現地指導の概況

1 繁殖障害向上対策

1)繁殖障害の現状
 酪農家の皆さんが飼育している乳牛の中で次のようなものがあれば対策が必要です。
生後15ケ月齢になっても明瞭な発情を現さないか、或いは発情があっても周期が不規則であったり、発情が長引くため適期がつかめず授精が出来ない。
発情があって授精しても卵巣か子宮に異常があって受胎しない。
授精したあと次回の発情周期には再発情はないが、30日が50日位に再発情がきた。
全く異常がなく見えるが、何回授精しても受胎しない。
分娩後50日以上経過しても発情がないか、発情があっても正常でないため、授精できない。
妊娠中に胎児が死亡したり流産する。
分娩直前か分娩中に胎児が死んだり難産する。
後産停滞する。
分娩後の子宮の回復が遅く20日過ぎでも悪露または粘液を排出する。

 以上のような状態を呈するものは全て繁殖障害ですから、その原因を探索する必要があります。
 ここで繁殖障害とはどういうものか、もう一度考え直してみたいと思います。今までの乳牛の繁殖成績は、授精されたものについてだけ、検討されていたと思われます。初めから無発情、異常発情のため、授精の対象から除外されたものについては成績から外されていたのですが、当然これらの乳牛は繁殖障害として見なされなければなりません。
 この実態は明らかではありませんが、酪農家で飼育されている成雌牛の内、授精されているものが80%と見ると、この牛の受胎率が70%としても実際に年間に受胎するのは56%程度であるわけで、繁殖成績としては、あまり良くない状況です。
 早急にその対策を講ずる必要があります。

2)繁殖障害の予防と治療

上記の繁殖障害の現状のア〜ケまでの予防対策と治療について述べます。
 アの場合は正常ならば、70%は15ケ月齢迄に初回発情があります。生後一年以内に発情がみえる乳牛の受胎率よりはやゝ劣りますが、せめて15ケ月齢までにきちんとした発情がほしいものです。このように初発情が遅れるものは、低エネルギー飼料給与の例に多く見られ、卵巣の発育不全か、卵巣機能減退を起こしていると思って良いでしょう。卵巣機能停止は、育成期間中の飼料給与の失宣からくるものが大部分であり、当然、飼い直しが必要となります。併せてホルモン(PMS、HCG)による治療が必要です。
 イは卵巣ホルモンと黄体ホルモンの分泌異常により子宮内における受精卵の着床発育が阻害されるものであります。
 ウはイと同様の原因で起こる繁殖障害です。両者の治療は、まず現行の給与飼料量が栄養的に適正であるか否かを確認することですが、恐らく是正が必要になります。そのあと性ホルモンによる治療を行います。飼養条件と繁殖との関係は非常に密接な関係があります。
 なお卵巣の疾患には必ず子宮環境の異常が付随しているとみて差し支えはありません。卵巣の治療を行うときは、子宮洗浄をして見て下さい。
 エはリピートブリーダ−ですが、検査は性周期の観察、黄体期の卵胞の共存で、診断的子宮洗浄を行うことが必要です。授精後子宮洗浄を行うと、折角の授精した卵子を洗い流すことになってしまうのではないかとの心配があると思いますが、卵子が子宮角に到達するのは排卵後4日〜5日ですから、排卵の次の日はまだ卵管内に卵子がいて、子宮洗浄による影響を受けることはないようです。
 ただし、子宮洗浄後は子宮内に注入薬を入れることは出来ません。
 オは卵巣機能不全、卵巣のう腫、黄体遺残症によるものが多いようですが、これは栄養と泌乳量に関係があるようです。分娩直後から低栄養区と正常栄養区、それぞれ2頭の子牛に自由に哺乳させたところ、低栄養区は56日まで排卵がなかったのですが、高栄養区は43日で排卵を認めました。また搾乳量の少ない方が、初回発情は分娩後28.4日で一番早く、受胎率や受胎に要した授精回数は表4のように同様な成績でしたが、多量搾乳区に卵巣のう腫の発生率が22.6%と発生が見られた。

表4 分娩後の泌乳量と繁殖能力との関係(乳牛250頭・分娩後120日間)
乳量(4%FCM) 22Kg/日 22〜30kg/日 30kg/日
頭  数(頭) 57  131  62 
初回排卵(日) 13.1 14.0 15.5
初回発情(日) 28.4 33.1 69.9
初回授精(日) 74.6 77.0 84.8
受  胎(日) 95.7 98.4 101.9
授精回数(回) 1.8 1.9 1.8
卵胞のう腫(%) 7.0 9.9 22.6
(外国文献)
 カについてはビブリオ、レプトスピラ、ブルセラ、トリコモナスなどによる流産も考えられますので、精密検査をしてみる必要があります。
 乳牛では分娩後初めての排卵は、通常発情を伴わず、その時に形成される黄体は、発情が不十分で寿命も短いのが普通です。しかし二回目排卵からは正常な性周期を示すものが多いようです。しかし一般の性周期では前回排卵後の黄体形成が、順調か不調かで次期発情の良、不良、または強い、鈍いが決まるようです。
 キはカと同様な理由のほか前回の妊娠、分娩、流産などによって、子宮、子宮頸管、膣などに損傷癒着、閉鎖が起こることがあります。
 クは後産停滞で家畜の中でも、乳牛に最も良く起こるものです。この原因と予防については古くて新しい課題と言われるほど、長い間、研究されながら今だに解明されていない点が多いようです。発生率は一般の酪農家で約15%、専業酪農家で25%とも言われています。
 原因は、ただ後産停滞のみの単一ものでなく、胎盤に既に炎症がある場合や、妊娠末期の黄体ホルモンの分泌不足、ビタミン不足、舎飼、運動不足、日光浴の不足、良質粗飼料給与不足などの組み合わせによるものであろうと考えられています。
 後産停滞は、乳房炎、ケトージス、産後の衰弱などと併発することが多いのでその面での注意が必要です。
 後産の除去は母体の状況により早く行うこともありますが、夏季は分娩3日後、冬季は分娩4日後に行った方が無理がなく剥離が出来ます。
 ケは分娩後に細菌感染したり、後産停滞をしたことにより、子宮内膜炎を継発したとみてよいと思われます。早急に子宮洗浄をすることが必要です。経過が長いと、卵巣疾患を誘発して、慢性に移行し治りにくくなります。
 以上、繁殖障害として述べましたが、繁殖と栄養とは密接な関係にありますが、しかし栄養の多寡の問題だけでなく、給与する濃厚飼料と粗飼料のバランスにも気をつけなければなりません。とくに繁殖障害の不妊症は発情が微弱か無発情のため授精不可能の場合と、授精は行うが受胎しない場合とがあります。


3)飼料給与と異常発情(無発情か微弱発情)の関係
 飼料中のTDN不足の場合
 無発情か微弱発情の原因として、いま産乳量に対応したTDNが給与されず不足しているか、現在は十分給与されているが過去の不足が原因で無発情の場合があります。特に分娩後の最初の発情は、産後40日程度で発現されるのが普通ですが、分娩直後から、このころまでは飼料とあまり関係なく催乳ホルモンの活発な働きにより泌乳が促され増乳されます。一方、母体の消化機能は産後の疲労や、消化器の移動、飼料給与の変化などによって、産乳量に必要な栄養分を必ずしも、十分とりにくい条件にあり、また乳房の生理的腫脹、硬結による飼料給与制限のため、産後初回発情現象が微弱になる傾向があります。
 受胎率の高い40日〜50日頃に、好発情を起こさせ、妊娠させるには、産後の飼料給与においてTDNの不足を招かないようにすることが重要です。それには産前・産後の飼料給与において飼料の急変をなくすことや、控え過ぎの飼料給与に注意し産乳量に応じた、十分なTDN量の飼料を給与することが必要です。
 飼料中のカロチンやビタミンA不足の場合
 ビタミンAの大量投与による治療法で、無発情、微弱発情の牛に投与し、好発情の発現となった報告があります。これは明らかにビタミンAの不足が原因であったと思われます。
 カロチンの給与はヘイキューブなどの良質な牧草給与を風乾物状態で1日2kg以上給与することが必要です。乳牛本来の生理から考えれば良質な牧草の十分な給与によって、牧草の中のカロチンが必要量ほど腸壁でビタミンAに転化され、ビタミンAとしての役割を果たしますから、全くビタミン剤は不要なはずですが強酸性土壌や、天日乾燥、サイレージの水分調整(天日)により、カロチン含有量がたいへん減少するため、ビタミンAやカロチンの給与としてはアルファルファ・ヘイキュウブやルーサンミールなどの利用を考えなければなりません。カロチンやビタミンAの不足は特に無発情や遅排卵と関係が深いようです。
 DCPの過剰または不足
 DCPの過剰が長期間継続したり、DCPの不足が微弱発情の原因になったりします。この過剰が長期化すると肝臓機能を狂わせ、ホルモン代謝を阻害し異常発情の原因になっているようです。また、この不足は卵巣機能が著しく減退し、そのため卵胞が発育不良で発情が来ません。
 飼料と繁殖障害の関係について、給与飼料の内容が時々変わっている牧場(酪農)で不妊症が多かったといった事例があります。

4)着床障害と遅排卵
 発情はあるが授精回数が多く、どうも受胎率が悪い。この原因の多くは着床障害や遅排卵です。病理的原因でなく飼料給与の面からの原因として、一番考えられることは次のことが多いようです。
 ビタミンAの不足
 乳牛は多量な泌乳のためたくさんのビタミンAやカロチンが必要です。そのため飼料の中にカロチンやビタミンAが少ないと不足をきたします。
 不足による症状は、繁殖に関しては子宮粘膜の異常による着床障害です。また、卵胞の発育や排卵とも深い関係があるようです。これらの対応策としては中性に近い土壌管理のもとに、栽培された牧草の放牧給与またサイレージや人工乾草を給与しカロチン含量の損失を防いだ飼料給与が必要です。これが出来ない場合はアルファルファ・ヘイキュウブやルーサンミール、ビタミン剤の投与が必要です。
 高蛋白、低カロリーの原因
 特に低カロリー給与のため繁殖不順が多いようです。また、高蛋白質飼料の給与は遅排卵、卵巣のう腫の原因となっています。
 リンの不足
 給与飼料中のリンの不足のためと思われる不妊牛があります。これは無機リンの添加によって改善されます。
 以上のことから繁殖障害対策としては飼料の急変をさけ、TDNの不足のない飼料を給与しカロチンやビタミンAを十分給与しCaやPのバランスのとれた給与管理を行うことが大切と思います。

5)飼料給与から繁殖障害の改善
 ビタミンの働き
 ビタミンAは植物性飼料に、カロチンとして含有され家畜体内でビタミンAになります。これが欠乏すると結膜炎を起こし牛は流産するようになります。また皮膚、呼吸器、消化器、生殖器の上皮、或いは粘膜が角化して細菌におかされやすくなり、牛では繁殖障害の原因となったり幼畜の生育が不良となります。
 血漿中のβ−カロチン、ビタミンAやビタミンEの量は分娩前から次第に低下して、分娩後1週間以内では最低値を示すことが多く、分娩後のβ−カロチン(300mg/日)とビタミンE(1000IU/日)を添加給与することにより、胎盤停滞の発生が減少し(後産停滞)分娩後の子宮回復、初回排卵、発情回帰までの日数が短縮されます。また分娩後にセレン2mg/日を添加すると血液中のセレン濃度が上昇し、受胎率が向上したという報告があります。従って高い受胎率を得るためには分娩後にエネルギー、蛋白質、ビタミン、微量ミネラルと、良質粗飼料を不足なく給与することが重要です。
 セレン(Se)の働き
 わが国では牧草中のSe含量が牛のSe要求量よりも極端に少ないため、牛のSeの栄養状態に関する研究が、近年広範囲に実施されています。これらの結果によると、我国でも子牛に白筋症のようなSe欠乏症の発生も見られています。しかしSeに関して乳牛で最も重要な問題は、Se不足によって生じる乳牛の繁殖成績の低下や疾病の増加と考えられています。また泌乳牛では乳中へ分泌されるSeの量が多いために、高泌乳牛ではSeは不足する可能性が高い。Seの少量要求量は飼料中のSe化学的形態など、さまざまな要因に影響されるが、特に飼料中のビタミンE含量の多少によって変動します。飼料標準では乳牛のSe要求量は飼料乾物当たり0.1〜0.3ppmと推定しています。
 我国の成績では、飼料乾物あたり0.1ppmで乳牛要求量は、ほぼ満たされているものと考えられています。しかし最近、後産停滞や乳房炎の予防、或いは繁殖成績向上などSeの添加が効果を示したことから、分娩前後においては飼料中のSe濃度を飼料標準に0.1ppm以上とする方が良い場合があるとされています。
 Seは他の微量元素に比較すると消化管から吸収されやすいため、中毒症が最も発生しやすい微量無機物の一つである。我国では約5ppmのSeを泌乳牛に投与した時に軽度の中毒症状が発生しています。
 ビタミン及びミネラルの働き
 脂溶性ビタミンAD3、Dは繁殖あるいはミネラル代謝にかかわっており、これらが不足すると、繁殖障害、感染症、乳熱あるいは、起立不能症にかかりますので十分補給する必要があります。ビタミンAD3、及びEの1日当たりの投与量は、それぞれ10万単位、2万単位、500単位(500mg)とするのが良いでしょう。
 最近β−カロチンがビタミンAと独立して繁殖に関係していることが報告されていますが、良質乾草を3kg程度の給与で十分補給できます。またミネラルも繁殖に深く関係しており、カルシュウム、リンは泌乳期間を通じて十分給与するとともにその比についても配慮することが大切です。微量のミネラルについても不足のないように給与します。
 ただ分娩前の食塩の多給は、分娩後の過度の浮腫の原因になりますので、1日30g程度におさえることが大切です。
 カロチンの働き
 カロチンは繁殖及び乳質と大きな関係があり、特にβ−カロチンについては体内に入り、ビタミンAに変化し発情期間の正常化、ろ胞の改善、表皮組織の角化防止、黄体形成促進の効果のほか、ビタミンAより安定性が良ということと、研究発表の中にもβ−カロチンの血中濃度の高い牛ほど受胎率が高いという報告があり、カロチンを使用してみた結果、次のとおりでありました。
 某製薬会社のカロチンの入った薬(β−カロチンとして280mg)を、1頭に1日40gを分娩前1ケ月から受胎確認までの期間を使用してみました。その結果、発情がはっきりし、直腸検査の結果でろ胞、黄体の状況がよくなり、また体細胞の低下にもこの効果があったとおもわれています。

2 ボディコンディション(B・C)

1)飼養管理の改善
 高泌乳牛の飼養法への関心が高まりつつある中で、ぜひとり入れたいテクニックの一つにボディコンディションの評価方法があります。ボディコンディションとは皮下脂肪の蓄積状態を触診によって客観的に推定しようというのがその評価法であり、世界的に普及しつつあります。とくに、近年、産乳能力の改良が著しく進み、高泌乳牛の分娩前後或いは泌乳期のステージの進行に合わせた合理的飼養法の重要性が見直されてきており、生産性の高い牛群のきめこまかな飼養管理上、ボディコンディションの判定は貴重な手段となってきています。さて、その有効なわけと判定の要領は次のとおりです。
 近年、乳牛の産乳能力は、遺伝的な改良や飼養技術の改善によって著しく上昇しました。すでに、牛群検定の平均能力が8千キロを超える道県もいくつか出ているし、年間乳量が2万キロに達するスーパーカウも出現している状況で、我が国も愈々高泌乳牛時代を迎えたといってよいのです。
 高泌乳牛となると、飼料摂取量も多くなるし、これに伴って、栄養の代謝が円滑に行われるためには、より一層きめこまかな飼養管理が必要になってきます。その僅かなミスが、乳量や乳成分率の低下を来すだけでなく、代謝障害や繁殖障害にもつながります。
 栄養状態との対話が基本の給与飼料は、直接的には牛の体重、毎日の産乳量、妊娠月齢に応じて調節しなければならないし、間接的には牛の栄養状態も考慮しなければならなりません。飼養標準に基づいて給与量を決めるにしても、ボディコンディションとその都度対話しながら、修正しつつ実行することが大切で、ここにボディコンディションのチェックの重要性があります。

2)五段階評価法
 ボディコンディションの評価法としては、五段階評価法が最も普及しています。これには、各評価値にプラス又はマイナスをつけてさらにきめこまかい評価をする方法もあります。
 このほか前記五段階評価法型、平均的状態、肥満型の三段階評価法もあるが、要は牛のコンディションの変化を突きとめられるものであればよいのです。
 ボディコンディションの判定には、通常は肋骨、背骨、腰角、坐骨端、尾根等を、皮膚の上から指で押したり、手で少し力を入れてなで、皮下脂肪の付着状態を調べます。
 五段階評価法による評点のつけ方の要領は次の通りです。
・評点1
 肋骨には殆ど肉が付いておらず、背骨の輪郭が明瞭に現われ、腰角と坐骨は殆ど肉が付いていない。腰角と坐骨との間には深い凹みがある。尾根の下及び左右坐骨間は深く陥没し靱帯と陰門が顕著に現われているもの。
・評点2
 肋骨、背骨は、外観上は明瞭ではないが、触診で容易に個々の骨を識別できる。骨角と坐骨は顕著であるが、腰角と坐骨間の陥没の程度は著しくない。尾根の下及び両坐骨間はいくらか陥没し、骨には或る程度肉が付いている。
・評点3
 肉付きが適当で、平均的状態にあるもの。背骨は指で或る程度強く押したときに感じとれる程度。腰角と坐骨は円く滑らか。両坐骨間及び尾根の囲りは、肉はついているが、脂肪沈着の徴候はなく、滑らかに見える。
・評点4
 個々の肋骨及び背骨は強く指で押してはじめて見分けられる。十字部付近は平らで、背骨の両側及び腰角と坐骨の間を押してみると、脂肪が付いているのが判る。尾根と坐骨は円くなって皮下脂肪が付いている。
・評点5
 背骨は厚い脂肪層で覆われている。腰角と坐骨は判然としない。肋骨は完全に脂肪で覆われて見えない。尾根は脂肪の中に埋まっているように見える。

3)四時期に分けて対応
 さて、妊娠、分娩、泌乳という一連の生理的過程は、その生理的特徴から4つの時期に分けられます。泌乳前期、泌乳中期、泌乳後期、乾乳期がそれです。(図1参照)


図1 平均的な牛の乳量、飼料接種、体重の曲線

 次に、これら4つの時期の生理的特徴について、図1をもとに概説します。
 最初の泌乳前期は、分娩してから約10週間の期間で、泌乳量も多く、飼料からとれる栄養分は賄いきれないときです。それは、分娩後乳量が急増し、エネルギーの要求量が著しく増加するのに対し、乾物摂取量は徐々に増加し、そのピークは乳量のピークより数週間遅れるからです。このため高泌乳牛では不足するエネルギーを体脂肪で賄い、体重の減少がみられます。
 泌乳中期は、分娩後10週から20週目頃までの期間に相当し、乳量は減少し始めるが、乾物摂取量がピークに達し、それまで減少し続けた体重も回復に向います。
 泌乳後期は、分娩後20週から44週目位の期間に当たり、養分備蓄が効率よく行われる時期で、ボディコンディションの回復期です。

4)避けたい乾乳期の過肥
 乾乳期は、最後の約8週間で、乳牛飼養上、産後の状態を良好に保つための準備期間として、泌乳前期と共に最も重要な時期です。
 前述のように、乳牛は分娩後エサから供給する栄養分で不足する分、とくにエネルギーは、体脂肪を動員して泌乳するという機構になっています。そのために乾乳期に蓄積しておく体脂肪は量・質ともにグッドコンディションにしておかなければなりません。
 しかし、乾乳期に牛を太らせ過ぎるのは、分娩後に、起立不能症、ケトージス、脂肪肝等の肥満症候群、繁殖障害に罹る率が高くなるし、飼料中の養分の体組織に蓄積する効率が、乾乳中の牛(48%)は、泌乳中の牛(62%)より低いので経済的にも不利です。
 逆に、乾乳期のコンディション不足の場合は、次期の産乳量が少ないばかりでなく、乳房炎、鈍性発情等が多くなり、また丈夫な子牛の生まれる率も低くなります。
 要は、この乾乳期に、牛は次期泌乳期に対する乳腺の再生増殖、急成長する胎子への栄養供給、次期泌乳期への体力回復と養分蓄積を行う訳であるから、過肥にならない程度に、ボディコンディションを整える必要があります。
 図2は、泌乳期の進行に伴うボディコンディションの変化を判り易く示したもので図のように、正常なものの変化は、分娩後2〜3ケ月頃からコンディションを徐々に回復し始め、泌乳後期にはそれを整え終り、乾乳期はそのコンディションを維持する期間であることが判ります。


図2 泌乳サイクルに伴うボディコンディションの変化

5)評点3前後の状態が最適
 次に、図2に示した事柄に関連して、乳期の進行の中で牛はどの程度のボディコンディションにあるのがよいか若干付け加えておきます。
 アメリカの専門家によると乾乳期のボディコンディションは、3+から4−の範囲が最適なようであり、分娩時には、牛がやせていない限り、乾乳時と同じ評点に保つのがよいといいます。乾乳牛で体重を落そうとするのは、母体及び胎児に対し良くないので、むしろ、さらに体重が増えないように配慮します。
 イギリスでは、分娩時のボディコンディションが2.5〜3.5の牛が期待乳量値を上回る検定成績を出し、2の牛が概ね期待乳量並み、2未満或いは4以上が期待乳量を著しく下回ったといいます。
 総じて、ボディコンディションが3〜4の牛が泌乳最盛期の一日当乳量が多く、且つ総乳量が多いという説が多いが、これは、蓄積体脂肪が乳汁合成のエネルギー源として役立っているためで、従って、体脂肪の蓄積のない牛は直ちに乳量、乳成分率に影響します。乳汁合成に動員可能な分娩4週以後は、ボディコンディションを1点以上下げるべきではありません。(例えば4から3というように)過度の体重減少は、ケトージス等の疾病を起こすおそれがあります。しかし、よい牛は或る程度体重が減少するものであります。研究者により若干異なるが、分娩によって、子宮、胎膜等を排出した後、60日ないし80日頃までの間に、45〜90キロの体重減少があります。つまり、1日当たり1キロ弱の減少です。若し、この期間に1日当たり1.5キロ位の体重減少があると、代謝障害を起こすおそれがあります。
 分娩後80日〜120日頃の期間においては、体重はコンスタント若しくは若干増えるようにすべきです。この期間に乾物摂取量がピークに達するのがよいのです。
 分娩後120日頃を過ぎると、ボディコンディションの回復が必要で、これには10日当たり3〜4キロの体重増加が必要です。

6)月1回のチェック
 ボディコンディション評価は、或る意味ではラフな手法だが、今のところ、牛体内のエネルギーストックを手っ取り早く推定する方法がほかにないので、飼養管理上極めて重要なテクニックです。
 乳牛の飼養管理で最も重要なことの1つは、個々の牛がやせつつあるのか、太りつつあるのかを常に把握しておくことです。その意味で、搾乳牛も乾乳中の牛も、定期的に(1ケ月に1回実施するのが望ましい。)採点することが必要です。
 1ケ月に1回の評価が不可能ならば、隔月実施でも相当効果があろう。最悪の場合でも、1乳期に少なくとも3回、即ち、分娩時、泌乳最盛期、泌乳後期に励行することをお奨めしたいものです。

3 泌乳量の向上対策

1)気温と乳生産
 動物の体内で発生する熱は2つあります。1つはルーメン(第1胃)内での熱発生、今一つは乳牛で多く発生する乳房の熱発生があります。いずれの熱も牛は体表面と呼吸によって体温調節し、体内の各臓器活動を正常に維持しています。
 ところが気温が高く(夏季)なって来ると、うまく熱が逃げないので体の表面に汗を出したり呼吸を多くして熱を逃がし体温の上昇を止めようとします。
 牛の場合、体の表面は余分の熱の8割が汗を蒸発させることにより体温調節します。ところが回りの温度・湿度が高く通風が悪く、室温が30℃以上になると汗の蒸発がさまたげられ熱をうまく逃がすことができず、舎内の牛は体温調節が出来なくなり体温が上昇しストレスがかかります。(表5)

表5 気温及び湿度と乳生産
気温(℃) 相対湿度(%) 乳量(%)
24 38 100
24 76 96
34 46 63
34 80 41
気温24℃湿度38%のとき乳量100%とする

2)牛舎周囲の環境と防暑
(1)ふく射熱防止
[1]直射日光の舎内侵入防止
[2]屋根には白や日光を反射する色の塗装
[3]屋根がスレート瓦の場合は消石灰のスプレー塗装
[4]屋根の上に寒冷紗の設置
[5]暑熱侵入防止のため屋根裏へ断熱材の設置
[6]地面からの反射熱防止のため牛舎周囲に被陰樹や寒冷紗設置

(2)清涼風の確保
[1]舎内へ自然の風を確保
[2]夏の風路の調査と風の確保
[3]屋根にスプリンクラー設置し水を散布
[4]夕方は牛舎周囲に打水を実施

(3)自然通風の利用
[1]一般に舎内では暖風は上、冷風は下を流れることから低い飼槽の設置
[2]屋根裏に緒留している暑熱空気の除去(機械等の設置)

(4)牛舎内の環境改善
[1]牛床と牛床の間隔を広げ、牛同士の熱の影響防止
[2]強制送風
ア 風は出来るだけ牛体に当てないよう、舎内空気の撹拌
イ ダクト送風の場合は新鮮空気の取り入れ口と送風口の配慮
ウ 夜の10時か11時頃に冷気を取り入れる

(5)餌槽周囲の改善
 飼料は腐敗防止のため、夏季は出来るだけ早めに残滓の除去

(6)牛個体の衛生管理
[1]牛は呼吸数を多くして体温調節を行っている。その呼吸運動は逆に熱を生産することから、呼吸数を下げ牛の体調快復を図る。
[2]良質飼料の給与は第1胃の発酵熱を抑える効果がある。
[3]採食後、数時間は第1胃の温度が上昇する。気温の高い時に牛にはこれがストレスとなることから、給飼時間の主力を気温の低い夜間にするのも1つの方法である。
[4]牛は体温が一定温度(約39度)以下にならないと食欲が出ない。そこで外気温の低下し始める時間帯の送風や、夜間に舎外に牛を出すと効果がある。
[5]第1胃の温度を低下させるため冷水を飲まし、飼料摂取量を増加させた試験成績がある。
 以上の対策が考えられるが、これらを1項目のみ実施してもすぐ効果が出るものでなく、数項目を積み重ね実施することが成果につながるものです。

3)飼料給与からの防暑
 乳牛は夏季、気温が高くなると、第1胃の運動が低下し採食飼料が消化管内に滞留時間が長くなります。その結果、採食量が減少する。そこで飼料摂取量を適温時と同量に保っても乳量が減少します。その他、乳成分の低下、増体量の減少、受胎率の低下が見られています。
 この高温時における乳牛の生産性低下は、舎内温度が24℃〜27℃で発現します。その発症の程度は品種、乳期、乳量、生理状態や順応の程度によって異なります。
 わが国、西南暖地一帯で飼育されている乳牛は6〜9月にかけての乳量減少率が、乳量20〜25kgの場合において17〜20%と推定されており、それ以上の高泌乳牛ではさらに大きな減少をしめすものと思われます。しかし同じ夏季でも1日の最低気温が22°以下に低下し1日の気温の較差が大きくなると乳量の減少は軽減されます。
 その他の気象要因で、湿度と放射熱の増加は舎内の蒸し暑さを増強し、雨や風はこれを軽減させます。
 また高温時の泌乳量の減少は体温の上昇と密接に関係していることから、乳量の多い牛ほど、体内の熱の発生量が高く、体温が上昇しやすいと言われています。
 以上のことから夏季に於ける乳牛の飼養管理は、体温の上昇を最小限にすることを念頭において作業することが大切です。
 高温と採食量との関係は飼料の種類により異なり、その影響の度合いは濃厚飼料が最も大きく、ついでサイレージ、乾草の順になります。
 乳牛の粗飼料の採食量は給与回数の増加や切断長の短縮、夜間給与により増加します。従って夏季には良質な粗飼料と濃厚飼料などエネルギー含量の高い飼料を最大限に組み合わせることが必要です。

<参考>

第14回全国酪農青年婦人経営体験発表会
(平成7年度実績資料)(H8.5.24)
          県名
項目
平均
経産牛頭数(頭) 51 48 60 49 47 34 48.1
経産牛1頭当り乳量(kg) 8,212 7,798 9,435 8,135 7,003 9,704 8,381
脂   肪   率(%) 3.78 3.74 3.70 3.97 3.79 3.79 3.795
無脂固形分率 (%) 8.65 8.56 8.70 8.67 8.68 8.62 8.646
体 細 胞 数 (個) 22,000 12,000 250,000 86,000 180,000 128,000 110,000
平均種付回数 (回) 2.2 1.7 1.6 1.9 2.1 1.8 1.52
分 娩 間 隔(ヶ月) 14.1 13.0 12.0 13.2 12.7 13.1 13.0
乳 価 平 均 (円) 93.40 104.00 101.27 94.10 70.45 108.00 95.20
H7年生乳1kg生産費 77.20 74.90 90.80 65.30 62.00 68.60 73.13
乳   飼   比(%) 28.10 33.70 40.90 37.40 23.60 45.00 34.78
H7年度酪農所得率(%) 42.90 34.20 25.13 34.30 36.40 30.10 33.83

4 乳質の向上対策

1)生乳中の無脂固形分率の向上
 生乳の無脂固形分(乳蛋白、乳糖、灰分など)は乳脂肪と同じく、牛乳の品質(栄養価)の基準となります。
 我国で飼育されているホルスタイン種から生産される牛乳の無脂固形分率は、欧米のそれより平均して0,3〜0,6%程度低いといわれています。この原因は遺伝的なもの、生理的なもの、飼養管理、気候風土など環境要因が複雑にからみあっており、そのなかで改善対策がいろいろ実施されています。

(1)飼養管理、飼料給与の適正化
[1]良質粗飼料の確保
[2]濃厚飼料の給与割合は乾物比で40%対60%とする
[3]エネルギーの給与不足に注意(特に高泌乳量期)
[4]ミネラル、ビタミンの適正給与
[5]飼料給与の急変をさける(第1胃の異常を招く)
[6]夏季の防暑対策(高温多湿からのストレス防止)
[7]乳房炎、肝機能障害など乳腺機能の障害要因の除去

(2)遺伝的能力の改良
[1]無脂固形分率の低い牛は経営が許すかぎり淘汰
[2]保留または購入予定の乳牛は、その選抜条件に無脂固形分率を念頭に置く
 但し、乳量と無脂固形分率は遺伝的には反比例する場合が多いので慎重な配慮が必要です。

2)飼料給与と乳成分の変化
 乳牛は飼養管理によって乳量と乳質が変化するといわれており、これらの因果関係は、かなり明らかにされています。しかし乳質の中でも、乳脂肪率の変動と無脂固形分の変動とは、違った飼養的要因によって影響されています。
 粗飼料の給与割合は乳成分に対して最も強い影響を及ぼす。一般的に粗飼料の不足、濃厚飼料の多給は、乳脂率を減少させ、逆に無脂固形分や乳量を増加させます。給与粗飼料の割合が増えると、無脂固形分率は低下する傾向をしめす。これは粗飼料の品質が不良なものほど著しくなります。

 このような現象を起こす1つの原因として、第1胃内の低級脂肪酸の比率の変化があげられます。プロピオン酸の割合の増加は乳脂率を低下させ、無脂固形分、特に乳蛋白質を増加させる傾向があります。
 また、粗悪な飼料を給与した場合は第1胃での消化吸収に要するエネルギーの損失が大きくなり牛乳生産に利用される熱量が相対的に少なくなるため無脂固形分は一般的には低下します。更に粗飼料を細断したり粉砕し、ペレットにして給与すると、粗飼料不足の場合と同様に乳脂率は低下します。この原因は第1胃内の発酵の変化によることが大きいようです。

3)エネルギーと蛋白質の給与水準が牛体に及ぼす影響
 飼料給与量が不足すると乳量が低下します。これは主にエネルギーと蛋白質の供給量が足りないためで、特にエネルギーの不足はこれが起きやすいと言われます。飼料エネルギーの給与水準は、無脂固形分率に大きく影響します。
 飼料標準に示された乳牛のエネルギー要求量を下廻る場合は無脂固形分は低下し、逆に上廻る場合は増加することは以前から明らかにされています。変動する無脂固形分は主に蛋白質であり、乳糖は比較的変動しにくいと言われています。このようにエネルギーの不足は普通、飼料給与量の不足や飼料の品質が不良の場合に起こるが、乳期のはじめの乳量や養分要求量が多い時期にも不足することが多いようです。

 一方、蛋白質の給与量がその要求量を下廻るときには乳量の低下をきたすが、一般には乳成分には大きな変化は生じません。また要求量以上の蛋白質を給与しても、無脂固形分や蛋白質の割合を増やす効果はみられず、牛乳中の非蛋白態窒素(主として尿素)が増加するに過ぎません。蛋白質の不足とエネルギーの不足が同時に起こる場合は無脂固形分、特に乳蛋白質率の低下は更におおきくなります。
 飼料中の粗繊維は乳牛の飼料には必ず含まれていなければならないが、飼料中の乾物で13%以下の含量だと乳脂率が低下することが明確にされています。

 また、粗繊維含量が増加すると乳量はわずかに減少するにすぎないが、無脂固形分、乳蛋白質、乳糖の割合は明らかに低下することが知られています。

 エネルギーや蛋白質の給与量に多少は生乳生産量に大きく影響を与えるが、乳脂率にはあまり影響を与えません。しかし栄養不良の状態が長期間続くと、乳量、無脂固形分の低下だけでなく、乳脂率にも影響が現れます。

4)無脂固形分率(SNF)の季節別変動
これを1年間で整理してみると以下のことがいえます。
(1)年間平均型→冬夏の変動が少なく、大体冬に高めに推移するタイプが多い。
(2)夏秋に落ち込み型→7〜8月に低下したものが9〜10月に回復して、再び11月前後に低下する。
(3)変動型→月々の変動の振巾が大きく季節との関連が明らかでない。
(4)その他→特有のタイプで他に類がない。

5)無脂固形分率および乳糖率低下のチェック
(1)無脂固形分率が低下した場合は、それを構成する乳糖率、乳蛋白質率の何れかが低下したか、それとも両方かをチェックする。
 この率が低下し、体細胞がほゞ正常であれば飼料の給与法、養分構成充足状況等の飼料給与に問題があります。
(2)乳糖率が低下した場合は体細胞がどのように変化したかをチェックし、体細胞が30万/ml以上であれば、牛群の中の潜在性乳房炎牛群が10〜20%程度以上は存在すると考え、その影響によることを先ず念頭におき、乳房炎の有無を調べる。

 次に、バルク内の牛乳で細菌数が増加した場合でも、無脂固形分率への影響は殆ど考えられません。その原因はミルクラインの細菌汚染(バルク、ミルカーラインの故障、洗浄失宣、乳石付着等)と考えて対処すべきです。

6)牛乳成分(無脂固形分率)に影響する飼養的因子
 飼養管理は次の項目が乳成分に影響します。
(1) エネルギー給与水準--------------------不足すると低下
(2) 蛋白質給与水準------------------------あまり関係なし
(3) 粗飼料(濃厚飼料多給)----------------不足すると増加
(4) 粗飼料粉砕----------------------------粉砕すると増加
(5) 放  牧------------------------------関係なし
(6) 飼料の加熱処理------------------------増加
(7) 飼料中の脂肪--------------------------関係なし
(8) 季節の影響----------------------------夏季に低下
(9) 気温の影響----------------------------高温時低下
(10) 産次(進むにつれ)-------------------乳糖が低下
(11) 乳  期-----------------------------高乳期に低下

7)体細胞と乳糖率との関係
 体細胞が多くなると無脂固形分率が減少し、そして乳糖率も低下すると言われています。(表6)

表6 体細胞と乳糖率
 体細胞(万個) 乳糖率(%)  体細胞(万個) 乳糖率(%)
5     4.44    50     4.35   
10     4.43    60     4.33   
20     4.41    80     4.29   
30     4.39    100     4.25   
40     4.31    200     4.09   

5 自給飼料給与にあたっての注意事項

1)硝酸態窒素中毒

(1) 発病事例
 島根県肥飼料検査所の発表(農業新聞H8.1.31記載)によると、最近家畜飼料用の輸入乾草の中に硝酸態窒素の含有量の多い牧草が販売され、それを大量に給与し中毒症状を示した牛が増えていると報じています。同検査所では分析結果、表7の通りでした。

表7 牧草より検出された硝酸態窒素濃度
草   種 硝酸態窒素の濃度 許容濃度
スーダングラス乾草(乾物あたり)
アルファルファ乾草
1,243ppm(範囲10〜3,370ppm)
534ppm(範囲10〜1,900ppm)

1,500ppm

 さらにNOSAI研究会報告によると、某牧場で輸入したスーダングラスの乾草を多量給与し、硝酸態窒素の原因と思われる事故が多発したと報じています。

 また長野県の某獣医医師が報告した事例によれば、輸入乾草のなかで、スーダングラスが硝酸態窒素の含有量が最も多く、スーダングラスを多給した牛群で事故が多発し多くの死廃事故が出たと報じ、担当した獣医師の調査で最高8000ppmの硝酸態窒素を含むスーダングラスがあったとしています。
 スーダングラスを多給した牛群では給与しなかった牛群に比べ、消化器病、周産期病を中心に事故が多く、乳房炎などによる急死の事例がありました。
 一般的に硝酸態窒素による中毒症状は、牛のポックリ病、起立不能などが知られているが、最近では周産期病、消化器病、繁殖障害等に影響しているとしています。

(2) 牧草中の硝酸態窒素
 スーダングラスの中の硝酸態窒素は検査によって数値がことなることが指摘されています。これは今後の検討課題であると思われます。しかし多くは飼料作物の茎の部分に多く含まれています。

(3) 給与にあたっての注意
 牛に硝酸態窒素濃度の高い飼料を多給すると、牛はこれを飼料から吸収し体内で生産された亜硝酸が、酸素を運搬する血液中のヘモグロビンと化合して酸素を受入れなくなり窒息状態になり急死したり、乳量低下などの症状をおこします。
 アメリカでは同濃度が4,500ppm以上に含まれている場合は牛に給与不適当としています。そこで牛に給与する場合は定量検査をしたうえで給与を決めるべきです。そして含有量が高いと思われる粗飼料は多給をさけ、他の乾草と併用するように注意が必要です。また特に危険と思われる場合はその飼料は給与しない方がよいと思います。

2)トウフカスの利用

(1) トウフカスの成分と飼料価値は
 トウフカスの生のものは水分が多く、その水分の範囲は78〜90%程度になっています。その成分を示せば表8のようです。

表8 トウフ粕の成分と消化率
  水分 粗タン
パク質
粗脂肪 可溶無
窒素物
粗繊維 粗灰分 DCP TDN 備 考
(生) 83.9 4.7 2.1 6.1 2.6 0.7 4.0 15.2 有機物消化率
消化率   85  84  78  89        87%
(生) 82.0 6.6 2.9 2.6 4.9 1.0 5.6 17.6  
(生) 91.5 2.2 0.9 2.9 2.0 0.5      
11.0 29.5 11.9 27.3 13.6 4.0 25.1 83.6  
(生) 82.8 5.3 2.1 6.1 2.0 0.8 4.5 16.0  
(生) 89.0 3.4 1.8 3.6 1.8 0.4      

 この表によってわかるように乾物中に粗タンパク質が多く、粗脂肪もやや多いのです。これらの飼料成分は、原料のダイズやトウフのつくり方によって変動するものであります。
 消化率はきわめて高いものです。有機物の87%が消化し、したがって、その風乾物のDCPは25%、TDNは84%の高さを示す。TDNはトウモロコシと同じ高さを示すのです。
 なおタンパク質のアミノ酸形成を示せば、表9の通りです。

表9 トウフ粕タンパク質のアミノ酸形成(%)
 

















ロシ
イン











フア
ェラ
ニニ
ルン








リフ
プァ
トン








備  考
(生)
(乾)
3.4
28.3
0.21
1.77
0.18
1.54
0.09
0.72
0.15
1.24
0.25
2.08
0.03
0.28
0.04
0.31
0.17
1.44
0.14
1.14
0.14
1.14
0.05
0.38
0.17
1.42
0.15
1.22
普通に流通
乾燥したもの

 これからアミノ酸組成も比較的均斉がとれているが、メチオニンなどの含量が低いことが知られています。
 ミネラルでは比較的カルシウムの含量は高く(76mg%)、リン含量がより低くなっていることは(43mg%)、マメ科の特性を示すものであるが、絶対量はそれほど高いものといえません。
 ビタミン含量は一般に乏しいので、ビタミンの給原としてほとんど考えることはできません。

(2) トウフカスの貯蔵はどのようにしたらよいか
 トウフカスは乳牛・肉牛・ブタ・ウサギなどの飼料として利用されているが、現在は主として生のまま利用されることが多いのです。
 生のものは夏には特に腐りやすいので、できたものはなるべく早く利用するようにしなければなりません。
 一時に多量に確保した場合は、これを貯蔵しなければならず、そのためには他のカス類と同様に、乾燥するか、サイレージ化することになります。
 一般には、普通のトウフカスは乾燥品にされることは少ないがダイズカスを原料にしてダイズタンパク質を製造したカスは乾燥されて、乾燥トウフカスとして市販されているものがあります。

(3) トウフカスは乳牛にどのように与えたらよいか
 トウフカスは前に記したように、生産工場の近くで、生のままブタ・ウサギ・乳牛に利用されることが多い。
 畜産試験場で、トウフカスの産乳飼料としての価値を知るため、オオムギとこれを比べた。すなわち両者のタンパク質量を同一にして、これを乳牛の基礎飼料に添加して試験を行ないました。オオムギ1kgの代わりにトウフカスを1.7kg与え、泌乳盛期を過ぎた乳牛を供試牛としてその影響を調査した結果、トウフカス期には、オオムギ期よりも乳量は減少しました。これに反して脂肪量は増加し、牛乳の比重はほとんど差がありませんでしたが、この結果からトウフカスの産乳飼料としての価値は、オオムギの50%強でした。

(4) トウフカスを与えたときのいろいろな問題点は
 トウフカスを与えると、泌乳量は増加するようであると一般にいわれています。しかしこれは酪農家の感じで、今日のところ科学的に証明されたものはないようです。対照を何にするかが問題であって、オオムギとの比較では、前記のようにオオムギの半分程度の価値ということになります。
 要するにトウフカスが単一で、特別な効果があると考えるよりも、乳牛飼料のバランスをとるために使われる1種の飼料と考えるほうが間違いが少ないように思われます。

6 糞尿処理対策

 酪農経営は規模拡大が進み1戸当りの飼養頭数が多くなると、それにつれ糞尿処理が重要になります。それは労働力の不足、処理方法、堆肥の圃場還元が困難等の多くが問題となります。
 この対策として糞尿処理が容易で省力化できる畜舎構造や処理施設が必要です。一方、堆肥の利用者からは良質な完全に腐熟した有機質肥料が求められています。
 そして糞尿の処理として乾燥、発酵、液の浄化の技術は開発され、最近急速な進歩をとげ、今後は更なる合理的な省力化された方法が開発されると思います。
 そこで今後は生産された堆肥は有機質肥料として自家利用は勿論ですが、他の耕種農家との連携のもとに利用促進を図ることが大切です。
 これらを推進するためには各種、環境整備の事業を取り入れ実施することを念頭に入れておくべきです。

7 牛群検定の推進

 今からの酪農は消費拡大の視点から生乳の品質向上が強く求められます。量より質、特に乳成分の改良が極めて重要となります。
 その改良は雄牛だけ進められるものでなく、雌1頭1頭について何処を改良すべきか、血統、体型、能力等の正確なデーターをできるだけ集め、研究と努力が必要です。能力の優先は当然だが、能力を支える土台としての体型や交配の時の血統の把握が重要です。特に改良部位の遺伝率を知り、改良しやすい部位の選定が必要です。
 そして検定の目的は、その結果を見ながら飼養管理の改善、乳量や成分率の向上、資質の改良等を目指すもので、次の事を行います。
[1] 雌牛の選抜淘汰
[2] 各牛の搾乳量の多少に合わせ給与飼料の適正化
[3] 各牛1頭1頭の健康状態、疾病、泌乳ステージの掌握
[4] 繁殖管理の適正化(授精、妊娠、乾乳、分娩等)
 牛群検定の事業は昭和49年に開始され、当時全国では5,729戸の検定農家と17,231頭の検定牛であったが、10年後には、17,581戸と447,754頭で、戸数3倍、頭数で5.5倍に普及拡大され、全国経産牛頭数の33.9%の検定普及率となった。その普及率は北海道の60.9%に比べ、府県ではまだ20.6%と低い値を示した。しかしその間、平均乳量は10年間で約1,000kgの伸びを示した。そして20年を過ぎた平成6年度では、ホルスタイン種、1頭あたり(乳用牛群能力検定成績)年間乳量は全国平均で8,209kgと、初めて8,000kgを突破しました。
 検定農家比率は全国で32.3%に達し、道県では多くて北海道で57.2%、中国5県で広島県が最も多くて53.3%、次いで島根県42.6%、鳥取県36.4%、岡山県35.7%、そして山口県20.0%です。
 ついで検定牛比率は全国で43.3%で、その中多いのは北海道で65.3%、中国5県では、広島県62.9%、島根県39.9%、鳥取県54.7%、岡山県41.1%、そして最後に山口県の30.4%になっています。山口県はこの普及はこれからといった所です。
 今後の山口県の酪農は泌乳量アップは勿論ですが乳質向上にも努力が必要で、これは牛群検定事業を通じて実施すべきと考えています。

8 削蹄の実施

 削蹄師協会の資料によると実施前と実施後では泌乳量は最高22.3%、最低でも1.6%、平均10.1%の増加率が報告されています。繁殖成績についてもかなり良い効果があることは承知のことです。(表10)

表10 削蹄前と削蹄後の乳量の変化(日本削蹄師協会誌)
実験前 削蹄前(kg) 削蹄後(kg) 増加率(%)
No.1 11.70 14.36 22.3
No.2 15.23 16.50 8.3
No.3 17.25 19.13 10.9
No.4 28.50 30.90 8.4
No.5 15.26 16.58 8.6
No.6 15.11 16.54 9.4
No.7 16.91 18.49 9.3
No.8 15.98 18.19 13.8
No.9 14.21 16.46 15.8
No.10 15.00 15.24 1.6
No.11 13.43 14.03 4.5
平均 16.23 17.86 10.1

9 疾病の予防(特に産前産後に起こりやすい病気と症状)

表11

   症状






病名
食 欲 体 温 脈 拍 呼 吸
























































そ の 他
































乳   熱               分娩後3日以内多い
瞳孔反射が弱い
ケトージス          尿中にケント体検出
産 前 後
心臓衰弱症
              
産 前 後
後躯麻痺
             
食   滞                  
急性乳房炎               
産 褥 熱                 
急性肝炎                 
熱 射 病                

(註) ○健康牛の成牛の直腸温は38.0〜39.0℃が普通で子牛は0.5℃位高い
○健康牛の成牛の脈拍数は60〜80、子牛では80〜120/分である
○健康牛の成牛の呼吸数は10〜20、子牛では20〜30/分である

平成8年度発生の多かった疾病は[1]起立不能症 [2]卵巣のう腫 [3]胎盤停滞 [4]乳房浮腫 [5]乳熱 [6]乳頭損傷 [7]壊疸性乳房炎 [8]前膝と飛節の病気 [9]蹄の病気 [10]ピンクアイ他前年度発生の多かったケトージス、第4胃変位の発生もあった。

10 ET及びF1の利用
 初産牛の難産防止には黒毛和種でのF1生産が望ましい。

表12 分娩難易度(難産発生率)
  対象頭数(頭) 難産発生率(%)   対象頭数(頭) 難産発生率(%)
S51年 30 17.9 S60年 30 23.3
S52年 30 10.3 S61年 30 16.7
S53年 30 10.0 S62年 30 10.0
S54年 30 10.0 S63年 30 3.4
S55年 30 10.0 H1年 30 0.0
S56年 30 17.2 H2年 30 9.1
S57年 30 16.7 H3年 30 16.7
S58年 30 23.3 H4年 30 5.5
S59年 30 16.7 平均 510 12.8
 高泌乳牛へと遺伝的に改良された現在の乳牛はフリーマン等が行った約8万頭例の調査では初産牛に28%、経産牛に15%は助産を必要とし、死産は4%となっている。日本でも助産21%、死産4%と近い数字が報告されており、一般に高能力の乳牛ほど難産が多い傾向にある。

 未経産牛の分娩事故(難産)は文献によると17年間、対象頭数510頭のその発生率は最高で23.3%、平均で12.8%発生しています。これらの発生を予防するには、未経産牛の交配雄は黒毛和種にすることが望ましい。
 ET産子は黒毛和種の良い血統であれば、生後7〜8ヵ月の子牛で、高収入があります。また生産子牛がF1でも、ぬれ子の販売価格が高いので、この実施は経営にプラスになりますが乳牛の優良後継牛の確保が必要であることから、両者を上手に経営の中にとりいれたいものです。
 乳用牛の後継牛を継続的に確保するにはF1等の生産比率は飼養繁殖雌牛の30%以下にすべきとされています。


写真17 黒毛和種ET産子
  
写真18 黒毛和種ET産子

写真19 ET双子産子
  
写真20 ET双子産子

 今後、酪農経営を安定するためにはF1子牛生産のみならず、黒毛和種のET産子の生産は勿論のこと、ETの双子生産の普及推進も方法の一つです。
 現在、畜産試験場で試験され双子の子牛が生まれています。(写真17、18)
 以上、指導のなかで問題となった課題を整理したものですが、今後この資料をもとに更なる農家指導したいと考えています。

      山口県畜産会、非常勤畜産コンサルタント
畜産アドバイザー(元島根県立畜産試験場長)杉 山 利 夫 



著 者 略 歴
略 歴    山口獣医畜産専門学校修了

島根県益田家畜保健衛生所  技術員

島根県津和野家畜保健衛生所 主 任

島根県立畜産試験場     酪農科長

島根県出雲家畜保健衛生所  指導課長

島根県益田家畜保健衛生所  所 長

島根県立畜産試験場     次 長

    同         場 長

   平成2年3月 定年退職



参 考 書 及 文 献
繁殖について デイリージャパン社
ボディコンディション ホルスタインの広場(ホル協)
ビタミンのはたらき 酪農事情
   新しい飼養標準
   酪農雑誌
トウフカス カス類飼料と給与法(養賢堂)
乳成分  
 無脂固形分 酪農参考書
 暑熱対策  
硝酸態窒素 星家畜株式会社(簡易定量器)
削蹄 削蹄協会誌
疾病の予防 酪農参考書


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