研究速報
ハーブを利用した合鴨特有臭の抑制

小林 清敬

 近年、 合鴨を水稲作に利用する合鴨水稲同時作が脚光を浴びている。 この農法では合鴨による雑草防除、 害虫駆除、 養分供給等の効果があるとされているようだが、 問題点がない訳でもない。 そのひとつに水稲作で役目を果たした合鴨そのものの利用が挙げられる。
 合鴨の利用については、 さらに二つに分けられる。 それは、 @鶏に比べて脱毛が煩雑なことと、 A合鴨をどのような形態で消費するかである。
 合鴨の脱毛 (毛抜き) が鶏より手間がかかることが合鴨を流通させる上で最大のネックになっている。 現在、 一番効果的な脱毛法は、 パラフィンや松ヤニ等を用いたワックスピッキング法ではないかと思われるが、 鶏の脱毛に比べるとかなりの労力が必要である。
 二つ目の問題の合鴨の消費形態に関しては、 鍋料理やその他の料理の素材に利用されるものが多いのではないかと推測される。 合鴨水稲作の利用体系上、 合鴨の仕上がり時期は、 秋から冬に集中するので、 生肉として消費できないものは、 肉の凍結や加工による保存が必要となる。



合鴨を加工する際の注意点

 合鴨肉を加工する場合には、 脂肪融点が低いことと合鴨独特の臭いに注意しなければならない。
 合鴨の脂肪が融ける温度 (脂肪融点) は、 ブロイラーと同じ28℃程度である。 これは肉加工品に適している豚の脂肪融点の39℃程度 (いずれも皮下脂肪) よりかなり低い。 この脂肪融点が低いと食品を口に入れた時に脂肪が融けた状態に近いので、 ベタベタとした感じがして好ましくないし、 ソーセージのような細切り製品では製造管理が難しい。
 従って、 鶏肉を材料にしたチキンソーセージでは、 通常、 脂肪の多い鶏皮は除き、 代わりに豚の背脂肪を加える。 ただ、 この場合は、 製品の風味は、 豚肉に近いものとなる。
 また、 そのものの風味を楽しみたいとすれば、 合鴨でも脂肪を除く方向で加工法を考えなければならない。 鶏では脂肪をうまく減らす加工法、 つまり、 くん鶏という製品があり、 合鴨でも立派なくん製ができる。
 一方、 合鴨には特有の臭いがあるとされ、 実際、 当場で試作したくん製にもこの臭いが残った。 臭いの物質は不明であるが、 対応策について成果が得られたので、 以下、 その概要を紹介する。



ハーブを利用した合鴨の加工法

 結論から言えば、 加工品 (中抜きの合鴨を加熱した製品) 製造に用いる塩せき液 (食塩7%、 砂糖4%、 結着剤1%、 化学調味料0.1%、 発色剤0.1%) にベイ、 セージ、 ローズマリーのいずれかのハーブを、 0.5%以上添加すれば合鴨の特有臭を抑制できることが判った。
 製造工程は、 図1に示すとおりで、 試験では臭いの判定をし易くするために、 くん煙処理をしなかった。

 塩せき 
 3℃、1週間、ハーブ添加
   
 ボイル 
 70℃、60分間
   
 乾 燥 
 60℃、210分間
   
 冷 却 
 3℃(冷蔵庫)

 図1  試験での製造工程


 調理分野では、 魚類や肉類などの矯臭、 脱臭を目的としてスパイスやハーブが使用される。 そこで、 県内で栽培されているもの、 一般的に肉料理に使用されているもの、 入手が比較的容易なものという条件から、 ベイ、 セージ、 ローズマリー、 オレガノ、 レモンバーム及びタイムの6種類のハーブ (乾燥品) を使用して、 合鴨の試作品を図1の工程で製造した。


合 鴨 の 料 理


 官能検査による判定では、 前述の3種類のハーブが合鴨の臭いの抑制にはよく効いた。
 また、 添加量を検討したところ、 塩せき液にハーブのどれか1種類を0.5%以上添加すれば、 ハーブ香を付与し、 合鴨の特有臭をほぼ抑制することができた。
 この製品の保存性を検討たところ、 保存中の生菌数やカビの発生状況から、 ハーブのみを用いた製品の保存日数は、 くん煙処理したものより短かかった。 それでもポリエチレン袋による包装をした場合、 約3週間の保存が可能であった。
 ハーブ添加とくん煙処理を併用すれば保存性は向上するが、 ハーブの香りがくん煙の強い香りに消され、 ハーブ利用の効果が薄れてしまう。



ま と め

 現代では、 加工品は保存食品と言うより嗜好品的な性格も強くなった。 試験での製造工程 (図1) を参考にすれば、 合鴨の臭いを抑えて、 ハーブの香りも楽しむことのできる製品ができる。
 また、 ハーブの香りは諦めて、 保存性を求めるのであれば、 図2の様な製造工程になる。

 塩せき 
 3℃、1週間、ハーブ添加
   
 ボイル 
 70℃、60分間
   
 乾 燥 
 60℃、90分間
   
 くん煙 
 60℃、120分間
   
 冷 却 
 3℃(冷蔵庫)

 図2  合鴨加工品の製造工程(ハーブ併用)


 なお、 当試験ではハーブは1種類ずつ使用しているが、 人により香りの好みが異なるので、 2種類以上のハーブを同時に使用すると、 香りがマイルドになる。 また、 乾燥ハーブは塩せき液に添加した際、 肉に付着し易いので、 お茶用パック等を用いるとよい。
(畜産試験場 畜産加工班長)


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