(牛受精卵移植の普及)
受精卵を利用した和牛の双子生産について

山口県畜産試験場 生物工学室  
  主任  市 野 清 博 

 牛の生産効率を上げるため、古くから双子生産が試みられている。その方法として、双子になりやすい牛の遺伝的選抜やホルモン剤により多胎を誘起する方法などが行われてきたが、近年、受精卵を利用した方法が注目されるようになった。今回は、受精卵移植による双子生産について説明する。
 この方法には、追い移植と2卵移植の2つがある。追い移植とは、発情時に予め人工授精を実施し、発情後7〜8日目に受精卵を1卵、黄体と反対側の子宮角へ移植する方法で、当場の成績では、受胎率72.0%、受胎頭数に対する双子分娩率は38.9%であった。また、2卵移植とは1度に2卵を子宮内に移植する方法で、発情後7〜8日目に黄体が形成された子宮角に2卵移植する片側2卵移植と、両方の子宮角に1卵ずつ移植する両側2卵移植がある。それぞれの成績は、片側2卵移植では受胎率63.6%、受胎頭数に対する双子分娩率は28.6%、両側2卵移植では、それぞれ50.0%と20.0%であった。このように受精卵を利用すれば、自然界において0.1%程度である黒毛和種の双子発生率を20.0%以上と飛躍的に向上させることが可能であるが、実施するに当たっては次のことに注意する必要がある。

受精卵移植による双子生産方法


一卵性双子  まず、受卵牛は大型で繁殖性が良く、泌乳能力の高いことが必要である。双子の場合、流産や分娩事故等の発生率が高く、また、虚弱子や生時体重が小さく発育がやや劣る傾向にある。このため大型で繁殖性・泌乳性の良い牛を用いることにより、流産、虚弱子をある程度防止し、生時体重及び生後の発育を改善することができる。実際、ホルスタイン種を受卵牛として用い、35kgと28kgの双子の雌を正常分娩した例を認めている。

 つぎに双子妊娠牛の栄養管理、分娩看護を十分に行うこと。双子妊娠の場合、妊娠後期における栄養の不足が生じ、分娩期の損耗も増加すると考えられており、栄養水準を高くすることにより、流産・死産をある程度防ぐことができる。
 分娩に関しては、双子の場合、妊娠期間が平均281.5日(276日〜286日)と短い傾向があるため、少なくとも分娩予定日の10日前から注意が必要である。分娩事故のほとんどは、分娩に立ち合いが出来ず、逆子等の分娩介助や虚弱子の看護の遅れによる人為的なものが多く、注意すれば防ぐことが可能である。
 また、双子の発育については、哺乳量の影響が非常に大きいことから、前述のとおり泌乳性の良い牛を受卵牛として用いるか、一子を人工哺育することにより、十分な発育が得られると考える。
 さらに移植方法は、利用目的に合わせて選択することが必要である。追い移植は、産子の登録ができないが、2卵移植に比較して受胎率・双子分娩率が高いため、登録の必要のない肥育素牛生産を目的とするのも1つの方法である。
 なお、双子の性が異なる場合、雌はフリーマーチンになる可能性が高く、繁殖には利用できないという問題があるが、2分割受精卵、性判別した受精卵や核移植(クローン胚)を利用し同性双子とすることにより防止可能である。
 以上のことから、受精卵を利用した双子生産は、十分な飼養管理や分娩看護により、流産、分娩事故率の低減を図り、哺育育成に注意すれば、生産性の向上に有効な方法である。

受精卵を利用した双子生産
移植方法移植頭数受胎頭数
(受胎率)
流産頭数
(流産率)
分娩頭数生産頭数(生産率)*
(双子分娩率)**
分娩状況
双子単子双子単子正常虚弱
追い移植
 
25
 
5
(72.0)
5
(20.0)
7
 
6
 
13
 
14
 
6
 
20
 
(111.1)
(38.9)
16
 
4
 
片側2卵
移  植
22
 
14
(63.6)
3
(21.4)
4
 
7
 
11
 
8
 
7
 
15
 
(107.1)
(28.6)
11
 
4
 
両側2卵
移  植
20
 
10
(50.0)
3
(30.0)
2
 
5
 
7
 
4
 
5
 
9
 
(90.0)
(20.0)
8
 
1
 
注)受卵牛は、黒毛和種と無角和種
  *:生 産 率(%)=生産頭数/受胎頭数X100
 **:双子分娩率(%)=双子分娩頭数/受胎頭数X100
山口県畜産試験場(試験実施:平成元年〜平成4年)


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