果、採食量が減少する。そこで飼料摂取量を適温時と同量に保っても乳量が減少します。その他、乳成分の低下、増体量の減少、受胎率の低下が見られています。
この高温時における乳牛の生産性低下は、舎内温度が24℃〜27℃で発現します。その発症の程度は品種、乳期、乳量、生理状態や順応の程度によって異なります。
わが国、西南暖地一帯で飼育されている乳牛は6〜9月にかけての乳量減少率が、乳量20〜25kgの場合において17〜20%と推定されており、それ以上の高泌乳牛ではさらに大きな減少をしめすものと思われます。しかし同じ夏季でも1日の最低気温が22°以下に低下し1日の気温の較差が大きくなると乳量の減少は軽減されます。
その他の気象要因で、湿度と放射熱の増加は舎内の蒸し暑さを増強し、雨や風はこれを軽減させます。
また高温時の泌乳量の減少は体温の上昇と密接に関係していることから、乳量の多い牛ほど、体内の熱の発生量が高く、体温が上昇しやすいと言われています。
以上のことから夏季に於ける乳牛の飼養管理は、体温の上昇を最小限にすることを念頭において作業することが大切です。
高温と採食量との関係は飼料の種類により異なり、その影響の度合いは濃厚飼料が最も大きく、ついでサイレージ、乾草の順になります。
乳牛の粗飼料の採食量は給与回数の増加や切断長の短縮、夜間給与により増加します。従って夏季には良質な粗飼料と濃厚飼料などエネルギー含量の高い飼料を最大限に組み合わせることが必要です。 |
<参考>
第14回全国酪農青年婦人経営体験発表会 |
(平成7年度実績資料)(H8.5.24) |
県名 項目 |
T |
K |
S |
I |
H |
T |
平均 |
経産牛頭数(頭) |
51 |
48 |
60 |
49 |
47 |
34 |
48.1 |
経産牛1頭当り乳量(kg) |
8,212 |
7,798 |
9,435 |
8,135 |
7,003 |
9,704 |
8,381 |
脂 肪 率(%) |
3.78 |
3.74 |
3.70 |
3.97 |
3.79 |
3.79 |
3.795 |
無脂固形分率 (%) |
8.65 |
8.56 |
8.70 |
8.67 |
8.68 |
8.62 |
8.646 |
体 細 胞 数 (個) |
22,000 |
12,000 |
250,000 |
86,000 |
180,000 |
128,000 |
110,000 |
平均種付回数 (回) |
2.2 |
1.7 |
1.6 |
1.9 |
2.1 |
1.8 |
1.52 |
分 娩 間 隔(ヶ月) |
14.1 |
13.0 |
12.0 |
13.2 |
12.7 |
13.1 |
13.0 |
乳 価 平 均 (円) |
93.40 |
104.00 |
101.27 |
94.10 |
70.45 |
108.00 |
95.20 |
H7年生乳1kg生産費 |
77.20 |
74.90 |
90.80 |
65.30 |
62.00 |
68.60 |
73.13 |
乳 飼 比(%) |
28.10 |
33.70 |
40.90 |
37.40 |
23.60 |
45.00 |
34.78 |
H7年度酪農所得率(%) |
42.90 |
34.20 |
25.13 |
34.30 |
36.40 |
30.10 |
33.83 |
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