(研究速報)
 採食性向上のための乾草の切断長について 

山口県畜産試験場草地飼料科   
専門研究員 秋 友 一 郎 

はじめに
 牛にとって草は、体調の維持増進、生産性の向上のために必要不可欠であるとよく言われるが、本来、肉食動物が主に肉を食べると同様に、牛は草が主食である。
 一方、多くのエネルギーを摂取させて牛の性能を極限まで引出し、利益を得ようとするのが現代の畜産業であり、この世界では、高エネルギーの穀物などを食わせた上で、辻褄合わせのように草を食わせているようにみえる。そこで、本来牛が腹一杯食べたいと思っている「草」を食べさせる色々な工夫が必要になってくる。
 古くから多くの研究者がこのことについて頭を悩ましてきており、粗飼料の採食性に影響を及ぼす様々な要因が考えられている。草種・品種、成分、食べや易さ、施肥の影響、匂い等列挙すればきりがないが、その中で頻繁に論じられるのが、消化率や消化速度といった消化性に関係する要因である。
 これから述べようとする「切断長」という要因は、「食べ易さ」に大きく関係するが、ここではそれに加えて、消化性を左右する要因として考えることにする。消化性を考慮すれば、当然繊維成分も併せて検討しなければならない。

切断長毎の採食量と繊維成分の測定
 牛に対して、少しても多くの粗飼料を摂取させるため、一番手近な方法として乾草を長いままで与えるのではなく、切断して与えることが有効であることは、「食べ易さ」、「部位の違いによる選び食いの防止」等から考えて妥当である。その場合出来るだけ短く切ってやろうというのが人情であろうが、はたしてそれで採食量は増えるであろうか。

供試した乾草(1cm、5cm、10cm切断)
 筆者は3種類(チモシー、スーダングラス、バーミューダグラス)の流通乾草を用い、切断長を4段階(1cm、5cm、10cm、無切断)に設定して牛に食わせてみた。併せて各品目の各種繊維成分(粗繊維、ADF、NDF等)を測定した。
 まず最初に、乾草の切断長毎の採食性結果を示したいところであるが、それに先だって各品目の繊維分析結果を明らかにしなければならないことがわかった。乾草の繊維成分含有率が異なると、多く採食する切断長区も異なる結果となったからである。繊維成分(粗繊維)はチモシー>スーダン>バーミューダの順となった。平たくいえば、チモシーが最も硬く、バーミューダが最も柔らかいということである。
 果たして切断長毎の採食量は、チモシーでは1cm切断区を最も多く菜食し、バーミューダでは10cm切断区を最も多く採食した。スーダンはそれらの中間的結果となった。「硬い草は短く、柔らかい草は長く切ると良くたべる。」ということである。
 長く切る場合は、いっそのこと切らなければいいのではないかと思われるが、バーミューダの採食結果をみると、無切断区では、10cm切断区ほど採食していないことから、無切断では食べ易さの点で問題があるのかも知れない。
 一般に採食量は、消化率と正の相関があるといわれる。その消化率に影響を及ぼす要因として切断ということを単純化して考えてみる。牛は消化を良くするために草を咀嚼しその物理的サイズを小さくしてから飲み込むので、当然最初からそのサイズを小さくしてやる(切断する)ことにより、消化率が向上することが考えられる。しかしそれにより咀嚼行為が抑制され、ルーメンヘの唾液の流入量が減少して消化作用が低下する。このように考えていくと、粗飼料にある程度の物理性が必要であることが理解できるが、ここで切断長だけでなく、繊維含量も物理性に大きく寄与していることに注目しなければならない。すなわち、繊維含量の少ない(物理性不足)粗飼料を短く切って与えると、総体的な物理性は大幅に低下し、消化管が十分機能しないために消化率を低下させることになる。従ってそのような粗飼料はある程度の物理的サイズ(長さ)を必要とする。逆に、繊維含量の多い粗飼料を長く切った場合、その著しい硬さのために、消化作用に時間がかかり消化率が低下する。

結果とその検討
 以上のことから、その粗飼料の繊維含量を把握すれば、何センチに切断すればよいかまではわからなくても、長く切れば良いか短く切ればよいか程度は判断することが出来そうである。
 では、「長い」とは何センチくらいのこをいうのか、逆に「短い」とは。そこで、調査データから、以下に示すように切断長と繊維含有率の2変量による重回帰式を作成して、ある程度数値として把握できるようにしてみた。
採食量kg=11.09−0.03×(切断長cm)
        −0.06×(粗繊維%)
           (r=0.396**)

 この式に粗繊維含有率と切断長を代入すれば採食量が推定できるというものであるが、切断長の値を色々変えていけば、どのくらいの切断長で最大の採食量が得られるかという判断の助けになる。
 一般的にこのような式を提示すると、その式のみにとられ、それの意味するところを考えずに数字だけが一人歩きする向きがある。そして思惑どおりに事が運ばないことを嘆くのである。ここで得られる値は、あくまでも「目安」であって、その値を基に実際に自分で給与してみて最高の採食性を示すところを模索するためのものであり、試行錯誤の手間暇を少しでも省くことを目的としたものである。
 しかしながら、実際の飼料給与現場においては、それほど細かく切断長を制御できる設備や環境が整っているところはほとんどないであろうから、この「目安」は概ね約に立つと思われる。
 最後に、やはり牛が高度の採食性を発揮するのは優良草地で放牧した場合であろう。たとえ粗末な草地であっても、少なくとも切断長での悩みは解消するであろう。



図 切断長と繊維含量による自由採食量パターンの概念図


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