山口県畜産試験場 大家畜部長 冨 岡 郁 夫 

はじめに

 牛肉の輸入自由化開始年(平成3年2月1日)の肉用牛飼養戸数・頭数は、 2,525戸、 22,963頭であったが、平成10年2月1日では、1,293戸(3年対比51.2%)、肉専用種19,760頭(108%)、 乳用種1,192頭(25.4%)、計20,952頭(91.0%)となり、 高齢化の進展等に伴い減少してきている。 特に、 自由化を機に中・スソ物の価格低下から乳雄肥育頭数の大幅な減少が見られる。

 県は「やまぐち和牛の里づくり」を肉用牛振興の柱に経営体質の強化、 流通体制の確立、 拠点生産団地の整備等によって33千頭(平成17年目標)へと増頭に向けた取り組みを行っており、 その一環として優良種雄牛の確保、 優良雌牛群の整備等、 改良面からの支援を行った。

 加えて、 子牛価格(平成8年度全国平均対比一頭当たり;雌△34,060円、 去勢△29,395円)及び枝肉価格(平成8年度全国平均対比一頭当たり;大阪食肉市場△65,633円)が全国で下位にあることから、 市場性のアップを期待する畜産農家や関係者の強い要望により「平茂勝」号等の特定種雄牛精液に加え、 平成8、 9年度に兵庫県から3頭(幸鶴、 第一福鶴、 谷照長)島根県から1頭(景清)の種雄牛を導入した。

 これらの優良種雄牛精液の利用に当たっては、 それぞれの種雄牛が持っている能力を最大限に発揮させる適正交配パターンが必要となった。

 

1. 適正交配とは

 常に肉量 (枝肉量、 ロース芯面積)、肉質(脂肪交雑)について両者の形質をバランス良く備えることが適正交配のポイントであり、 父牛と母牛の産肉能力を最大限に発揮させ得る交配をいう。

 

2. 適正交配の検討手段

 適正交配パターンを見いだすには、 枝肉成績を交配ごとに分析する必要がある。 しかし、 枝肉成績により考えられる交配について、 全てを適切に分析するには現在のデータでは不可能である。

 このため、 他県で抜群の枝肉成績を誇っている地域(産地銘柄を確立している先進地)の交配パターンを分析し、 本県の繁殖雌牛の血統構造をもとに適正交配パターンを考えた。

1)県内、 地域別の繁殖雌牛の血統構造

 (1)主な種雄牛(父牛)構成

 平成8年度時点における構成であるが、 繁殖雌牛4,635頭の父牛の数は237頭と多数であり、 雌牛群としての斉一性に問題がある。
 種雄牛別には、 表1のとおり 「義久」 号が715頭(15.4%)を占めており、 次いで「高栄」(6.3%)、「糸光」(6.0%)となっている。

  表1 主な「父牛」の構成
(頭)
父  牛 全  体 東部地域 玖北地域 中部地域 西部地域 大津地域 阿武萩地域
義  久 715(15.4) 39(12.2) 69(22.7) 175(16.2) 188(18.4) 214(16.6) 30( 4.8)
高  栄 292( 6.3) 25( 7.8) 7( 2.3) 67( 6.2) 75( 7.3) 83( 6.4) 35( 5.6)
糸  光 278( 6.0) 22( 6.9) 5( 1.6) 70( 6.5) 35( 3.4) 58( 4.5) 88(14.2)
紋 次 郎 277( 6.0) 16( 5.0) 17( 5.6) 67( 6.2) 40( 3.9) 118( 9.2) 19( 3.1)
糸 晴 波 178( 3.8) 12( 3.8) 2( 0.7) 37( 3.4) 26( 2.5) 29( 2.2) 72(11.6)
賢  深 145( 3.1) 10( 3.1) 5( 1.6) 29( 2.7) 26( 2.5) 32( 2.5) 43( 6.9)
益  高 140( 3.0) 13( 4.0) 17( 5.6) 21( 1.9) 79( 7.9) 8( 0.6) 2( 0.3)
谷  茂 127( 2.7) 5( 1.6) 12( 3.9) 30( 2.8) 17( 0.2) 54( 4.2) 9( 1.5)
宝  福 127( 2.7) 17( 5.3) 9( 3.0) 51( 4.7) 18( 1.8) 23( 1.8) 9( 1.5)
北国7の8 112( 2.4) 5( 1.6) 0( 0.0) 19( 1.8) 21( 2.1) 60( 4.7) 7( 1.1)
谷  水 106( 2.3) 7( 2.2) 19( 6.3) 10( 0.9) 46( 4.5) 15( 1.2) 9( 1.5)
角  正 98( 2.1) 18( 5.6) 20( 6.6) 15( 1.4) 15( 1.5) 20( 1.6) 10( 1.6)
父牛頭数 237 49 53 118 115 117 95

n;4,635頭(一部育成牛含む)、( )内は%

(2) 系統の構成

父牛を系統別に見た場合、表2のとおりで兵庫系(43.3%)及び島根系(31.2%)が全体の74.5%を占めている。

 なお、 大津地域で兵庫系が53.2%を占めているのに対し、 阿武・萩地域では島根系が60.6%を占め、 改良方針や地理的条件により大きな地域差が見られる。

 一方、 これら雌牛の交配パターン (父牛×母方祖父牛) では、 兵庫×兵庫が30.4%と高く、 肉質重視の指向が強かったことが伺えた。

  表2 「父牛」の系統構成

(頭)
系  統 全  体 東部地域 玖北地域 中部地域 西部地域 大津地域 阿武萩地域
兵   庫 2007(43.3) 126(39.4) 144(47.4) 435(40.3) 468(45.7) 686(53.2) 148(23.9)
島   根 1444(31.2) 102(31.9) 48(15.8) 330(30.6) 253(24.7) 335(26.0) 376(60.6)
鹿 児 島 311( 6.7) 24( 7.5) 22( 7.2) 86( 8.0) 47( 4.6) 71( 5.5) 61( 9.6)
鳥   取 284( 6.1) 15( 4.7) 17( 5.6) 83( 7.7) 142(13.9) 20( 1.6) 7( 1.1)
山   口 271( 5.8) 33(10.3) 53(17.4) 46( 4.3) 62( 6.1) 64( 5.0) 13( 2.1)
宮   崎 109( 2.4) 0( 0.0) 0( 0.0) 26( 2.4) 8( 0.8) 73( 5.7) 2( 0.3)
岡   山 91( 2.0) 0( 0.0) 6( 2.0) 45( 4.2) 4( 0.4) 29( 2.2) 7( 1.1)
広   島 59( 1.3) 20( 6.3) 14( 4.6) 24( 2.2) 0( 0.0) 1( 0.1) 0( 0.0)
大   分 49( 1.1) 0( 0.0) 0( 0.0) 1( 0.1) 37( 3.6) 6( 0.5) 5( 0.8)
そ の 他 10( 0.2) 0( 0.0) 0( 0.0) 2( 0.1) 3( 0.3) 4( 0.3) 1( 0.2)

n;4,635頭(一部育成牛含む)、( )内は頭数

 

3. 適正交配パターン

 先進地 (岩手県、 岐阜県、 島根県、 佐賀県、 大分県、 鹿児島県) の交配パターンを分析すると、 鳥取系→糸系 (島根) →兵庫系というパターンに集約できる。

 よって、このパターンを繰り返し行うことが現在考えられる中で最も信頼性の高い適性交配パターンであると思われる。

 本県の繁殖牛の血統構造をもとにした供用種雄牛精液による具体的な適正交配パターンは表3のとおりである。

 なお、本パターンに掲載した種雄牛は、精液の使用料が比較的多いものである。

 

 表3 適正交配パターン

  常に肉量(発育・枝肉量・ロース芯面積)・肉質(脂肪交雑)について考えることが、適正交配のポイント。

  A 兵庫県の雌牛には、鳥取系の種雄牛を交配する

  但し、2代祖が鳥取系の時は、島根系を交配してよい

  B 鳥取系および島根系の雌牛には、兵庫系を交配する

  雌牛が小型の時は、大型の兵庫系を交配する

  C ハーフ系の雌牛には、島根系を交配する

 

4.交配パターン別枝肉成績

 (山口県和牛共進会枝肉区成績から)

 平成元年度から10年度の間の県共枝肉区に出品された肥育牛681頭の枝肉成績を交配パターン別に区分し表4に示した。
 20パターン以上を数えるため、各パターン別の例数にはごく僅少のものもあり、単純な比較検討は出来ないが、参考にして頂きたい。

 

5.おわりに

 子牛価格や枝肉価格が全国の市場で下位にランクされている。これの要因として交配パターンがまちまちで斉一性に欠けることが指摘されており、これの改善が喫緊の課題である。各データの集積による改善は逐次行っていくが、適正交配パターンを遵守し、子牛の斉一性のアップと高能力雌牛群の整備を関係者みんなで進めたい。


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