研究速報
堆きゅう肥の投入と作物栽培
福永 明憲

 作物の栽培、 収量の安定に有機物 (堆肥、 きゅう肥、 わら等) の投入は欠かせないものと考えられるが、 実際の現場ではその効果が判然としないとか、 場合によっては生育障害や、 品質低下をおこすことがある。
 これらは、 施用した有機物が未熟であったり、 投入量が必要以上に多量であったりする場合が多い。
 しかし、 いずれにしてもこのようなことが起こるのは有機物の効果が多面的であるため、 有機物の投入による土壌を通じて作物にどのように作用して効果を発揮するかが十分に理解されていないこともその原因であるのではないかと考える。  そこで、 堆きゅう肥の投入による効果を発揮する要因 (プラス面) と逆の効果が現われる要因 (マイナス面) について考えてみたい。



1 プラス面

 作物の生育に及ぼす土壌の要因 (地力要因) として大きく分けて化学性、 物理性、 生物性の3つがある。
 第1表に示したように、 堆きゅう肥の投入はこれら3つの要因いずれにも改良効果がある。
 化学性については、 有機物投入による養分の供給は‘ゆるやか' であり、 化学肥料による養分の供給が急激な変化を起こすのに比べ作物にとって好ましいといえる。
 次に物理性については、 堆きゅう肥の投入により、 排水性、 通気性が改善され作物の根にとって良い環境 (酸素の供給) が作られ特に畑作物ではその効果が大きい。
 生物性については堆きゅう肥の投入により土壌中の微生物の活性化を高め、 作物の根に好影響を及ぼすとともに、 病原菌 (土壌病害) の活動を抑える効果も期待できる。 しかしこの場合病原菌にたいする効果は人間に例えれば 「体の丈夫な人は風邪を引きにくい」 といった程度に考えた方がよくあまり過信しない方が良い。
 この他にも堆きゅう肥投入により作物に対して多くの効果が期待されるが、 これらの効果は一つ一つは少しずつであるが、 全体として作物の根にとって良い環境を作り、 その効果を発揮する 「マイルドな効果」 と考えて良く、 高い効果を期待して多量に投入するとかえってマイナスとなる。
 またこれらの効果は短期間で発揮されるものではなく5〜10年程度の少し長い期間で考える必要もある。 (第1図)



2 マイナス面

 マイナス面は第一に未熟な堆きゆう肥を投入した場合作物の発芽障害、 成育障害や窒素飢餓を引き起こすことかある。
 特に最近はオガクズなどの木質の堆きゅう肥が利用される場合が多く、 木質厩肥は分解が遅いので注意が必要である。
 一般的に見て十分腐熟するには、 堆肥化条件 (窒素、 水分、 切り返し等) を整えて最低3ケ月は必要で、 できれば半年以上の堆積期間が必要と思われる。
 もう一つ堆きゅう肥施用でマイナス効果を及ぼす例として、 堆きゅう肥を投入した場合堆きゅう肥中の肥料成分を考慮せず通常の施肥を行い、 結果的に過剰な施肥となり品質等を低下させる場合がある。 (第2図)



3 十分な効果を発揮するには

 このように堆きゅう肥の投入は作物にとって多くのプラス面があるが、 あまり過信したり、 効果を急いで多量に施用したりするとかえって逆効果となることもあるので注意が必要である。
 効果を十分発揮するためには@完熟堆肥 (十分堆積した堆肥) でA基準量をB継続して施用することが重要であるといえる。
(農業試験場 地力研究室長)


目次へ戻る