山口県畜産試験場 中小家畜部養豚科 研究員 田 村 貢 一

1 ふん尿処理の現状

  「食料・農業・農村基本問題調査会答申」 (平成10年9月) にも述べられているように農業生産活動は、 本来、 自然循環的な機能を持っており、 その機能を通じて土や水等の自然環境を形成・保全し、 持続的な農業生産を可能としているため、 この機能が高度に発揮できることが必要である。 家畜ふん尿等の有機性廃棄物は、 資源として再利用できると同時に、 その利用により農業の自然循環機能を高めることができる。

 しかしながら、 特に豚・鶏といった飼料原料を輸入に頼り、 かつ堆肥を還元する土地基盤の少ない経営体ではこの循環機能が十分に発揮されていないのが現状である。 また、 生産重視の経営活動により規模の拡大に伴う環境保全面の対策が十分でなく、 結果として排泄物の野積みや垂流しといったことが問題になっている。

 畜産環境保全対策は、 家畜ふん尿の適切な処理から始まる。 この 「適切な処理」 という言葉が難しいのであるが、 環境負荷軽減に向けて個々人が真剣に取り組み、 解決する必要がある。 昨今の住宅地開発等により地域混住化が進む中で近隣の住民に悪臭や害虫発生、 河川の汚染といった形で少なからず不快感を与えているのも事実である。

 また、 景観的にも嫌悪感を感じる人も少なくないだろう。

 

2 家畜ふん尿処理に対する経営者の自覚

 人間とは不思議なもので 「見て感じる」 のとただ 「感じる」 のとでは、 かなり感じ方が違うようである。

 例えば、 想像していただきたい、 あなたがある公園にいて、 風に乗って悪臭が漂ってきたとする。 近くに2軒の畜産農家があったとしよう、 一方の農家の畜舎は薄汚れ、 家畜汚水を素堀で処理、 他方の農家は畜舎の周りに花を植え、 汚水処理施設が設置されている。 このときあなたはどちらから悪臭が漂ってきたと感じるだろうか。

 もちろん、 実際はおそらく両方の農家がそれなりに悪臭を発生させているに違いないが、 多くの方々は前者に悪い印象を持たれると思う。

 何を言いたいかというと、 つまりは経営者に自覚を持って対応してほしいのである。 家畜ふん尿については 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」 の中で事業者自らの責任において適切に処理しなければならない産業廃棄物に定義され、 使用方法も制限されている。

 家畜ふん尿をどう処理したいか目的を持って対応していただきたい。

 

3 売れるものづくり

 今までは堆肥化や水質浄化そのものが目的だったが、 これからは堆肥を作って何に使うのか、 水質を浄化して放流するのかそれとも再利用するのか、 この何に使うかがとても重要な点になってくる。 いわゆる 「使えるもの」 「売れるもの」 づくりである。

 この点をしっかり考えれば、 おのずとどういう処理をしなければならないか、 どういう処理施設が必要かがはっきりしてくるのである。

 

4 処理施設の設置

 しかしながら、 実際に処理施設をつくる場合、 注意しなければならない点がある。 ここでは、 長くなるので概要を述べるが、 経営者が把握しておかなければいけないこととして、 現状の飼養管理方法 (含ふん尿の排泄形態) や経営規模を将来変える予定はないか方針を確認しておくこと。 方針が定まっていないと逆に処理施設によって経営規模等の制約が生じてしまう恐れがあるということも十分理解しておく必要がある。

 また、 施設設置コストもばかにならない。 神奈川県畜産試験場の本多先生によれば、 「低コストなふん尿処理を可能にする前提条件として、 畜舎におけるふん尿分離をすること。 これは非常に効果的な前処理技術であり、 また、 ふん処理とはふんに含まれる水分との戦いであり、 汚水処理とは水中に含まれる汚染物との戦いである。 ふん尿混合物は、 ふん処理技術で対応するには水分量が多すぎ、 汚水処理技術で対応するには汚染物量が多すぎて、 技術的には可能であってもコスト的、 労力的な面で個々の家畜経営での実施は不可能である。」 と言われている。 私も同感である。

 

5 当場で実証した豚の汚水処理技術

 当場では、 平成4年度からの豚の汚水処理技術の検討に入り、 平成7年度にバイオリアクターシステムという一種の活性汚泥処理法で一定の浄化能力を実証した。 その後、 平成8年度に本システムの低コスト化を図る実証モデルとして養豚農家の方に協力を得て汚水処理装置を設置し、 実証展示している。

 この装置は、 使わなくなった (中古) サイロを使用して原材料費を節約した簡易装置であるが、 協力いただいた養豚農家のおかげもあり、 現在も良好に稼働している。

 豚の汚水処理は、 処理をしようとする尿汚水の量と濃度をきちんと把握し、 無理のない設計をすれば、 資材に廃品等を使用しても十分な能力を発揮してくれる。

 このように豚の汚水処理については、 一応の目途がたったので、 本年度から3ヵ年の予定で、 豚と鶏のふんを混合し、 強制発酵機による高品質堆肥の生産技術とハンドリング等利用技術の確立を目指した試験を開始した。

 一般に鶏ふんは、 N、 P2O5、 K2Oの含有率が牛ふんや豚ふんに比べて高く、 C/N比は低いため有機物が最も分解されやすいが、 水分含量が低いと十分な発酵を伴わない乾燥鶏ふんとなる。 豚ふんは鶏ふんと牛ふんのだいたい中間に位置するが、 P2O5は鶏ふんよりも多く含んでいる。

 このようなことから、 豚ふんと鶏ふんを混合して堆肥化することは製造時の水分や養分 (成分) 調整に加え、 農作物への利用の面からも合理的であると考えている。 また、 強制発酵機による堆肥化は期間が短くすみ、 畜舎等の悪臭の低減や害虫 (ハエ等) の発生抑制効果などのメリットがある。

 また、 「使えるもの」 「売れるもの」 づくりという観点から、 利用農作物別に豚ふん・鶏ふんの堆肥成分から混合比を調整したり、 機械での利用を考えたペレット化によるハンドリング性の向上、 花や飼料作物の種子をあらかじめ混入したシードペレットや堆肥を利用した芝マットの開発等堆肥の利用拡大についても検討することとしています。

 現在、 コンポスト発酵機及び脱臭槽は、 平成11年度に完成し、 試験稼働中であるので当場へご来場の機会があれば是非お立ち寄り願いたい。

 最後に、 われわれも十分検討して上記試験に取り組んでいきますが、 御意見等ございましたら遠慮なく御連絡ください。


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