酪農家巡回指導、現状のとりまとめ
 今年は、県下37戸の酪農家を巡回しボディコンディション(B・C)と泌乳量アップを目標に指導しました。
 そして繁殖問題から、泌乳、飼料、糞尿処理等々、問題と思われる各課題を項目別に記述することにします。その現状は以下のとおりです。


1 繁殖障害

 最近の厳しい酪農情勢のなか酪農家の皆さんが平成8年度一番苦慮されたのは、繁殖問題ではなかったかと思われます。一年一産を大目標に努力されているものの、高泌乳を求めるため改良とそれに合った適正な飼養管理が守られず、分娩間隔が長くのびている牛を飼育している酪農家が多かったように思われます。
 分娩が伴わなければ、泌乳現象は起きないが、この現象には、その前に妊娠という現象があり、さらに妊娠には授精が前提条件であります。その授精を可能とするのは雌牛の発情現象です。発情、授精、妊娠、分娩の現象を一口に繁殖といい、繁殖能力のない牛は、いくら体積があり泌乳能力の高い乳牛でも淘汰の対象となります。そんな牛を飼養していては酪農経営は不安定となります。
 まず経営を安定させるためには飼養している各乳牛が順調に繁殖のサイクルを繰り返すことが、必須条件です。
 勿論、中には各個体で一年一産を実施している酪農家がありますが、やはり牛群全体(飼養経産牛)としての成績が一番大切であり、それが経営をプラスにするのです。
 今回の巡回でまず感じたことは、繁殖障害とは性殖器の疾病であることは勿論ですが、この原因が管理や飼料給与等の要因、つまり栄養障害からくる繁殖障害が多かったように思われ、いかに十分な飼育管理が酪農経営の安定につながるかがいえます。

2 ボディコンディション(B・C)

 平成7年と8年の約2年間に巡回した県下、37戸の酪農家を対象に、年に1回ないし、2回ボディコンディション(B・C)を実施しました。個体それぞれの条件を考えての評価は出来ませんでしたが、平成7年度と平成8年度の数値を見ますと若干数値が違っています。一概に言えない所があり、巡回当日の搾乳牛率または牛群の泌乳量や分娩間隔によってもかなり違いますが、泌乳最盛期(3−)を写真1・2、泌乳期(3+)を写真3・4、乾乳期(3+〜4−)を写真5・6、なお、写真7は評点(4)、写真8は評点(2+)を示しこれらを目安として実施しました。


写真1  評点(3−)

   
写真2  評点(3−)


写真3  評点(3+)


写真4  評点(3+)


写真5  評点(3+〜4−)


写真6  評点(3+〜4−)


写真7  評点(4)

写真8  評点(2+)


 (B・C)実施のメリットは、これをすることで無駄な飼料給与しなくてすみ、つまり飼養管理の低コストにつながります。
 今回の調査で数値だけで見ますと、平成7年度は(4−)が総平均値で19.4%、地区では西部地区が24.0%と、ややオーバー気味の牛が多かったようですが、平成8年度では総平均で(4−)が8.0%、地区で東部地区が10.0%と前年に比べて少ない数値でした。特に乾乳期の(B・C)が分娩後の状態(例えば疾病に関連する)に関連すると言われています。
 平成7年度と平成8年度の各地区別の平均値、及び全体の平均値は表1の通りです。

表1 ボディコンディションの地区別平均値(H7〜8年度)
  平成7年度 平成8年度
    評価値
地区
(2+〜3+):(4−) (2+〜3+):(4−)
全地区の平均% 80.6:19.4 92.0:8.0
東部地区 〃  84.6:15.4 90.0:10.0
中部地区 〃  76.5:23.5 92.0:8.0
北部地区 〃  85.2:14.8 92.0:8.0
西部地区 〃  76.0:24.0 93.0:7.0


 従って搾乳牛率85%以上、高泌乳の乾乳牛(B・C)・(4−)を目安にした場合、(4−)が15%位あっても良いと思われます。(平成8年度)
 牛は胎児の栄養補給、そして次期泌乳期への体力回復と養分蓄積を行うので過肥にならない程度に(B・C)を整える必要があります。
 文献によるとアメリカの専門家は、乾乳期の(B・C)は3+〜4−の範囲が最適であり、特に分娩時は牛が痩せていない限り、乾乳期と同じ評点を保つのが良く、乾乳牛で体重を落とすのは、母体や胎児に良くないと記載しています。そしてそれ以上体重を増やさないようにすることが大切としています。
 つぎにイギリスでは分娩時の(B・C)が2+〜3−の牛が、期待の乳量値を上回る検定成績を出し、評点2の牛で概ね期待乳量が並で、評点2未満、或いは評点4以上が期待乳量を著しく下回った。総じて(B・C)3〜4の牛が泌乳最盛期の1日当たり乳量が多く、且つ総乳量が多いという説があります。

3 泌乳量

 受胎成績が良く毎年分娩し、乳牛が持っている泌乳能力を100%発揮させることが出来、さらに永い年月を健康で働かせることが、泌乳牛に対する根本的な酪農経営の基本であります。
 それが今回の成績(表2)で搾乳牛1日1頭当たりの泌乳量は、搾乳牛30頭以下の飼養農家では28kg〜30kg以上。また搾乳牛30頭以上の飼養農家では25kg〜28kg以上の泌乳量が望ましいと思いますが、巡回農家の実態を見ますと、巡回当日の搾乳牛1日1頭の平均泌乳量は30頭以上の搾乳牛飼養農家14戸で、1頭当たり泌乳量24.9kg、30頭以下飼養の酪農家22戸で1頭当たり泌乳量24.4kgの実績でした。

表2 巡回酪農家当日泌乳実績(平成8年度)
No. 経産牛 搾乳牛 平均搾乳牛
泌乳量
1戸当り
搾乳牛率
  (頭) (頭) (kg) (%)
[1] 53 44 25  
[2] 52 46 23  
[3] 52 45 21  
平均 52.3 45 23 86.0
[1] 42 37 24  
[2] 44 43 30  
[3] 41 32 23  
平均 42.3 37.5 25.6 88.2
[1] 34 32 27  
[2] 36 33 23  
[3] 30 29 26  
[4] 34 33 24  
[5] 30 26 27  
[6] 34 32 27  
[7] 36 35 28  
[8] 31 25 28  
[9] 38 31 26  
[10] 36 32 26  
[11] 31 25 23  
[12] 32 25 26  
[13] 35 27 24  
[14] 31 24 29  
[15] 35 30 22  
平均 33.5 29.2 25.7 87.2
No. 経産牛 搾乳牛 平均搾乳牛
泌乳量
1戸当り
搾乳牛率
  (頭) (頭) (kg) (%)
[1] 25 23 27  
[2] 25 20 28  
[3] 29 27 22  
[4] 24 19 22  
[5] 21 19 25  
[6] 21 18 29  
[7] 20 17 24  
[8] 28 24 23  
[9] 22 19 21  
平均 23.8 20.6 24.5 86.6
[1] 15 13 20  
[2] 14 12 24  
[3] 10 9 23  
[4] 15 14 16  
[5] 13 9 25  
[6] 19 13 25  
平均 14.1 11.6 22.1 82.3

4 乳  質

 乳質は高い農家で脂肪率が4.1%、無脂固形分率が8.8%、低い農家で前者が3.6%、後者で8.3%と差があり、体細胞は良いもので5万、最も高い数値で88万で、16戸で平均26.9万と、やや高い値を示していました。原因として考えられることは潜在性慢性乳房炎の発生がある事は認識しているが、治療及び淘汰が出来ない農家がありました。慢性乳房炎の原因としては、搾乳技術及び搾乳機械(空しぼり)の失宣は勿論のこと乳房の清潔衛生、搾乳前の乳房洗浄及び搾乳後の処置を(デツピング)を確実にすることが必要です。


  写真9 安全で衛生的な牛乳生産

5 自給飼料(良質粗飼料)

 給与飼料の乾物で30〜40%は良質粗飼料給与が望ましいことは酪農家の皆さんがおもっておられる事ですが、いろいろな事情で一部の酪農家がほ場を確保し栽培をされている状況です。(写真10)

  写真10 良質粗飼料生産
 良質粗飼料を適正に給与されている酪農家では、個体は健康で繁殖成績も良好です。しかし乾草を或る程度、給与しているにもかかわらず、一般的に言われる個体の各種の代謝障害等(潜在性乳房炎、軽度の繁殖障害、下痢、便秘等)の発生があります。1例ですが或る地区で調査の結果、硝酸態窒素量が検出されています。調査はST式硝酸態窒素簡易定量器を用いて実施されたものです。(表3)(詳しくは指導概況参照)
 硝酸塩を多量に含有する草を与えるとビタミン欠乏が発生しがちとなり、後産停滞、乳房炎、繁殖障害、低酸度二等乳、起立不能等がしばしば発生し乳量が減少する場合が多いと言われています。
 今一つトウフ粕給与ですが、巡回酪農家の中にはここ数年給与している農家と平成8年より初めて給与した農家がありました(無料で運んでくれる)。給与の効果等は、いろいろ言われていますが給与についての注意として次の事を参考にして下さい。
 (1) 良質粗飼料の一定給与
 (2) ミネラル・ビタミンが不足しやすい(補給)
 (3) 年間一定量の給与(限界)2〜3kg(1日1回)
 (4) トウフ粕給与の切り替え方法(徐々にやる)くわしくは指導概況参照

表3 各草種の硝酸態窒素量検査成績
検 査 材 料 硝酸態窒素量 備 考
カッティングクローバー 100〜200ppm H8.10.22
ヘイキューブ 50ppm
スーダングラス 100ppm
オーツヘイ 0
バミューダグラス 20ppm
ヘイキューブ 100ppm H9.1.
註 1日投与生草量で20〜40kgで
  20〜 50ppm→潜在性乳房炎
  50〜100ppm→軽度の繁殖障害、乳房炎
  100〜200ppm→各種代謝障害
} の発生があると言われています。

6 糞尿処理

 環境保全の上から1年1年と厳しい状況の中、酪農家の一番頭の痛い、又は避けて通れない問題です。処理としては圃場に還元が出来ない農家は、堆肥盤を利用し、(少なくとも6ケ月堆積)良質の堆肥として耕種農家との流通が一番です。共同での堆肥センターの設置もありますが、ある農家では、リースで機械を借り糞尿(堆肥)を田んぼまで運びすき込みを実施し稲ワラを持ち帰っており、その経費を若干耕種農家に負担してもらっている農家もありました。今後は良質堆肥を生産し流通に乗せることにより少しでも経営にプラスになるようにしたいものです。
 特に地域ごとに、共同施設で処理するのが一番良いと思われます。その点で下関地区で行われている共同施設が順調にゆくことを期待しています。(写真11、12。補助事業によるふん尿処理施設・下関地区)


   写真11 堆肥の搬入

   写真12 堆肥処理

写真13 堆積発酵による良質堆肥
    の生産(豊浦地区)

7 牛群検定

 牛群検定実施のメリットは、前回に述べましたように、飼養管理の改善や個体の改良のためのものですが、特に最近の授精はF1や、ET(和牛)を利用することにより後継牛の確保がむつかしくなることもありますので、系統のわかった能力の良い乳牛を得るためにも検定を実施し、授精する種雄牛を選択することが経営上からも有利になると思います。本県でも今年の乳用雌牛遺伝能力評価報告で全国72位、都道府県では7位になった個体所有者もあります。

8 削  蹄

 削蹄の実施は個体管理の上からも十分に必要な事は酪農家の皆さんが認識されているのですが、1年に2回は実施することが望ましいと思います。せめて1回は実施されていると思いますが、削蹄師の都合で若干期間が延びている農家がありました。(写真14、15)
 運動が適度で、運動場内の土質が、硬軟両方であれば蹄は適度に摩滅するものですが、蹄が伸び過ぎたり、不正形になるのは、運動の不足と、土質の硬軟によるものです。蹄が不正形になると牛は起立や歩行が不自然になり、余分な神経を使い肢蹄に不自然な重さをかけるので体型を崩し、これが著しく進むと牛は体重を減らして負担を軽減することから、食欲が減退しはじめ、ひいては乳量の低下という悪影響をおよぼします。

 
写真14 削蹄した牛   写真15 過長蹄の牛

9 疾  病

 飼養管理の失敗と不適正な飼料給与から発生する疾病は、特に繁殖障害につながる卵巣疾病が多く、他には起立不能症が多かったようです。起立不能症、乳頭損傷乳房疾患、卵巣のう腫、飛節関節疾患、蹄の疾患、珍しい疾病ではピンクアイ(眼病)、胃疾患では第四胃変胃は昨年より減りましたが下痢は各地で発生があり、なかには飼養頭数全頭に感染し食欲はあるものの、乳量がかなり落ちた酪農家がありました。

10 ETおよびF1の利用

 日本家畜人工授精師協会の調査によると、和牛のF1は乳雄子牛より高値で売れるとして、多くの酪農家は血統の良い和牛精液を利用してF1生産に取り組んでいるが、過度のF1生産は乳用牛の後継牛不足や乳牛の改良速度に影響があるのではとの指摘がありました。
 調査は平成7年の1年間と平成8年6月までの半年間の交配状況が中間集計の数値として出された。この資料によると平成7年の乳用牛への黒毛和種交配率は都府県で42.7%、北海道で9.5%で全国平均は28.5%でした。
 平成8年1〜3月期は都府県が40.7%と下がったのに対し、北海道が12.3%と増え全国平均で28.5%、4〜6月期には全国平均で29.1%に上がっています。都府県が41.5%と微増しただけでなく乳用牛の供給の基地になっている北海道でも12.3%と平成7年度より伸びました。

 写真16 酪農家でのF1子牛(おす)
 今後、酪農振興のため、乳用後継牛を継続的に確保するにはF1の生産比率は飼養繁殖雌牛の30%以下が望ましいとされています。
 巡回した酪農家の中にはF1産子(写真16)やET産子の生産を行い経営の安定を図っている農家もありました。
 また、経産牛40〜50頭飼養農家で40〜50%の育成牛を飼養している者があり、これは育成費がかなり嵩むものと思われます。
 これら哺育、育成、交配は県の育成牧場で、さらに県酪農組合の牧場では育成から授精までを世話されています。この外、北海道の牧場での育成牛管理(授精まで)も良い方法です。
 以上、平成8年4月より平成9年3月まで16地区37戸の酪農家を巡回した現状をまとめました。
 厳しい、酪農情勢のなか、各酪農家の皆さんは経営安定を目指し精進されております。平成9年度、私はアドバイザーとして3年目を迎えますが、酪農家とのコミニュケーションを密にして、(B・C)を主体に、繁殖率の向上と、泌乳量アップに努力したいと思います。今後とも関係機関・団体の皆様のご協力を宜しくお願いします。


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