研究速報
水稲作に利用された後の合鴨の飼い直し

福坂一利

 大阪府の農林技術センターを訪れた時のこと、 玄関ロビーに 「アイガモの○○試験」 と題する研究パネルが掲示されてあった。 掲示されているアイガモの写真をよく見ると、 私がイメージした有色小型の合鴨ではなく、 大阪府が育種改良した白色大型の肉専用アヒルであった。 私がアイガモの試験に初めて取り組んだとき、 アイガモは 「マガモとアヒルの交雑種で、 人間の管理下に置かれているもの」 と聴いていたので、 この疑問を大阪府の担当者に投げ掛けたが、 要領を得る回答はなかった。 しかし、 アヒルに関する飼養実績や研究実績は大阪府の方がはるかに長い。 アイガモの定義論争をこれ以上しても、 私の方に分が悪いと感じ、 割り切れなさは残ったが、 早々に切り上げた。 肉店でもアヒルの肉が、 アイガモ肉として売られている。 近畿地域ではアヒルとアイガモは、 同一の呼称として定着しているようである。

 水稲作に利用されるアイガモは、 雑草や害虫駆除を主目的にしているので、 家禽として改良されたアヒルよりもマガモの血が混じった野生種に近い方が都合がよい。 このため、 水稲作にはマガモとアヒルの交雑種が多く使われる。 そこで、 水稲作に利用されるマガモとの交雑種をアヒル (アイガモ) と区別する意味で漢字で 「合鴨」 とし、 以下水田引上げ後の飼い直し技術について述べる。


合 鴨 飼 育


飼い直し施設

 合鴨は攻撃性がなく、 餌をくれる飼い主には従順でおとなしいが、 外敵に対する警戒心は非常に強く臆病である。 さらに集団帰属性があり、 群れを作らないと行動が不安定になる性質を持つ。 これは家禽化の進んだ肉用アヒルよりも、 マガモの血が濃い合鴨の方がより顕著である。 このため飼い直し施設は、 合鴨の性質に配慮した設計が必要である。 我々は鶏と同様な感覚で施設の収容密度を高め、 糞尿処理を容易にする目的で、 合鴨を鶏の大雛用群飼ケージで飼育したが、 意に反し合鴨に落ち着きがなく平飼いに比べて発育が劣った。 これは、 ケージ飼育は群れを作る行動が制約され、 外敵が近付いた時に逃げ場が少ないことが、 合鴨の不安感を増したためと思われる。 このことは平飼いでも、 給餌器や給水器の設置に当たって配慮を要する。 人が管理しやすいように通路に面して給餌器を設置すると、 中央に設置した給餌器よりも食餌量が少ない傾向がある。 合鴨の飼育施設設計に当たっては、 合鴨が安心して行動ができ、 安心して食餌・飲水できる空間の確保が大事である。

 もう一つ、 合鴨の飼い直し施設で注意を要するのは、 給水である。 合鴨の水に対する行動が鶏と異なるのは当然のことであるが、 合鴨は水を水分補給のためだけではなく、 遊び (?) にも用いる。 このため、 給水器の水を撤き散らし床が湿りやすい。 特に、 水田から引き上げて飼い直しを行う時期は気温が高いので、 床が湿ると糞尿や敷料が腐敗しやすい。 大阪府の農林技術センターでは、 給水器の設置してある場所をスノコ張り (図1) にして、 床が濡れないような工夫がされていた。 当場はニップル式給水器に樋を併設 (図2) しているが、 床濡れ防止にはかなりの効果がある。



飼い直し飼料

 鴨類は生後の腸管発達が早く、 初期成育速度はブロイラー並みである。 ところが合鴨水稲同時作の場合、 発育旺盛な時期を水田で過ごし、 水田から引き上げられる時期には発育最盛期を過ぎている。 このため、 水田引上げ後の合鴨を飼い直しするとき、 ある程度の代償性発育は期待できるものの、 飼料の利用効率は悪く、 飼い直しに要する飼料費がかさむ。 一方、 鴨類は鶏に比べて飼料消化率が高く、 残滓類でも比較的良い発育を示すことが知られている。

 このことから、 畜試では豆腐粕や農家で生産された屑小麦またはクローバーを活用した飼料配合を行い、 飼料費の節減を試みた。 屑小麦は飼料成分を把握して、 通常の穀類同様に用いれば何等問題ないが、 豆腐粕は水分が多く夏季は変敗しやすい。 このため毎日新鮮な粕を入手できない場合は、 変敗防止の工夫が必要である。 畜試では豆腐粕に屑小麦、 二種混、 脱脂米糠、 ミネラル、 ビタミン剤を加え、 水分57%のサイレージに調製して給与した。 水分調製してあるので貯蔵性も良く、 鶏大雛用飼料と遜色のない発育を示した。 これら低利用資源の活用は、 運搬や配合に労力を要するが、 労力経費を算入しなければ飼い直しに要する飼料費は鶏飼料の半額で済んだ。 今後、 飼料費節減のため、 利用技術の普及に努めたいと考えている。 一方、 豆腐粕の一部を赤クローバーで代替えして調製した飼料は、 飼料摂取量には差がなかったが、 発育がやや劣った。 赤クローバーの肥育用飼料としての飼料価値は、 豆腐粕より劣るようである。

 次に、 合鴨の飼料を調製するとき、 効率的な栄養水準を設定する必要がある。 先にも述べたように、 合鴨の水田引上げ時期は発育最盛期をすぎている。 このため、 栄養水準は蛋白質よりもエネルギーが重要である。 畜試の成績では、 風乾物換算値で粗蛋白質水準を14%から18%に上げても発育に差が無かった。 しかし、 代謝エネルギーを2,500kcal/kgから3,000kcal/kgに上げると、 増体性が向上した。

(畜産試験場 養鶏科長)


目次へ戻る