----平成9年度 牛群検定とりまとめから------

()日本ホルスタイン協会 審査員 大西信雄  

1. 酪農家が求める良い牛とは

  初産8千キロは良い牛か?

  牛群1万キロで儲かっているか?

酪農家を訪問したときよく話題になるのが、 「どんな牛が良いのか」 ということです。 「初産からどんどん乳を出すのが良い」 という方もいれば、 「一発で種が止まるのが良い」 という方もいます。 奥様方は 「おとなしくて足を上げず、 たくさんの乳を出すのが良い」 といわれるのが一般的です。 いずれも現実の悩みがその答えになっているようです。

 そこで、 「初産8千キロは良い牛か」、 「牛群1万キロで儲かっているか」 ということについては、 ある方は 「そのとおり」 と答えられそうですし、 別な方は 「そうはいっても毎日の作業と神経の使い方が大変だよ」 といわれるかもしれません。 我々のように審査の仕事でほぼ1年の三分の一を牛と接していると、 様々な牛に出会うことは事実です。 確かに乳は良く出しているのですが、 初産で乳房の底面が飛節の下にまで下がってしまった牛。 また、 体はツルータイプのように素晴らしいのですが山羊のようにかわいいお乳とか。 さまざまです。 一方、 牛群として捉えたときに、 平均乳量はそこそこでも牛全体に活力があって毛艶が良く、 いかにも健康そうな牛乳を生産していると感じさせる牛舎がある反面、 数字では1万キロかもしれませんが疾病が多発して飛節の腫れがあったり、 繁殖障害が多く見られる牛舎もあります。 前者の牛群ではエサのやり方次第ではどんどん伸びる可能性を秘めていますし、 後者の場合では翌年のレベルダウンが大いに心配されるところです。

 要するに、 単なる数字でもって善し悪しを判断することは大変難しく、 中味をよく検討してこそ、 その判定が可能となります。

 

2. 牛群検定の現状は・・・こんなに戸数・頭数が減って大丈夫?

 ところで、 わが国の牛群検定は昭和50年度に始まって以降、 参加戸数・頭数ともどんどん増え、 平成10年3月末現在では全国の酪農家の約35%、 頭数では44.4%の牛が牛群検定を受けています。 検定実戸数は昭和60年代が一番多かったのですが、 酪農家戸数が大きく減少したことで普及率の数字だけは上昇したわけです。 表1では5年ごとの数字と最近の概況を並べてみましたが、 ここ数年の検定実戸数は数百戸ずつ減少しています。 一方、 検定実頭数は平成5年3月末日の56万3千頭が最高で、 その後は増減を繰り返しながら徐々に減少傾向にあります。 戸数と同様、 全国の飼養頭数が減ってきたので普及率は微増していますが、 将来が心配です。

 一方、 牛群検定成績の数字をみると表2のとおり、 昭和50年の5千8百キロの乳量が昭和52年に6千キロ台になり、 昭和60年に7千キロ台、 平成5年に8千キロ台とかなりのペースで伸びてきました。 成分率でも長らく停滞してきたものがここ数年、 乳脂率・蛋白質率とも上昇しております。 但し、 濃厚飼料給与量は年を追うごとに増加しております。 図1、 2でみられるとおり、 乳量と濃厚飼料給与量のカーブが特に北海道では近似しているのが特徴といえます。 逆に、 都府県では以前から濃厚飼料多給型であったものが、 乳成分問題で適切な粗飼料も給与されるようになり、 量・質とも安定的に伸びてきたとも考えられます。

 

  表1.牛群検定実施状況の推移(検定牛マスター10.3.31から)

年 度 組合数 検定農家 農家普及率 検定牛頭数 牛普及率 1戸当たり頭数
昭和50 107 7,631戸 4.8% 96,953頭 8.7% 12.9頭
55 205 13,833  14.4  293,409  22.5  21.2 
60 345 17,578  24.2  461,224  35.1  26.2 
平成2 349 17,287  29.2  543,176  42.3  31.4 
6 349 14,308  524,884  43.3  36.7 
7 346 13,755  34.1  528,434  43.6  38.4 
8 344 13,246  34.9  534,045  44.4  40.3 
9 342 12,720  35.2  528,512  44.4  41.5 
北海道 142 6,134  60.1  318,703  65.0  52.0 
都道府県 200 6,586  25.4  209,809  30.0  31.9 

 

  表2.牛群検定成績の推移(ホルスタイン種、2回搾乳、305日、立会検定)

年 度 例 数 1頭当たり乳量(最低−最高) 乳脂率・量 蛋白質 SNF 濃厚飼料
昭和50 6,721頭 5,826(2,004〜12,181)s 3.6% 208kg 1,889s
55 98,266  6,339(1,606〜15,922)  3.7 232 2,029 
60 210,840  7,008(1,940〜18,874)  3.65 256 8.60% 2,478 
平成2 261,670  7,798(1,756〜20,540)  3.69 288 3.09% 8.62  2,807 
6 284,066  8,209(1,566〜22,316) 3.81 312 3.14 8.64  3,001 
7 276,858  8,282(1,376〜19,887)  3.80 314 3.16 8.65  3,035 
8 276,106  8,464(1,141〜19,528)  3.82 323 3.18 8.68  3,091 
9 277,129  8,534(2,064〜22,459)  3.83 327 3.17 8.68  3,104 
北海道 168,321  8,517(2,070〜22,459)  3.85 328 3.19 8.72  2,956 
都道府県 108,808  8,560(2,064〜18,023)  3.80 326 3.15 8.63  3,334 

 

  図1 昭和50年を100とする各年次濃厚飼料給与量増減比

 

  図2 昭和50年を100とする各年次305日検定乳量の伸び率

 

3. 円滑に乳牛改良を進めるために・・・登録も欠かせない

 ここで問題とされるのが検定戸数・頭数の減少です。 ご承知のとおり、 現在の牛群検定は単なる農家での個体乳量の多い少ないだけではなく、 フィールドにおける雄牛の後代検定の役割をも担っています。 後代検定が始まった頃は各県の畜産試験場などに材料娘牛を一括買い上げ・管理し、 初産の検定成績を集計し、 雄牛の結果を出していました。 これは娘牛に及ぶ環境的な要因をできるだけ取り除くために行われた手法ですが、 後代検定にかける候補雄牛が飛躍的に増えたことと、 農家段階における環境要因を補正する統計手法が確立したために、 現在のようなフィールドにおける後代検定法になったわけです。 もちろん世界的に実施されている手法です。 そこで、 この手法でもって正確な雄牛の評価を計算するにはいろいろな前提条件があります。 その一つがいかに多くの娘牛を確保するかということです。 わが国でも計画では1頭の候補雄牛に対して36頭の検定終了娘牛を得られるように設計されています。 しかしながら、 諸般の事情で現実には平均で約28頭の娘牛数しかなく、 結果の公表には最低限5牛群15頭の条件を満たせばよいことになっています。 よく酪農雑誌で 「日本の検定済みは娘牛数が少ないので信頼性が低い」 といわれますが、 その原因が牛群検定農家戸数・参加頭数が増えない、 若しくは減少しつつあることが大きな原因といっても過言ではありません。 要するに山の裾野が広がらないと山が高くならないことと同様、 検定の場が広がらなければ娘牛を増やしたくてもできません。

 ところで、 乳牛改良と一口にいったとき、 雄牛側からは国家的な膨大な経費と時間をかけた後代検定という手法が可能になりましたが、 雌牛では交配・繁殖で得られた産子を育成し、 分娩させ、 検定を実施し、 そのデータによって選抜淘汰をするという地道な手法が現在でも確実かつ安価な手法といえます。 ET技術の普及が図られたり、 クローン技術も研究されていますが、 大多数の農家段階では人工授精がもっとも確実な方法ではないでしょうか。 その際に得られた産子をどう取り扱うかが問題です。 名無しの権兵衛で終わらせるか、 ちゃんと登録してあげるかです。

 単に生ませて、 搾って、 ハイさようなら、 という時代ならともかく、 検定の場がフィールドの後代検定の場を担っていることを考えるならば、 血縁と結びついた検定データ・審査データがあってこそ後代検定に結びつくわけですから、 生まれた時点できちんと登録の網に乗せてあげることが非常に大切になってきました。

表3.乳牛の主要形質の遺伝率

 



泌  乳  量
乳  脂  率
タンパク質率
搾 乳 速 度
0.2〜0.4
0.5〜0.6
0.4〜0.7
0.5〜0.6

受胎所要交配回
分 娩 間 隔
0.1以下
0.1以下




体     高
胸 囲、体 重
審 査 得 点
乳 頭 の 長 さ
乳 頭 の 太 さ
0.6〜0.7
0.3〜0.5
0.3前後
0.9以上
0.4前後

  表4.牛群検定における地区別・年型別成績
(平成9年、ホルスタイン種、305日、立会検定)

  年 型 乳  量 乳脂率・量 乳蛋白質率 無脂肪固形分率

   

 
7,799kg 3.81%297kg 3.19% 8.77%
8,834 3.81 337 3.17 8.65
9,106 3.80 346  3.12 8.57
9,109 3.80 346  3.11 8.53
9,026 3.81 344  3.10 8.50
8,938 3.79 339  3.08 8.47
8,675 3.76 326  3.06 8.43

 

 
7,531kg 3.86%291kg 3.24% 8.86%
8,799 2.86 340  3.21 8.75
9,161 3.85 352  3.17 8.67
9,143 3.86 353  3.16 8.63
9,030 3.88 350  3.14 8.59
8,860 3.86 342  3.12 8.56
8,626 3.78 326  3.09 8.51

現に我々が後代検定娘牛の体型調査を行う際には、 どれほど多くの同期牛を調査するかで得られた数字の正確性が高くなったり低くなったりするわけです。 また、 調査といっても、 行う内容は体の各部位を数字で表す線形審査と五大区分・決定得点の入力というように、 いわゆる審査と全く同じ内容であることから、 得られた結果は全て日本ホルスタイン登録協会に登録あるいは証明される仕組みになっています。 いわゆる補助事業という形ですが、 登録・牛群検定の実施・後代検定への協力を続けておれば、 時がたつにつれ審査データもどんどん貯まり、 それぞれの牛の特徴をつかむことができ、 その結果を交配・繁殖に使えるというメリットがでてきます。


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